第4回: 「年上の部下」がいる職場で求められる“社会的アイデンティティ”に配慮した組織づくり

自分よりも「年上の部下」をマネジメントするリーダーは少なくない。「年上の部下」に若年社員の手本となるような人材になることを望んでいるリーダーも多いだろう。ところが、リーダーの思いとは裏腹に「年上の部下」の就業態度は思わしくなく、職場の雰囲気に悪影響を及ぼしている事例も存在するようだ。なぜ、そのような現象が発生するのだろうか。今回は、「年上の部下」が存在する職場での組織づくりについて考えてみよう。

散見される「年上の部下」と「年下のリーダー」

昨今、企業内で“ポジション”と“実年齢”との関係が逆転するケースは少なくない。30代から50代のビジネスパーソンを対象とした調査では、直属の上司が年下である割合が21.6%に及ぶという結果も見られている(サイボウズ株式会社『年上の部下へのマネジメントに関する意識調査』/2023年5月)。勤務する企業の従業員規模別に見ると2,000人以上5,000人未満のケースで27.2%、5,000人以上では28.5%であり、4分の1を超えるに至っている。(同調査)
直属の上司が年下の割合(30~50代会社員)
このように、「年上の部下」と「年下のリーダー」という関係性が見られる職場の中には、組織風土に問題を抱えるケースもあるようである。雰囲気が芳しくなく、組織の活性度が低下しているわけだ。その理由が「年下のリーダー」の日々の言動にある事例も散見される。

「年上の部下」の“社会的アイデンティティ”を棄損するリーダー

例えば、「年下のリーダー」が「年上の部下」に命令口調で指示を与えたり、友人のような言葉遣いで接したりしたとする。このような言動が「年上の部下」の就業態度・勤務意欲に対し、マイナスの影響を及ぼすケースも存在するようだ。相手の年齢や経験を踏まえない言動は、「年上の部下」の“社会的アイデンティティ”を棄損することがあるからである。

“社会的アイデンティティ”とは「社会の中でどのような集団に属しているのか」に関する自己認識のことである。例えば、出身校や勤務企業などは、“社会的アイデンティティ”を構築する典型例だ。「〇〇大学のOB・OGである」「〇〇社の社員である」などの思いを抱く人物は、皆さんの身近にも存在するのではないだろうか。

実は、年齢や経験も“社会的アイデンティティ”を構成する上での集団のひとつとなり得る。「年上の部下」は自身で意識していなくても、「私は相応の年齢・経験を有する社会集団の一員である」との潜在認識を有しているものだ。

そのため、「年上の部下」に対する命令口調や友人のような言葉遣いは、年齢や経験に基づく自己認識を棄損する行為になることがある。つまり、「年上の部下」の就業態度・勤務意欲の悪化は、部下の“社会的アイデンティティ”への配慮を欠いたリーダーの言動の副作用ともいえるわけだ。その結果、職場の雰囲気にまでマイナスの影響を及ぼすことになりがちである。

以上のように、特定の集団に属するとの自己認識が形成され、行動が影響を受けるとする概念を社会的アイデンティティ理論という。

「心理特性を踏まえた対応」で組織の活性化を

「相応の年齢・経験を有する社会集団の一員」との潜在認識を持つ人材にとり、「年下のリーダー」から指示を受ける行為は必ずしも気持ちの良いものではない。「年上の部下」は自身の経験などに照らし、往々にして「そんなことくらい、言われなくても分かっているのに」などのマイナス感情に苛まれ(さいなまれ)やすいものだ。まして、命令口調・友人のような言葉遣いで行われた行為であれば、言わずもがなである。

ヒトには自尊心(自分の価値・能力を肯定的に評価し、尊重する心理)がある。そのため、自身の“社会的アイデンティティ”を棄損された場合には、自尊心を守るための行為に及ぶことになる。つまり、年齢や経験に基づく自己認識を棄損された「年上の部下」がとる行動は、自分自身を守るために不可欠であり、自然な反応ともいえるわけだ。

確かに「年下のリーダー」にとり、組織内での「年上の部下」のポジションは自分よりも下である。しかしながら、ビジネスパーソンとしての先輩であることには変わりがない。仮に、業務に関しては「年下のリーダー」のほうが秀でていたとしても、多様な観点に立脚すれば「年上の部下」から学ぶこともあるだろう。

従って、「年上の部下」が存在する職場であっても、そうではない職場と同様にコミュニケーションにおける基本的なビジネスマナーの励行は必要である。「挨拶」「言葉遣い」「礼儀」などについて、相手が自分よりも年長者であることなどに配慮をした対応を心掛けたい。

そのような配慮をしていることは、「年上の部下」にもしっかりと伝わるものだ。常日頃から相手をビジネスパーソンの先輩として好ましいマナーで接していれば、「年上の部下」との間に良好な人間関係が構築できるだろう。その結果、「年上の部下」は高い就業意欲を見せるだけでなく、若年社員の手本となるような“好ましい行動”をとるケースが多くなるものである。組織の活性度・パフォーマンスの向上も期待可能だ。

「年上の部下」の行動様式はリーダーの言動に依存するケースが少なくない。“社会的アイデンティティ”という心理特性への理解を深め、皆が気持ちよく勤務できる組織風土を構築したいものである。