社員の昇級・昇格に際し、小論文試験を実施する企業は多い。しかしながら、小論文試験の機能を正しく理解したうえで実施している企業は、必ずしも多くないかもしれない。果たして、社員に小論文を記述させると何が分かるのだろうか。
「小論文試験」で何が分かるのか

『理解能力』のレベルがてきめんに表れる小論文

社員に小論文を記述させると、その社員が保有するさまざまな能力を確認できる。言わば、ビジネスパーソンとしてのさまざまなスキルレベルを測定できるのが小論文試験の特徴である。

たとえば、小論文試験で測れるスキルの一つに『理解能力』がある。『理解能力』とは、第三者の要求事項をモレなく、誤りなく把握する力のことであり、業種業態を問わず、ビジネスパーソンに必須の能力である。意外かもしれないが、小論文試験ではこの『理解能力』のレベルが極めて明確に表れる。

小論文試験では、論文テーマが比較的短い文章で与えられることが多い。たとえば、「業務に役立つ自己啓発として、あなたが今まで行った取り組みを説明せよ」といった具合である。ところが、『理解能力』の低い社員の場合には、このような論文テーマに対して「今まで行った取り組み」ではなく「これから行う取り組み」を記述するなどの現象が起こる。あるいは、「自己啓発」ではなく「業務での取り組み」を記述するなどのケースも見られる。

また、「あなたの所属する部署が抱える問題点とその解決策を述べよ」という論文テーマに対し、『理解能力』の低い社員の場合には「問題点」のみを羅列して「解決策」を記述しない、などの現象が起こる。あるいは、「自部署」ではなく「他部署」のことを記述するなどのケースも見られる。つまり、提示された論文テーマを正確に捉えられず、「書けと言われたことを書けない」という現象が確認できるのが『理解能力』の低い社員の小論文の特徴である。

100字にも満たない論文テーマを取り違えるなどということが本当にあるのか、と思われるかもしれない。しかしながら、小論文試験を実施すると、この「書けと言われたことを書けない」小論文が思いのほか数多く見られるものである。目の前の短い文章の意味も正確に論文へ反映できない社員が、ビジネスの現場で「部下の報告・上司の指示を正しく理解する」「お客様の意向を適切に把握する」など、できようはずがない。

このように、単純な知識を問う筆記試験では見抜くことが難しい『理解能力』のレベルが、小論文を記述させることで見定められるというわけだ。

『論理能力』のレベルは小論文で判定できる

また、小論文には『論理能力』のレベルが表れるという特徴もある。『論理能力』とは、筋道を立てて物事を整理する力のことであり、『理解能力』と同様、業種業態を問わず、ビジネスパーソンに必須の能力である。

『論理能力』の低い社員が記述した小論文には、「頭に思い浮かんだことを、思い浮かんだ順に文字にしてしまう」という特徴がある。筋道を立てて物事を整理することができないので、「思い浮かんだ順に文字にする」という方法でしか、文章が書けないのである。そのため、あたかも日記でも記述したかのような論文ができあがり、何を言いたいのかが不明確になりがちである。

これに対し、一定の『論理能力』を保有する社員の場合には、論文テーマに対する自身の「結論」を最初に記述してから、その後に「結論」を導いた「根拠」や「具体例」を記述している。また、論文の最初でこれから記述する内容の「全体像」を示し、その後に「各論」を記述するという構成がとられることもある。いずれも、筋道を立てて物事を整理する力があるが故の記述スタイルといえる。

一般的に、小論文試験は『書く力』を測定する試験と思われがちだが、実はそれだけではない。『書く力』の奥にある『考える力』が測れるのが、小論文試験の最大の特徴である。誤りなく筋道を立てて“書ける”ということは、誤りなく筋道を立てて“考えられる”ことの裏返しだからである。

つまり、小論文試験とは、ビジネスパーソンとしての『理解能力』や『論理能力』といった、総合的な『思考能力(=考える力)』が丸裸にされる、実に興味深い試験方式というわけである。小論文試験のこのような効果をぜひとも有効活用したいものである。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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