私が社会保険労務士として業務を行っている中で年次有給休暇については、よく質問を受ける、そして相談のある分野だ。「退職の際に、年次有給休暇取得の申し出があれば、取得させなければならないのですか?」、「パートタイマーにも年次有給休暇は、必要ですか?必要なら、日数は正社員と同じですか?」、「忙しい時期に年次有給休暇を求めてくる従業員がいるのですが何とかなりませんか?」など、本当に多くのご相談を顧問先企業から受ける。
年次有給休暇あれこれ

年次有給休暇に関する労使の見解は、かなり違うのでは!?

会社側の本音としては、「労働基準法に定められた当然の権利なのだろうけれど、人を採用することが大変なこの時代に、業務に穴が空く年次有給休暇は、できれば取って欲しくない」というところではないだろうか。一方、働いている従業員からすると「年次有給休暇は、当然の権利なのだから、取得して当然!どうせ、1年経ったら時効で権利が消滅するから全部取らないと損だ」みたいな感じの人もそれなりにいるのかもしれない。年次有給休暇というものが、労働者に与えられた当然の権利だということは、労使ともに共通認識にも関わらず、その見解がある意味相反したものとなるのは、興味深いところである。 

ただ現実問題として、特に中堅・中小企業では、採用時に従業員の年次有給休暇取得日数を予測、勘案して採用人数や初任給を含む人件費を決定しているわけではない。従業員全員が、「当然の権利である」ところの年次有給休暇をすべて消化しきれる企業体力は、多くの会社において難しいだろう。おまけに来年4月には、労働基準法が改正され、年次有給休暇取得促進策として、会社は従業員1人あたり、年5日分の年次有給休暇を時期指定して従業員に与えなければならないこととなる模様だ。「これ(従業員1人あたり年5日の年次有給休暇を与える)だけで、うちの会社規模だと20人ほど余計に採用しないと、今までと同様の労働生産性が担保できません」と、あるお客様が口にしていたのは、私の耳に今でも残っている。私もそれほど、インパクトの大きい改正内容だと思う。

労使ともにマナーは必要

さりとて今のご時勢、年次有給休暇を取得できないとなると、ブラック企業というレッテルを貼られかねないわけで、企業としては非常に悩ましい課題を抱えることとなる。日本生産性本部が行った平成26 年度新入社員による「働くことの意識」調査によると、就職する会社を選ぶ理由に「福利厚生が充実しているから」との回答が、調査開始以来、初めて上位にランクされた。ここでいう福利厚生には広義において、休みが多い、休みが取りやすい会社というものも内包されていると思われる。また、上記調査においては最近の若者の傾向として「人並みに働けば十分」という“ほどほど志向”ということが明らかにされている。年次有給休暇を取得することなく、バリバリ働いて立身出世しようなどという若者は、もはや少数なのかもしれない。企業の現場を見ている私の実感としては、そのように感じる。

私自身もサラリーマン経験があり、当然、年次有給休暇は労働者としての権利だということは把握していた。しかしながら、その権利を濫用していたわけではないという自負はある。たとえば、退職時には引継ぎ等もあり、自分が勤務しないと仕事が回らないことは把握していたので、最終日まで宮仕えさせていただいた。上司からも感謝していただけていたようである。年次有給休暇は当然の権利ではあるが、その裏には全うに勤務するという義務もある。

 年次有給休暇の件にしてもそうだが、働く人の権利関係に関する労使の見解は当然違うだろう。しかしながら、だからこそ、今まで以上に日頃の労使コミュニケーションを積極的に行うことが求められる時代になるのだろう。

社会保険労務士  糀谷 博和

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