2016年3月、男女雇用機会均等法が改正されて、2017年1月1日から雇用主にいわゆるマタハラ防止措置が義務付けられた。前回に引き続き、「マタハラ」に関する人事個人の意識と、企業内教育の実態について探ってみる。

「家庭で子育てに専念するのが本来あるべき姿」とする回答が約2割

仕事を休みがちな妊婦・子育て中の女性に対して「迷惑」と思うのは10%台にとどまり、理解は深まっているように見えるが、これが人事担当者を対象としたアンケート調査であることを考えると、この数字は決して低いとは言えない。中堅・中小企業においては、いずれも16%にも及ぶ。社員全体での意識調査であれば、この数字はさらに高くなるものと推測される。

【図表1】妊婦・子育て中の女性は、周囲の社員と比較して仕事を休みがちなので、正直迷惑だと思うか

「HR総研 人事白書2016」企業におけるマタハラ意識調査結果【HR総研×NPO法人マタハラNet共同調査】(2)

「子供のいる女性は、家庭で子育てに専念するのが本来あるべき姿だと思う」という設問に対しては、企業規模を問わず2割近くが「そう思う」と回答している。まだまだ旧態依然の考え方の人が一定割合いるということである。

【図表2】子供のいる女性は、家庭で子育てに専念するのが本来あるべき姿だと思うか

「HR総研 人事白書2016」企業におけるマタハラ意識調査結果【HR総研×NPO法人マタハラNet共同調査】(2)

マタハラ相談窓口の設置状況は企業規模に比例する

これまでの回答を見てわかるのは、ほとんどの企業で出産・子育てをする女性に対して肯定的であることだ。否定的な意見は1割程度と少ない。
 では具体的な取り組みは進んでいるのだろうか。まずマタニティハラスメント(マタハラ)に関する相談窓口の設置について調べてみよう。マタハラに関する相談窓口の設置は企業規模に比例している。大企業では61%で設置されており、「設置されていない」は29%と少ない。中堅企業では、「設置されている」52%、「設置されていない」42%と拮抗している。そして中小企業では、「設置されている」は少数で31%にとどまり、「設置されていない」が2倍の63%である。

【図表3】マタニティーハラスメント(マタハラ)に関する相談窓口の設置の有無

「HR総研 人事白書2016」企業におけるマタハラ意識調査結果【HR総研×NPO法人マタハラNet共同調査】(2)

「マタハラに関する社員教育は行っていない」とする企業が7割

マタハラ防止に関する社員教育についても企業規模の違いが大きい。「マタハラに関する社員教育は行っていない」とする回答は全体の71%だが、規模別に見ると、中小企業で83%、中堅企業で66%、大企業では53%である。
 マタハラ教育の方法はさまざまだが、管理職研修、社員研修、eラーニング、パンフレット、経営者研修のいずれでも大手の実施率が高い。
 今回の設問では「マタハラに関する社員教育」として聞いたが、「行っていない」と回答した企業が社員教育を行っていないわけではない。コンプライアンスやハラスメントとして教育している企業は少なくない。
 「法務室発信による資料を基にした職場でのMTG(不定期)」、「コンプライアンス教育の一つのテーマとして取り上げられる」、「マタハラだけではなく、ハラスメント全般に関する管理職向け研修や全社員向けの研修を行っている」、「パワハラ・セクハラは、eラーニング全社教育とイントラへの情報提供を実施済。今後マタハラも実施予定」、「マタハラに特化したものではなく、管理職向けにハラスメント全般の研修を行なっている」。
 また特別なマタハラ教育が不要という企業もある。「社員の産休・育休予定を全社員に共有するため“皆でフォローする”という認識に繋がっている」、「風土的に男女共に育児に係る休暇を積極的に取る社風であるため、教育の必要がない」など。

【図表4】マタハラ防止に関する社員教育の実施

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「出退勤の柔軟な勤務制度が十分に機能している」企業は過半数

「妊娠している社員に対する出退勤の柔軟な勤務制度」という設問に対し過半数が「制度があり十分機能している」と回答している。しかし、業種と企業規模によって偏りがある。メーカー系はどの企業規模でも6割前後だが、非メーカー系の大企業では突出して多く、86%である。女性従業員が多く、制度化が必要であり、機能しているということかもしれない。
 
【図表5】妊娠している社員に対し、出退勤の柔軟な勤務制度はあるか

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「産休・育児休暇の制度や法律は、制度を利用する女性だけでなく、周りの社員へ周知されているか」という設問でも業種による違いがあり、「とてもそう思う」という回答は、メーカー系18%に対し、非メーカー系は24%と高い。

【図表6】産休・育児休暇の制度や法律について、制度を利用する女性だけでなく、周りの社員にも周知されているか

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産休、育休などの制度、妊娠による退職勧奨などへの誤解

女性が活躍する社会にするために作られた法律や制度がある。それらの制度をきちんと理解しているかどうかを聞いてみた。「母性健康管理制度や産前産後休業(産休)、育児休業(育休)制度の内容について」に「十分に理解している」、「まあまあ理解している」を合わせると、どの企業規模でも8割台に達している。「あまり理解していない」は10%台と少ない。ところが具体的な制度について聞いた設問では、間違った回答をする企業が多い。

