今回から本コラムを担当いたします金沢大学就職支援室の山本です。大学を卒業してからずっと人事採用の仕事に関わっており、北陸のPC関連メーカー2社と東京の大手情報通信メーカーで勤務の後、2007年10月に故郷の金沢に戻って人材紹介会社を立ち上げ、2009年4月から金沢大学就職支援室の仕事も兼務しております。
大学の就職支援室での民間人の登用も増えておりますが、私のような延べ12000人くらいの学生の面接を行った「こてこての元人事」がやっているのはまだ珍しいのではと思います。本コラムの執筆にあたりできるだけ人事の目線でイマドキの学生、就活についていろいろ書いてみたいと思います。
さて、まずは新卒就職の二極化をとりあげてみたいと思います。私は新卒採用の二極化は二つあると考えております。ひとつは「学生の二極化」、もうひとつは「企業の二極化」です。今回はまず「学生の二極化」について述べてみたいと思います。

「学生の二極化」については、私が民間企業の面接官を行っていた2002年頃にはなんとなく感じられていたと思いますが、2005年あたりから2008年までの超売り手市場の環境下では採用側のハードルが下がっていたため、あまり表面化していなかったのではと思います。したがって2009年以降に急に顕在化した事象ではなく、もともとこの10年くらいでその傾向があったものが、買い手市場に環境が変わることでクローズアップされたという認識が正しいのではないでしょうか。

重複内定をもらえる学生については、企業の人事をやっていたときから「こいつはどこ行っても内定もらえそうだよな」というタイプです。現在、大学の就職支援室で彼らと接していても、やはり同じような印象を持っています。
次に内定をなかなかもらえない学生についてです。これは大学で仕事をして気づいたことなのですが、二通りの学生がいるように感じています。ひとつは総合的に本人の希望する企業の面接選考のハードルをクリアすることが難しいのではというレベルの学生、もうひとつのタイプは、能力はあるのだが就職活動の進め方に問題があり、なかなか最終的に内定を得ることができない学生です。

私がいる金沢大学の現4年生の中にも内定獲得に苦戦している学生も一定数いるのですが、少なくとも就職支援室に来る学生についてはほとんどが後者のタイプだと思っています。なぜならば通常の読み書きの能力、学業成績、Face to Faceのコミュニケーション(就職相談時の面談における)については重複内定獲得者とほとんど差を感じないことが多いからです。補足させていただきますと、私は学校で教育者として学生を評価した経験がありませんので、私の学生に対する評価軸はあくまでの人事としての「民間で仕事ができそうかどうか」という視点での能力評価だと考えています。

ではいったい何が彼らを就職活動の勝ち組と負け組に分けてしまっているのでしょうか? 苦戦している学生と話していると共通している項目がいくつかあります。謙虚で素直でまじめな学生が多いということです。あとどちらかというと融通がきかないタイプが多いという印象があります。

この時期になると就職支援室に相談にくるほとんどの学生が憔悴しきっており、自分にまったく自信が持てなくなっている状況です。さらに非常にあせっている場合が多いです。ですから最初はまず気持ちを落ち着かせ、話を聞きながら少しずつ本来の自信をとりもどさせ、それからそれまでの就職活動の進め方を確認してゆくという順序でカウンセリングを進めていきます。

じっくり話を聞けるところまで信頼関係が構築できると、ほとんどの場合は就職活動のプロセスにボトルネックとなっている要因を探り当てることができます。応募企業の選び方が間違っていたり、自己PRのポイントがずれていたり、志望動機がうまくまとめきれなかったり、能力的な問題(修正のための若干のトレーニングが必要な場合もありますが)以外の理由でうまくいっていないケースが多いです。地方大学に進学している学生は、全体的に安全策をとってここまでの進路を経てきている学生が多いために、就活を迎えるまでここまで強烈に自己否定された経験がほとんどなく、パニック状態になっていることからNG理由を客観的に分析することができず、問題となる箇所を探り当てて自己修正する前に、強烈に自分にだめだしをして自信を喪失してしまうようです。そして一度失敗すると、それ以降は「失敗してはいけない」という根拠のない脅迫観念にとらわれ、自分の行動を一定の枠にあてはめてしまい(大半がマニュアル本の面接突破法にすがってしまう~マニュアルにすがっていること自体がまずいのですが、そんなことに気づくゆとりもありません)、それでNGになってしまうとそのとおりの行動をできなかった自分をさらに責める・・・というマイナススパイラルに落ち込んでいってしまいます。まじめで謙虚な人間ほどこのマイナススパイラルにはまってしまいやすく、そこから抜け出すのも非常に苦労する傾向が強いように思います。

何も考えずにたまたま最初の選考試験でうまく結果が出てしまうと、そのままどんどんいってしまう学生も一定数いるように感じます(本格的な選考シーズン前の面談では「こいつはちょっと厳しいかな・・・」と思っていても、うまくはまってしまう学生も結構多いです)。ヘンな言い方ですが、最初の選考試験の結果ひとつで、それこそ「天国と地獄」にはっきり分かれてしまっているような感があります。まさに紙一重の運(実力ではありません)で就活が決まってしまうような印象があります(それが社会だという説明もできますが・・・)。

まとめとして、「学生の二極分化」が進んでいますが、その結果ほどには本来の能力面では差がないというように私は思っています。実際のところ、面談でボトルネック要因を探り当てて修正したあとは立て続けに内定をもらったという学生もかなり多いです。それで秋採用していた大手に内定をもらい、知り合いの人事の方に無理を頼んで受けさせていただいた会社をドタキャンしたという不届き者もいましたが・・・。

今の日本企業を取り巻く環境では、経営側から「厳選採用」の要請が強いためになかなか視点を広げて人材を採用するという発想にはなりにくいとは思います。私が採用担当をやっていてもおそらくそうなると思います。ただ、今の選考プロセスではせっかくのポテンシャルのある学生を安易に振り落としすぎているのでは、という印象を受けます。そういう意味では、新卒の選考方法そのものを従来のやり方から見直す時期に来ているのではという気もしております。これについては私案を持っているのでどこかで触れてみたいと思います。

(2010.11.18掲載)
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