ハラスメントに関して事業主が講ずべき措置の1つに「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」があります。加害者と被害者、必要に応じ第三者からも事実関係を確認することは、問題を解決する上でとても重要なプロセスです。今回は、そのポイントと留意点をお伝えします。
ハラスメント相談窓口担当者が陥りやすい『落とし穴』とは? 「事実関係を正確に確認する」ために注意すべきポイントを解説

事実関係を正確に確認するためのポイントは「より具体的な事実を把握すること」

まずは、以下の2つの例が「懲戒などの措置を行う必要があるハラスメントか?」を考えてみましょう。

例(1)
妊娠した部下に対して上司が「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言った。

事実関係が確認できれば、この言動1回でハラスメントに該当します。これは、解雇その他不利益な取扱いを示唆するものとして、厚生労働省の資料でも示されています。就業規則などに基づき、懲戒などの措置を行う必要があります。

例(2)
A係長に対して、部下Bさん・Cさん・Dさんが次のような不満を抱えていた。

●Bさん「仕事でミスをしたときに、A係長から大きな声で叱責された」
●Cさん「育児のため残業制限を請求したら、A係長から『今、それどころではない』と言われた」
●Dさん「A係長から食事に誘われ、何度も断っているのに、しつこく誘われる」

部下の3人がA係長との関わりの中で、不快な思いをしていることは分かります。そのため、A係長に何らかの指導を行う必要はあるでしょう。しかし、例(1)と比較すると明確な言動ではありませんので、これだけで「懲戒などの措置を行う必要があるハラスメント」と判断するのは難しいといえるでしょう。

「より具体的な事実を把握すること」の必要性

例(1)のような、1回の言動だけでハラスメントに該当することもあります。しかし、例(2)のような、その言動だけで判断が難しい場面も当然考えられ、その場合には、Bさん・Cさん・Dさんのそれぞれに関して「より具体的な事実を把握すること」が必要です。
例えば、Bさんであれば次のようなことです。

●〇月〇日ほか、少なくとも半年間で10回は、30分以上にわたり大声で叱責された。
●誤字脱字が多い資料を提出し「お前なんか、会社に何の貢献していない」と怒鳴られた。
●相談窓口で「A係長が怖くて、毎日、夜眠れない」と悩みを打ち明けた。


ハラスメントが陰湿に行われていると、このような事実関係を掘り起こすこと自体が難しいかもしれません。しかし、日時・発言内容・頻度・程度などの「より具体的な事実を把握すること」が、ハラスメント担当者には求められます。なぜなら、「〜という事実がある、だから、A係長はハラスメントを行った」ということを明確にするためには、より具体的な事実が何よりの根拠となるからです。

事実関係を正確に確認する上で、注意すべき「3つの落とし穴」

しかし「より具体的な事実を把握すること」は、実はとても難しいことです。先ほどの例(2)を元に、注意すべき「3つの落とし穴」について詳しく解説します。

〜落とし穴1〜「正義感」を強く持ち過ぎない

「A係長は、Bさん・Cさん・Dさんに対して、ハラスメントをするなんて許せない!」というような「正義感」を強く持ちすぎることは、『事実関係を見落とすこと』につながります。これは、一つひとつの具体的な事実を把握するプロセスを省略し、「A係長は、Bさん・Cさん・Dさんに対してハラスメントをしている」というように大雑把に捉えることにつながり、重要な事実関係を見落とす恐れがあります。

例えば、Cさんに対する「今、それどころではない」という発言は、残業をさせる意図ではなく、A係長にとって重要な会議が始まる直前だったかもしれません。他には、育児・介護休業法に示されている「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当し、労働者の請求を拒むことができる事情があったことも考えられます。

〜落とし穴2〜「同情心」を持ち出さない

「Bさんの仕事ぶりであれば、A係長が必要以上に強い指導をするのは仕方ない」というような「同情心」を持ち出すと『事実関係を見過ごすこと』につながります。「A係長に問題はない」と会社が判断することは、Bさんだけでなく、より大きな問題に発展してしまった場合に、A係長にとっても大きな不利益となります。先ほどBさんの例で示したパワハラと判断されるような具体的な事実が起こる前に、会社として早い段階でA係長に指導ができれば、A係長が懲戒を受けることなく問題を解決することにつながるかもしれません。

〜落とし穴3〜最初から「知識・経験」にとらわれない

「A係長は、Bさんにパワハラ・Cさんにマタハラ(または、パタハラ)・Dさんにセクハラをしているはずだ」というように、最初から「知識・経験」にとらわれることは、『事実関係を見誤ること』につながります。ハラスメントに関する知識が増えたり、さまざまな経験などを積み重ねたりしていくと、「どのような職場環境でハラスメントが起こりやすいか」、「どのようなタイプがハラスメントの加害者となりやすいか」といった傾向が見えてくるものです。しかし、仮にA係長がハラスメント加害者となる傾向があったとしても、それは事実関係を正確に確認する場面においては関係がありません。むしろ、この類の知識・経験は「A係長はハラスメントをしているはずだ」という固定観念を生み出し、ハラスメントかどうかを判断するための事実関係を見誤ることにつながります。

ハラスメントか否かという前に、大事なのは「より具体的な事実を把握し、問題を解決すること」です。問題を解決する上で必要な場面となったときに、その知識・経験を最大限に生かしていきましょう。

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