HRプロ代表の寺澤康介です。
 12月1日、ついに2015年卒業予定者の就職活動が本格スタートいたしました。企業の景況感が回復基調にある中、採用意欲はさらに高まるだろうとの予測と、前年よりも改善している2014年卒の内定率の報道を尻目に、今年の就活学生は自分たちのこれからの就活を楽観視している層が少なくないようです。現に、ここ2年、解禁日の深夜には本格オープンしたばかりの就職ナビに学生が殺到し、WEBサービスが長時間停止してしまう事象が起こっていましたが、今年はそれもほんの数分で解消されました。もちろん就職ナビ運営会社側も昨年以上にサーバ環境を強化して12月1日に臨んだことと思われますが、それよりも学生のアクセスが昨年ほどではなかったことが理由だと思われます。
大学関係者も、企業の採用計画数が上振れしそうな点は歓迎しながらも、楽観的な学生が増えることには大きな危機感を抱いています。景況感がよくなればなるほど、これまで以上に学生の大手企業志向が強くなるからです。採用枠が広がるのであれば、自分にも可能性が出てくると考えるのでしょう。実際には、企業の厳選採用は継続されますので、それほど学生の就職活動が楽になるとは思えないのですが。

12月1日就職活動「解禁」という落とし穴

12月1日、就職活動が「解禁」したと、新聞など大手メディアが一斉に報じました。さて、カッコつきで「解禁」と書いたのにはわけがあります。企業の採用担当者ならほとんどが承知していることなのですが、このルールは経団連が定めた「採用選考に関する企業の倫理憲章」という自主的なものであり、約830社が共同宣言しているにすぎません。日本で新卒採用している企業は2万社程度あると言われていますから、会社数としてはごく一部です。もちろん破ったからといって罰則はありません。

 つい先日、著名な大手IT企業の親しい人事担当役員に、「いよいよ12月1日ですね」と話したところ、「うちには関係ありません。とっくに動いていますから。インターンシップ採用を主体にしています」とのことでした。主要な外資系企業、コンサルティング業界、採用意欲の強いベンチャー企業、大手IT企業などは、堂々と12月以前から実質的な選考活動を開始していますし、実は日本の伝統的な大手企業もインターンシップを通じて結果的に内定に至るルートを拡大しつつあるのです。表面的な大手メディアの情報だけでは、こうした実情は分かりません。

 とはいえ、上記の倫理憲章共同宣言企業800社強の中には日本を代表する大手企業が多数含まれており、また何より大手就職ナビが業界の自主規制で12月1日に一斉に本オープンし、学生の企業へのプレエントリー、説明会申し込みが可能になるため、大多数の学生がこの日初めて企業と本格的に接触することになります。しかし、これまた大多数の学生が、数カ月間極めて無駄で多忙な日々を過ごすことになります。
 それはなぜか。HR総合調査研究所(HRプロ)の調査によると、企業が採用対象のターゲット大学を決めて活動する率が年々上昇しており、2014年新卒採用では実に半数以上の企業がそうしていると答えています。これは大手から中堅、中小企業すべての企業へのアンケート回答であり、学生が名前を知っているような著名な大手企業であれば、もっと高い割合の企業がターゲット大学を決めているわけです。しかし、これらの著名な大手企業にほとんどの学生が殺到します。
 株式会社ニッチモ代表取締役の海老原嗣生氏によると、2000~2010年までの平均値では、新卒者約55万人のうち人気100社への就職者数は約1万8000人。割合にすれば4%にも満たない数字です。その100社に大多数の学生は殺到しますが、その大半は大学名ではじかれているのが現状なのです。

なぜ企業はターゲット大学を定めて採用をするのか

1990年代半ばまで、大手企業は指定校制などで大学をターゲティングしていましたが、就職ナビの普及で「大学名不問」を打ち出すのが当然かのように大学の門戸を広げる動きがありました。しかし、一方でこの約20年間、大学の数は規制緩和で増え続け、少子化にもかかわらず大学生は急増し、いまや無試験で入学する学生は半数以上にも及びます。偏差値の下位層が大きく増え、大学生の学力の幅は大きく広がったわけです。そうした学生が一斉に大手企業に殺到するため、企業はそれら応募者すべてに平等に対応することはできず、ターゲット大学により採用勢力を集中し、その他はエントリーシートや適性検査でバッサリ落とすということになります。それが今の就職活動の実情なのです。

