「いったい何度言ったらわかるんだ」
「簡単なことなのに、なんでわからないんだろう」
「わからないなら聞けばいいのに、調子よく返事だけするな」
 上司という立場に立った人であれば、一度はこんなことを心のなかでつぶやいたことがあるのではないだろうか。
 だが、ちょっと待ってほしい。これは正直な気持ちではあるが、すべて部下に責任をかぶせている内容である。部下が変わるのを期待する前に、あなた自身が指示の出し方を考えてみるのが問題解決の早道だ。
あなたの出した指示、部下に理解されていますか?

自分がわかりやすいやり方が、相手にもわかるとは限らない

 「優位感覚」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
 人にはそれぞれ自分が得意とする使いやすい感覚があり、「視覚」「聴覚」「触覚」「言語感覚」の4 つに分類される。
 「視覚優位」タイプの人であれば、言葉で指示されるより図やチャートで見せてもらったほうがわかりやすいし、「聴覚優位」タイプの人であれば、耳から伝わる口頭での指示がわかりやすい。「触覚」タイプであれば、指示は自分で手を動かしてメモしたほうが頭に入りやすい。「言語感覚」タイプは、プロセスやシステムを説明すると全体像を理解しやすい。

 指示する上司と指示を受ける部下が同じタイプであれば話は簡単なのだが、タイプが異なると互いに相手の言っていることがなかなか理解できない、という悲劇につながりがちだ。

 「どうしていつもすれ違うのか?」と思うようなときは、自分のタイプと相手のタイプを考えてみて、相手のタイプにあった指示の出し方を工夫してみよう。相手のタイプについては行動を観察してもよいし、本人に「どれだと思う?」と聞いてみるのもよい。インターネット上にもチェックリストなどが公開されているので、そういうものを利用してもよい。

 もちろんこれは、比較的どれが優位か、という話で、この方法でなければわからない、ということではない。しかし、人によって「優位感覚」が違う、という知識があれば、自分にわかりやすいやり方がそのままだれにでも通じるわけではない、ということを簡単にのみこめるのではないだろうか。

わかりやすい指示の出し方のセオリー

もうひとつ重要なのは、伝えるポイントと順番だ。

 これから説明する4つのポイントを整理してから伝えると、相手にもわかりやすく、抜け・漏れなく伝えることができる。
 
1) ゴールを伝える
まず、やってもらいたい仕事の結果や成果物と、いつまでに行うのか期限を明らかにする。過去に似たようなものがあれば、見本としてそれを示すのもよい。
「来週金曜日の会議に必要な資料を作成してほしい。前任者が作ったものがここにあるので、これを参考にしてください」

2) 狙い・目的を伝える
次に、その指示の目的を明らかにする。
目的がわからなくても仕事自体はできるので、ここは抜かしてしまいがちだ。だが、同じ仕事をやるのであっても、意味がわかっているのとなにもわからずにやるのではモチベーションが大きく違ってくる。めんどうだから、もしくは、「わかっているだろう」でここを抜かさないようにしよう。
「会議の参加者に基本となる知識を伝えて当日やるべきことをはっきりさせ、効率的に会議を行うための資料です」

3) やり方を伝える
3つめに、その仕事の進め方を説明する。
ここでは一気にすべてを伝えてしまうのではなく、相手の理解度を確認しながら、小さいステップに分けて説明すると伝わりやすい。
「営業資料はこのファイルにあるので、これをA4用紙2枚程度にまとめてほしい」
「当日のアジェンダはここにメモがあるので、見やすくレイアウトしてください」
「会議の参加人数を当日の朝確認して、人数分をプリントアウトして時間までにそろえておくように」

4) 理解したか確認し、フォロー体制を伝える
そして、最後に理解できなかった点がないか確認し、質問を受ける。
途中で聞きたいことが出てきたときに、だれに聞いたらよいのか明らかにすることで、わからないことが出てきたときにひとりで抱え込まずに、上司や先輩がフォローする体制があることを伝えることができる。
「なにかわからないことはある? 作っている途中で不明な点がでてきたら、わたしに確認してください。不在の時は、◯◯さんに聞くように」

部下に仕事の指示を出すことは、管理職の職務の基本である。
一見めんどうなようだが、指示の出し方を工夫することでムダな手戻りを防げるので、生産性にも大きな影響がある。
なにより、「部下の立場に立ってわかりやすい指示を出す」上司は、部下からの信頼を勝ち得ることができるのだ。

メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/セクハラ・パワハラ防止コンサルタント/産業カウンセラー
李怜香(り れいか)

この記事にリアクションをお願いします!