厚生年金の保険料は、毎年、9月分(10月支払い分)から支払い金額が増える。今年もその時期を迎え、企業経営に携わる皆さんにとり、頭の痛い時期が到来したといえよう。
厚生年金の保険料は社員に支払う給与の一定割合を、社員と企業が半分ずつ負担する仕組みである。割合が一定なので、給与が高い社員ほど支払う保険料も多くなる。社員数が同じであっても、給与水準の高い業界、企業ほど保険料負担が重くなってしまう。
ナゼ、厚生年金の保険料負担は増えるのか

 現在の厚生年金の保険料率は17.474%だが、1年経つごとに0.354%ずつ引き上げられることが決まっている。最終的には、3年後の平成29年9月分(10月支払い分)から18.3%で固定される。保険料率の上昇は社員の給与の手取り額を減少させ、企業の経費負担を増加させる。どちらにとっても嬉しい話ではない。

 ところで、ナゼ、厚生年金の保険料率は、年々引き上げられるのだろうか? それには、わが国が直面している「少子高齢化」が大きく影響している。

 年金制度の運営が円滑に行われるかどうかは、「制度に入るお金(保険料)」と「制度から出るお金(年金)」の量のバランスで決定される。「入るお金(保険料)」が「出るお金(年金)」よりも多ければ制度運営は楽であり、逆であれば運営は苦しくなる。もちろん、運用収益なども関係するのだが、制度の仕組みを理解するうえでは、「入るお金(保険料)」と「出るお金(年金)」の量のバランスに着眼することがポイントとなる。

 それでは、「少子高齢化」はわが国の年金制度にどのような影響を与えるのか?

 まず、少子化とは出生数が減少することであり、年金制度から見れば、「制度に入るお金(保険料)」の量が減ることを意味する。将来の働き手が減少し、制度にお金を払う立場の人が少なくなるからである。

 次に、高齢化とは年齢の高い国民の割合が増えることであり、年金制度から見れば、「制度から出るお金(年金)」の量が増えることを意味する。年金を支払う対象人数が増え、また、一人の人が年金をもらう期間が長くなるからである。

 つまり、年金制度は「少子高齢化」の進展により、年々、保険料収入が減り、年金支払いが増えるという事態に陥ることになる。「制度に入るお金(保険料)」と「制度から出るお金(年金)」の量のバランスが崩れ、年金制度の運営を困難にするのが「少子高齢化」の特徴といえる。

 そこで、「一人当たりの保険料負担」を少しずつ増やすことで「制度に入るお金(保険料)」の量を増やし、制度運営の安定化を図ろうとしているのが、現在行われている保険料率の引き上げという取り組みである。あわせて、老後の年金を受け取り始める年齢を少しずつ遅くすることで「制度から出るお金(年金)」の量を削減し、制度運営の安定化を図ろうとしている。

 わが国では他に類を見ないスピードで「少子高齢化」が進展しており、その影響は年金制度の運営に大きな影を落としている。しかしながら、「少子高齢化」はわが国の経済発展の結果であり、「少子高齢化」に起因する年金制度の不安定性は、誰かの責任を問うことで解決する性格の問題ではない。

メディア報道の中には、過度に年金制度の不安をあおり、損得勘定ばかりを論じるものが散見される。しかしながら、そのような視点に立っていては、わが国の年金制度が抱える課題の本質的な解決には至らない。

 社会保障として持続可能な年金制度の運営を行うためには、制度に対する国民全員の正しい理解と協力が不可欠である。皆が年金制度に対する「少子高齢化」の影響を、自分自身の問題として正しく理解し、さまざまな立場から建設的な知恵を出し合いたいものである。権利ばかりを主張していては、問題の解決は困難といえよう。


コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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