 では、学生はどうすればよいのでしょうか。最近、数校の大学で講演した際にも話したことですが、「自分の大学を採用ターゲットにしている企業を中心に就職活動をすること」です。いくら就職活動で自己分析を重ね、大手企業の会社説明会に足しげく通い、エントリーシートの添削講座を受け、模擬面接を受けても、自分の大学が採用ターゲットに入っていない企業を受け続けても落ち続けるだけです。
 企業が自分の大学を採用ターゲットにしているかどうかを確認するには、大学の就職部、キャリアセンターに聞くのが一番であり、学内説明会に出るのが早道です。自分の学校のOB・OGに訪問できれば、なおよいでしょう。もちろんその他の企業を受けてはいけないわけではありませんが、学生自身が知っている企業に応募すると、そのほとんどは超大手企業で、一部の大学からしか取らないことがほとんどで、落ちる確率が非常に高いということです。

 本当は企業側が採用ターゲット大学を明示すればいいのでしょうが、世間の批判が怖くてできないのが現状です。せめて、主要な採用実績大学を明示してくれればいいと思うのですが、いかがでしょうか。かつて就職ガイドと呼ばれる情報誌が就職メディアの主流だった時代には、限られた誌面にもかかわらず必ず採用実績校の欄があり、学生はそれを大いに参考にしていたものです。最近の学生は社会常識がない、マナーがなっていないと言う前に、暗黙の企業の採用ルールが学生を苦しめていることを忘れてはいけないと思います。

2015年卒採用における企業の課題とは

さて、2015年卒採用に向けての企業の課題はどうなっているのでしょうか。HR総合調査研究所が実施した採用担当者向けアンケートに寄せられた企業の声をご紹介します。

●企業説明会の早期開催と選考期間の短縮。内定段階では、メール連絡等のコミュニケーションを増加させる(情報処理・ソフトウェア)
●学生との接触期間が短く、学生も就職活動期間が短いためにまだ、成熟しきれていない(自分自身がきちんと理解できていない)状態で学生を見極める必要があるため、その対応をどのようにしていけばいいかが今後の課題(電機)
●会社説明会に参加した後、選考に応募しない学生を減らす(情報処理・ソフトウェア)
●質量ともに満足度を上げたいが、まずは内定辞退者を減らすこと(保安・警備・清掃)
●母集団を確保するため、各校キャリアセンターとの関係強化が重要(通信)
●今までとは違った層を狙った母集団形成(化学)
●今までやっていなかった地域採用についてどのように取り組んでいくかを検討する(繊維)
●留学生採用、女性の採用(精密機器)
●グローバル人材の確保(電機)
●非漢字圏(中国、台湾、韓国)からの外国人採用(商社)
●倫理憲章前に内定を出す企業に対する対策。学生の引き留め策等(電子部品)
●ターゲット学生の早期囲い込み(電気・ガス・水道・エネルギー)
●ターゲット校を決め、学内セミナーなどの強化による対応を予定(食品)
●面接で重点を置く基準の見直し(ゲーム・アミューズメント)
●2016年卒採用へのシミュレーション(マスコミ関連)
●今後の採用活動の後倒しに伴い、早期の告知活動をどのようにしていくかというのが課題になると思う(商社)

 他社・学生の動きが早期化することへの対応、これまでと違った母集団の形成、ターゲット採用、グローバル採用などを挙げる企業が多いようです。また、2016年卒採用へ向けてのシミュレーションも重要なテーマになっています。前回の記事でインターンシップ実施企業が増えていることをお伝えしましたが、それもその一つの表れです。

特に注力する施策のトップは「学内企業セミナー」

2015年卒採用で実施する予定の施策を複数回答で答えてもらったところ、回答数の上位に挙がったのは「自社セミナー」「就職ナビ」「学内企業セミナー」「自社採用ホームページ」の四つ[図表1]。いずれも約7割でほぼ同程度の回答数となっています。この四つは採用広報の基本施策と言えますが、これらの施策の次に多かったのが「求人票」で64%にも達しています。一時期は、求人票はもはや形式的なものだと言われてきたこともありましたが、ここ数年、求人票を活用する企業が増えてきています。ターゲット校採用を進める上で、大学との関係づくりの基本として捉えられている面もあるのでしょう。2015年卒採用に向けてはさらに拍車がかかったようです。
第33回 12月1日を迎えて―2015年卒採用
上記設問では実施する施策をすべて選択してもらっていますが、その中で特に注力する施策について最大三つまで選択してもらったのが[図表2]です。最も多かった回答は「学内企業セミナー」で53%に上ります。前問で「学内企業セミナー」を選択した企業は68%だったことを考えると、「学内企業セミナー」実施企業の78%は重要な施策として捉えていることになります。
第33回 12月1日を迎えて―2015年卒採用
「自社セミナー」は45%にとどまるほか、「就職ナビ」を挙げた人は26%にすぎません。いかに各企業が「学内企業セミナー」を重視しているか、ターゲット採用を進めようとしているかが分かります。HRプロでは、今年も12月末に採用動向調査を実施し、ターゲット採用がどこまで進むのかを確認する予定です。結果は来年のこのコーナーでご報告します。
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