【図表7】母性健康管理制度や産前産後休業(産休)、育児休業(育休)制度の内容について理解しているか

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「契約社員・派遣社員・パートなどの非正規で働く女性に対する産休の制度」では2割が「制度はないと思う」と回答している。
※労働基準法にもとづいて産前産後休業を取ることができる。

【図表8】契約社員・派遣社員・パートなどの非正規で働く女性には、産休の制度があると思うか

「HR総研 人事白書2016」企業におけるマタハラ意識調査結果【HR総研×NPO法人マタハラNet共同調査】(2)

「契約社員・派遣社員・パートなどの非正規で働く女性に対する育休の制度」でも2割を超える企業が「制度はないと思う」と回答している。
※育児休業制度の適用範囲は、育児・介護休業法に定められており、一部の有期契約労働者を除けば契約社員・派遣社員・パートなどの非正規社員であっても育児休業制度は適用される。

【図表9】契約社員・派遣社員・パートなどの非正規で働く女性には、育休の制度があると思うか

「HR総研 人事白書2016」企業におけるマタハラ意識調査結果【HR総研×NPO法人マタハラNet共同調査】(2)

「産休や育休制度が自社の社内規定にない場合、妊娠した社員に退職するよう促しても良いか」という設問に対して、数は少ないものの「そう思う」が7%あるのには驚く。時代錯誤も甚だしいと言わざるを得ない。

※男女雇用機会均等法9条3項は以下のように定めている。「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項 若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」。

【図表10】産休や育休制度が自社の社内規定にない場合、妊娠した社員に退職するよう促しても良いと思うか

「HR総研 人事白書2016」企業におけるマタハラ意識調査結果【HR総研×NPO法人マタハラNet共同調査】(2)

育児・介護休業法と男女雇用機会均等法が改正され、マタハラ防止対策が企業に義務化されたが、「負担に思う」とする企業が2割。マタハラ対策を進めてこなかった企業にとっては負担が重い。

【図表11】マタハラ防止対策が企業に義務化される見込みだが、正直負担に思うか

※本調査時期は、男女雇用機会均等法の改正以前に実施されている。

「HR総研 人事白書2016」企業におけるマタハラ意識調査結果【HR総研×NPO法人マタハラNet共同調査】(2)

職場で妊婦や育児中の女性が働きやすい職場になるために必要なこと

「妊婦や育児中の女性が働きやすい職場になるために必要なこと」についてコメントを求めたところ、目立つのは「周囲の理解」と「本人の自覚」だ。

・妊娠・育児に対する周囲の理解が重要
・育児中の社員が自身のキャリアとしてどのような働き方をしたいかを整理することと、それを受け入れる会社の制度が必要。(正社員→時短正社員、パートなど)
・周囲の配慮と本人のその自覚。周囲は配慮すべきだが、本人はそれに甘えず、就業時間中は他の社員以上に働き、たとえば急な早退でも、周囲を気遣う。そうすれば、うまくいくはず
・人を思いやる風土があれば、法令で縛らなくても、良い職場環境が築けるはず。合わせて、当事者(妊婦)側も、「自分は妊婦だから休んで当然」のような態度だと周りからの協力も得にくくなるので、妊婦という看板を前面に出した態度は慎むほうが良い

 国のサポートを求める声もある。
・子どもを保育所に預けることが出来ずに復帰できない職員が多くなっているので、育児休業給付金の給付期間の更なる延長等の補助をしてもらえると、職員はさらに安心して産育休を取得出来ると思う

 成功企業もある。
・私どもの会社では、妊娠した社員はデータが残っている過去15年で、ほぼ全員育児休暇取得後復帰しています。社内のほぼ全部署で、妊娠や育休復帰後の社員と接した経験があるため、子育て中の社員には子供の病気による急な休暇や早退、遅刻などがつきものであることも十分認識できています。またそういう社員をいたわる風土が根付いており、育児休暇も遠慮なく取得できることから、特に何か必要だとは思っていません」「すでに働き易い職場になっていると思いますが、実例の上積み、これに限ると思います

マタニティハラスメントに関する研修

マタニティハラスメントに関する研修や社内教育にもさまざまな方法や内容が考えられる。フリーコメントからいくつかを紹介してみよう。

・子供のいない社員に対して育児中の大変さを体験できるような機会があると、周囲の理解も上がると思う
・講話や文章だけでは伝わりにくいでしょうから、映像で実際に起こりうるシーンを見せ、“これが(これも)マタハラにあたるんだ”と社員に気付いてもらうことが一番だと考えます
・そもそも妊娠すると何が大変なのかが分からないから、どんな気遣いをすればいいのかが分からない部分もあると思う

複数のコメントが「男性の多くは妊娠に対する理解不足」という趣旨を述べている。

・妊婦に起こりえる体調・精神面での変調についてだけでなく、生まれた後の育児について(子供の病気の多さなど)についても理解を深める必要があると思う

調査概要

アンケート名称:【HR総研×NPO法人マタハラNet共同調査】企業におけるマタハラ意識調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)、NPO法人マタハラNet
調査期間:2016年2月3日~2月10日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:上場及び未上場企業の人事担当者
有効回答:300社

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