現在、10月以降の勤務時間数、勤務日数を減らそうとするパートタイマーが後を絶たないという。10月から厚生年金・健康保険の加入対象者が拡大されるため、勤務時間数、勤務日数を減らさないと国民年金の第3号被保険者ではいられなくなるからである。
社会保険加入基準の拡大と第3号被保険者制度

制度趣旨から“かい離”した第3号被保険者制度

元来、パートタイマーの厚生年金・健康保険の加入基準は「1日または1週間の労働時間および1ヵ月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上であること」とされてきた。しかしながら、今年の10月1日から加入対象者が拡大され、「週の勤務時間が20時間以上である」などの要件を満たす場合には加入義務が生じることになる。パートタイマーがこれらの条件に当てはまり、10月から新しく厚生年金・健康保険に加入することになった場合には、年金制度上は従来のように国民年金の第3号被保険者ではいられなくなる。

国民年金の第3号被保険者とは国民年金の加入区分のひとつであり、国民年金の第2号被保険者に扶養される配偶者のことである。典型的なケースはサラリーマンの夫に扶養される妻(以下、「専業主婦」という)が該当する。第3号被保険者には年金の保険料を自己負担する必要がなく、将来は保険料を負担した人と同額の年金を受け取れるという大きなメリットが存在する。

第3号被保険者制度は、自分の所得がないために保険料支払いが困難な専業主婦が、将来、無年金者になることを回避する目的で昭和61年 4月に設けられた制度である。具体的には、それまで国民年金への加入が任意とされていた専業主婦を強制加入の対象とし、保険料は徴収せずに、将来は「保険料を払ったもの」として国民年金の老齢基礎年金が受け取れる対象者とすることが決められた。保険料拠出能力に劣る専業主婦を社会全体で支え、女性が無年金者になることを回避しようという、社会保険の理念にかなった制度といえる。

しかしながら、第3号被保険者制度の実態を見てみると、保険料を払わずに年金を受け取る目的で意図的・計画的に勤務時間数、勤務日数を減らしているケースが実に多いと言わざるを得ない。たいへん残念なことだが、「保険料拠出能力に劣る専業主婦を社会全体で支え、無年金者になることを回避する」という社会保険の理念からは “かい離” した制度の利用実態が存在している。

「働かない方が有利になる仕組み」は除去できるのか

第3号被保険者制度はさまざまな問題点が指摘されて久しいが、あまり指摘されない問題として、国民年金の第1号被保険者の「保険料免除制度」との整合性が取れないという点が挙げられる。

第1号被保険者とは自営業の方などを対象とする国民年金の加入区分だが、経済的に保険料負担が困難な場合には保険料の支払いを公的に免除する「保険料免除制度」が設けられている。しかしながら、第1号被保険者の「保険料免除制度」は配偶者に一定の所得がある場合には利用ができず、保険料の納付が強制される。もしも、保険料を支払わなければその分、将来の年金額が減額され、場合によっては年金の受け取り自体が不可能になることさえある。これに対して第3号被保険者制度の場合には、配偶者に多額の所得があったとしても保険料の支払いが全額免除される。

さらに、第1号被保険者の「保険料免除制度」の場合は、仮に保険料を支払わないことを認められたとしても、将来受け取れる年金額は通常どおりに保険料を納めた人の “半額程度の年金” に限定されてしまう。しかしながら、第3号被保険者制度は通常どおり保険料を納めた人と同額の “満額の年金” が受給できるものである。
 
第3号被保険者の中には育児や介護の問題などを抱え、働きたくてもどうしても希望どおりには働けない方々が存在するのも事実である。このように「致し方ない問題を抱え、働きたくても希望どおりには働けない方々」が将来、無年金者になることを回避するために、その方に支払う年金を社会全体でサポートするというのは、社会保険の “あるべき姿” として大きな意義を持つであろう。しかしながら、社会保険加入対象者の拡大に伴い勤務時間数などを減らそうとする方々は、「致し方ない問題を抱え、働きたくても希望どおりには働けない方々」ではない。働こうと思えば働けるが、保険料を払わずに満額の年金をもらう目的で就労調整をする方々である。

厚生労働省は今般の制度変更の目的のひとつに、社会保険について「働かない方が有利になる仕組みを除去する」ことを掲げている。しかしながら、国が加入基準を拡大すればパートタイマーは勤務を一層減らすなどの対策をとるため、「働かない方が有利になる仕組みを除去する」のは、現行制度を基礎とする “制度の一部改正” では実現が難しい。根本的な制度改革が必要な時期に来ているのではないだろうか。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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