1月といえば新年会。酔ってくだを巻くサラリーマン諸氏を見かけることが多い時期である。ひとたび店に入れば、「ウチの上司は仕事ができない」「最近の若い奴は根性がない」など、職場の愚痴があちこちから聞こえてくる。
しかし、このような声を耳にするのは酒の席ばかりではない。業務時間中であっても「上司のミスを自分の責任にされた」「ウチの部下は出来が悪い」などの発言が頻繁に繰り返されている。
「自分は悪くない」という社員をどう変える

『他責型社員』を変えるのは『肯定的な表現』

 もちろん、発言の内容は事実かもしれない。しかしながら、多くの場合「上司のミスを自分の責任にされた」などの発言の裏側には、「だから私は悪くありません」という気持ちが隠れている。このように、問題やトラブルに直面したとき、「他人に原因、責任がある。自分は悪くない」と考えるタイプの社員を他責型社員という。社内には殊の外、他責型社員が多いものである。

 企業ではこのように「自分は悪くない」と思い込んでいる社員の考え方や行動を改善させ、うまく使っていかなければならない。どうすればこのような社員を変えることができるのであろうか。

相手の考え方や行動を改善させるには、『肯定的な表現』を活用することが効果的である。一般的に、相手の問題点が目に付くと、「○○をするのはよくない」「△△はダメだ」などと、頭に思い浮かべる。この「よくない」「ダメだ」は、どちらも『否定的な表現』である。相手の問題点を改善させたいと思ったら、このように頭に思い浮かんだ『否定的な表現』をそのまま口に出すのではなく、『肯定的な表現』に変えてから口に出すとよい。

 たとえば、ミーティングに遅刻した後輩に対して、「ミーティングの開始時刻に遅れたらダメじゃないか!」と言ったとする。「ダメじゃないか」は『否定的な表現』である。このようなときに、「ミーティングは開始時刻よりも少し早めに来たほうがいいよ」などと言うのが『肯定的な表現』に変えるということである。

肯定的表現なら指摘を受け入れやすい

 文字にするとわずかな違いでしかないのだが、実際にその状況になったとき、口に出して言われた際の心への響き方には、非常に大きな違いがある。『否定的な表現』で言われた相手は、指摘を受け入れ“がたい”気持ちになりやすく、『肯定的な表現』で言われた相手は、指摘を受け入れ“やすい”気持ちになる傾向にある。

 一方、『否定的な表現』は言われた相手の心を閉ざしてしまう。どんなに指摘されたことが正しいと理屈では理解できても、感情的に納得できないという状況に陥るのが人間である。

 先ほどのケースで「ミーティングの開始時刻に遅れたらダメじゃないか!」と言うと、他責型社員であれば「前の打ち合わせが、先方の都合で長引いたんです(だから私は悪くありません)」などと言い訳をするであろう。指摘を受けた相手が言い訳を口にするのは、理屈では分かっていても感情的に受け入れられない心理状態が表現された結果といえる。

 これに対して、『肯定的な表現』で言われた場合には、感情的に指摘を受け入れやすく、「次は気をつけよう!」と自らの意思で思うことが、大いに期待できる。

 『肯定的な表現』が受け入れられやすい最大の理由は、相手を責めるような言い回しにならないことにある。「ミーティングの開始時刻に遅れたらダメじゃないか!」は相手を責めているように聞こえる表現だが、「ミーティングは開始時刻よりも少し早めに来たほうがいいよ」は、必ずしも責めているようには聞こえない。それどころか、「○○したほうが、あなたにとって得ですよ」というニュアンスが含まれた表現になっている。


 業務上の必要性があるとしても、他人の考え方や行動を変えるのは容易ではない。まして、他責型社員であればなおさらである。『肯定的な表現』を辛抱強く、継続して使うことが大切である。

コンサルティングハウス プライオ 
代表 大須賀信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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