キャリアカウンセリングはまだ、職業として確立していない。カウンセリングの対価だけで生計ができている独立したキャリアカウンセラーはほとんどいないし、専門職として確立しているとは言い難い。唯一の例外が、キャリアカウンセリング職として給与を得ている再就職支援会社のカウンセラーたちだ。

 キャリアカウンセリングをサービスとして提供し、給与を得ているからには、その業務遂行が評価されなければならないし、課題があれば是正・育成されなければならない。しかし、カウンセリングは、一対一のやり取りであって誰も見ていない密室劇だ。その品質をいかにしてチェックし、カウンセラーを育成指導すればよいのか。
  かつて私が在籍していたアウトプレイスメントファーム(そこは黎明期の日本の再就職支援業をリードした会社だった)が採用した方法は、活動プロセスに応じた定量的進捗把握に加えて、カウンセラーに詳細なカウンセリング記録を毎回入力させることだった。

カウンセリング一般には、自身のカウンセリングを振り返る逐語記録(録音してフル起しする)という基本手法があるが、それとは異なり、業務報告としての記述。キャンディデイトの求職活動面や心理面の状況を含め、その日のカウンセリング内容、以降のカウンセリングの方針・計画をくわしく入力させる。

 会社の情報インフラ上に記録していくことがポイントで、その定性情報の入ったデータベースを、日々、スーパーバイザ―的な上級カウンセラーが閲覧しては、問題がありそうなカウンセラーを毎週のミーティングで糾弾するという方式である。時系列を追ってみれば、就職活動の定量的把握と合わせ、カウンセリングの有効性が検証でき、指導方針を変える指示を出したりもする。

 PC操作が苦手の高齢のカウンセラーからの反発も多かったが、この方法はプリミティブなだけに効果的だった。定性記述により、カウンセリング内容とキャンディデイトの状況がわかる。行間からは、カウンセラーの意図や想いが読み取れるし、能力レベルもわかる。カウンセラー本人が不備を自覚し、それをどんなに糊塗しようとしても、書かれた文章からは見えてしまうのが興味深かった。

 副次的には、クライアント企業(人材の送り出し企業)への報告やクレームの際に役立つことという効果もあった。再就職支援サービスは、再就職をどれだけ早く決められるかが問われる。ときに、一年近くも決まらないキャンディデイトがいて、クライアント企業から「どうなっているんだ?」と言われる。その際にも、この記録をもとにして、例えば、これだけの指導をしているのに、本人の意思や行動に問題があるから、と根拠をもって説明できる。

 のちに同業他社と合併したときに、相手の会社にはこの手の記録とチェックのしくみもルールもなくて、驚愕した記憶がある。個別のやり方でメモを取っているカウンセラーがいるくらい。だから、カウンセラーの評価は、再就職決定率だけで、組織としてのカウンセリング品質の管理、カウンセラーの能力開発をどうしていたのか皆目かわからなかった。

 一方で、品質チェックとしては、キャンディデイトの満足度アンケートや目安箱的な情報採取を行っていた。これもカウンセラー評価の重要な材料である。面白かったのは、再就職決定後に行うアンケート。そこには、担当カウンセラーに対する感謝の言葉か、罵倒の言葉のいずれかがある。大事なことは、罵倒されたカウンセラーは全員問題あり、とは必ずしも決めつけられないことだ。

 キャンディデイトにそのような感情をもたらしたのはなぜかが、カウンセリング記録と重ね合わせることでよくわかる。再就職を実現させる目的下では、本人にとって心地よい言葉をいうことはためにならない場合もある。奮起させるために挑発することもある。カウンセリング記録があることで、満足度アンケートを読み誤まらずに済むわけである。

 こうした品質管理を行ってきても、どうしても理解できないカウンセラーがいた。記録をみると、どうみてもいつも世間話しているとしか思えないのに、次々と迅速に再就職を決めている。なにが効いているのかまったく見えない。感情ある人と人が、人生のクリティカルな選択について話し合う密室劇では、どうしてもうかがい知れない機微があるのかもしれないと思った。
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