AI時代に経営幹部の皆さんに求められる、次の時代への「非連続的」なジャンプ。そのためのアイデアを形にする力について、前々回・前回と見てきました。アイデアを実現するリーダーになる4つのステップのうち、「想像力」、「クリエイティビティ」と進み、今回は、第3ステップとなる「イノベーション」です。今回は、イノベーションを起こす人の特徴や、必要な考え方について見ていきましょう。
「イノベーション」と「クリエイティビティ」は何が違うのか?
「イノベーション」とは、クリエイティビティを発揮してユニークな解決法を生み出すことです。アイデアを実現するリーダーになる4つのステップ「インベンション・サイクル」を提唱するスタンフォード大学のティナ・シーリグ教授(工学部)は、次のように言います。『イノベーティブ(革新的)なアイデアは、クリエイティブなアイデアと違って、それを生み出した本人だけでなく、世界全体にとっても新鮮でなければならない』。そのために必要なことは、「世の中を新鮮な目で見つめること」、「思い込みを疑うこと」、「状況を捉え直すこと」、そして「バラバラな分野のアイデアを結びつけること」だと、シーリグ教授は分析しました。
シーリグ教授の「インベンション・サイクル」になぞらえれば、イノベーションの鍵は、想像力(ひとつのことにどっぷり浸かり、ビジョンを描く)をベースに、クリエイティビティを発揮し(やる気を高めて、実験を繰り返し)、イノベーションを起こして(フォーカスして、フレームを変えて)、独自のアイデアへと発展させることとなります。
イノベーションを起こす工程で具体的に私たちがやるべきことは、「フォーカスする」ことと「フレームを変える」ことの2つなのです。
イノベーションを起こす人は「1日24時間」の使い方が違う
コロナ禍を経て、現在はオフィス回帰も多く見られます。オフィス出社派とリモートワーク派に意見は分かれますが、多くの企業で双方を兼ねるハイブリッドワークが主流になっているように見えます。コロナ禍でリモートワークが一気に広まった時期に、通勤時間について改めて考えてみたことがあります。例えば都心部で働く方々で言えば、平均として片道1時間ほどをかけて通勤していますよね。これを1ヵ月に換算すると、1日2時間(往復)×営業日数20日として、40時間になります。この40時間は、1週間の所定労働時間に相当します。
要するに、1ヵ月のうち1週間分の勤務中時間と同じだけの時間を通勤に使っているわけです。1週間の労働時間は、どなたにとってもかなり多くの時間です。すると、通勤時間をどう過ごしているかは、大げさな表現ではなく、私たちの人生において非常に重要なことではないかと思います。
シーリグ教授は言います。「1日24時間は、誰しも平等に与えられています。それをどう使うかは自分次第です。私はよくアメリカ大統領もノーベル賞授賞者もオリンピック選手も、みんな私とおなじように24時間しかないのだと思い出すようにしています。こうした人たちは、私と、そして皆さんとおなじ時間で、偉業を達成する方法を見出したのです」(『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』)。
クリエイティビティを発揮するための意欲や実験は、必要条件であっても十分条件にはならないからこそ、イノベーションのステップとしてフォーカスが必須なのです。
ジェフ・ベゾスのループ図が有名ですが、紙ナプキンの裏に事業計画を書く(ことはできても、これはあくまでも最初のステップであって、目標を達成する(アマゾンを偉大な巨大企業にまで発展させる)には、そのためのステップに踏み出す必要があります。ベゾスにも、1日24時間しか与えられていない。彼がしたことは、アマゾンを巨大企業に成長させることにフォーカスしたということです。
フォーカス(集中)するための方法についてシーリグ教授は、マインドフルネス(「いま・ここ」に集中する)、エッセンシャル思考(「何に集中するか」×「どう集中するか」を定める)、7つの習慣(第3の習慣:「重要」かつ「緊急でないこと」に時間を投資する)などを活用して、「心の中のゴミ箱を整理する」ことだと述べています。
偉大なことを成し遂げるには、放っておくと私たちの心の中にすぐに溜まってくる“ゴミ”を常に排除する習慣を身につけ、大切なことを行う空きスペースを確保し、重要事項にフォーカスし続けることに尽きるのですよね。
フレームを変えることで、新たなものが生み出される
私たちは、固定観念や既成概念、偏見の中で日々を過ごしていると言っても過言ではありません。街ゆく人たちを見て、その外見で「お金持ちそうだな」、「ヤンキーっぽいな」、「冴えないサラリーマンだろうな」、「芸能人かな?」などと無意識のうちにラベリングしているものです。当たっている場合もあるでしょうが、実は全く異なる立場やタイプの人だという場合も少なくないはずです。これはビジネスにおいても同様です。「あの企業には我が社の製品のニーズはない」、「あの人が当社のサービスを使ってくれることはないだろう」などと早期に判断してしまうこともあるでしょうが、本当にそうでしょうか?
有名なエピソードに、南国の裸足で生活する住民に靴を売りに行った営業マンの話がありますね。営業マンAは「なんだ、誰も靴を履いてない。営業チャンスはゼロだ」と判断したのに対し、営業マンBは「なんとラッキー! 誰も靴を履いていない。全住民に靴を売れるぞ!」と判断したというお話。ものの見方(枠へのはめ方)を「フレーム」といいますが、営業マンAと営業マンBは、おなじ事実を異なるフレームで見ています。当てはめるフレームによって、ものの見方から行動、結果までが大きく異なるであろうことを、皆さんは理解していると思います。
何かの困難にぶつかったときに、それを“障害”と捉えるのか“チャンス”だと捉えるのか。また、困難に対してどんなアイデアを出すのか。これらは私たちが持ち込むフレーム次第だということを、肝に銘ずるべきだとシーリグ教授は指摘します。フレームを変えることによって、発想の宝箱を開けて、斬新なアイデアを次々に解放することができます。フレームを大胆に変えれば、生み出せるアイデアもユニークなものになります。フレームを大胆に変えることは、チャンスを作り出すことのできる強力なツールなのです。
具体的にフレームを変える方法としては、「利き手でない方を使ってみる」、「自分が楽しめないことを楽しくする方法を考えてみる」、「目標達成に向けた“バカバカしい方法”を挙げてみる」などがあります。発想の訓練だと思って、ぜひ身の回りのことや担当業務で実践してみてください。
そしていよいよ次回は、ここまでのスキルを使い、アイデアを形にする最終ステップ「起業家精神」に至ります。ぜひ楽しみにお待ちください。


