「65歳定年制」とは、従業員が65歳になるまでの雇用延長を企業側に求める制度のことをいいます。厚生年金の支給開始年齢が65歳へと引き上げられた決定を発端に、2004年に改正された「高年齢者雇用安定法」によって義務化されました。

多くの企業で一般的だった60歳での定年退職制度は、1)廃止するか、2)定年年齢を65歳に引き上げるか、もしくは3)65歳までの継続雇用制度を導入するか、この3つのうちいずれかの措置を講じることで高年齢者の雇用を確保することが義務づけられました。改正法の施工と同時に一気に65歳に引き上げずとも、数年かけて段階的に対応することも可能とされていました。

その移行期間も2013年4月1日で終了するため、以降は全ての企業が65歳までの雇用確保の措置を実現することが求められます。

2012年10月時点での厚生労働省の統計によると、65歳以上の定年制を導入した企業は全体の14.0%、うち、従業員1000人以上規模の大企業クラスでは3.1%に留まります。60歳以前と同様に正社員としての雇用を約束する企業は圧倒的に少なく、多くの企業は60歳でいったん区切りとし、以後5年間は契約ベースでの再雇用を試みる措置が圧倒的に多いようです。

この際、法の趣旨を踏まえたものであれば短時間労働や隔日労働といった勤務形態や、パートや契約社員といった雇用形態も認められることになります。よって、必ずしも従業員が希望する通りの職種や職務内容、労働条件や賃金形態が叶えられるというわけではありません。また、高年齢者雇用確保措置は、国と企業との関係を定めたものであって、労働者と企業間の権利を定めたものではありません。

よって、例えば、法改正後に60歳で定年退職せざるを得なくなった場合でも、公共職業安定所は企業に対して指導や注意勧告は行いますが、退職の無効化や再雇用を強制することはできません。不履行に対する厳しい罰則規定も現状ありません。

デメリットと捉えられやすい懸念事項が多々見られますが、それ以上のメリットもあります。従業員にとっては、勤務形態や給与額などに変化が出る可能性もありますが、60歳以降に年金も給料も受け取れないかもしれないという不安が減りますし、自ら再就職先を探さなければならない負担も減ります。

企業にとっても、60歳の定年で辞めさせたくなかった優秀な人材を確保し続けることが可能になるだけでなく、60歳以降の不安が解消された従業員が意欲的に勤務に従事することで、彼らの能力の向上や生産性の増加も期待できるでしょう。

また、熟練者を残すことで、社内教育や技術や知識の継承といった若手指導の担い手を強化することも可能となります。