「私、会社の役員を訴えようと思うんです」というAさん(女性・40歳)。

どうしてかと尋ねると「役員からセクハラを受けました」とのこと。もし、御社の女性社員の方からこのような相談が来たら、どのように感じるだろうか。「どのような事情であっても、訴えるなんて行き過ぎている」と感じるだろうか。それとも「時と場合によっては、訴えることもやむを得ない」と感じるだろうか。
セクハラ問題を左右する影の首謀者~あなたは気づかないうちに首謀者になっていないだろうか

黒白つけられないセクハラ問題

年に数回、ハラスメント防止研修をさせて頂く機会がある。昔は「セクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」)防止研修」が多かったが、近年「セクシュアル」が取れて「ハラスメント防止研修」になった。

そこで、冒頭の話を受講生に問うてみる。答えは何パターンかに分かれるが、大半の受講生の答えがこれだ。「もう少し事情を聴いてみないと何とも言えない」と。確かにその通りだ。セクハラに当たるかどうかは、個別具体的に事案を検討し、客観的妥当性で判断をする…。模範解答である。

それでは、もう一つ質問をしよう。Aさんはじめ当事者から詳しく事情を聴いてみると、黒か白か判断がつくだろうか。確かに、証拠が出てくるかもしれない。何かを証言する人もいるかもしれない。しかし、断言する。セクハラ問題で「完璧な答え」が出ることは、まずない。

セクハラ問題はそもそも「両者の認識の相違」が原因であることが多々あるからである。「手を握ってきた」と主張する女性に対し、「誘ってきた」と男性。あるいは「飲食、デートを強要された」と主張する女性に対し、「そんなつもりはなかった」と男性。いずれにしても、事実は一つだがその解釈は人それぞれで、一致させることは非常に難しいのである。なお断っておくが、当事者から話を聴くことを「無意味である」というつもりは毛頭ない。もちろん事実関係の把握は欠かせない過程である。

トラブル対処3段階から見るセクハラ問題を救う最適の方法

それでは、セクハラ問題はどう対応すればよいか。
セクハラ問題には、必ず三者が登場する。1人目は被害者。2人目は加害者、そして忘れてはならないのが、3人目の「周囲の人間」である。周囲の人間とは、同僚、上司、部下をはじめ、被害者・加害者の家族などである。セクハラ問題は、この三者の意識が変われば解決する。どこが抜けてもいけない、この三者ともの意識が重要である。

少し話がそれるが、トラブル(問題)というのは、両者の認識のギャップである。図をご覧いただくと分かるが、ギャップが大きくなればなるほどトラブルは大きくなる。①の状態は、トラブルは発生しているが、まだ露見していない段階。②はトラブルが露見し、周りが認知する段階、③はトラブルが大きくなり、第三者が介入するなどしてしか解決できない段階。



①の状態は、お互いが意識を改める、もしくは相手を理解することでトラブルは解消するであろう。②はどうだろうか。

②はトラブルが表に露見しているのだから、少々複雑である。この場合、重要な役割を担うのが、「周囲の人間」である。相談に乗る、仲裁に入るなど方法は多数あるが、周囲の人間が介入することでトラブルは解消していく。③になると、前述のとおり第三者(労働審判や裁判など)が介入せざるを得ない状況も出てくる。

さて、セクハラ問題に戻ろう。初めは、被害者がその悩みを内に秘めていることも多いので、なかなか露見しない。しかし、少し経てば「最近元気が無い」「様子がおかしい」「あの二人の会話が無い」など、周囲が異変に気付くはずである。トラブル3段階のうち、②の段階である。このポイントが非常に重要である。例えば「相談に乗る」や「話し合いの場を持つよう提言してみる」など出来ることはあるはずである。

しかし、この段階で周囲の人間が「下手に立ち入って巻き込まれたら困るから」と「見て見ぬふりをする」と、③の段階にまでことが及んでしまう。このように考えると、被害者・加害者に原因はあり、ことの発端はその二者であるが、周囲の「見て見ぬふりをするという不作為」がセクハラ問題を大きくさせてしまう一番の首謀者であるということがお分かりいただけたのではないだろうか。

繰り返しになるが、セクハラ問題には三者が登場する。この三者の意識が変われば解決する。どこが抜けてもいけない、三者ともの意識が重要である。このように考えると「人とはかかわらない」という近年ありがちなクールなスタンスではなく、昔ながらの「おせっかい」な関わり方がセクハラ問題を解決する最適の方法かもしれない。


株式会社ブレインコンサルティングオフィス大阪営業所 所長
社会保険労務士 神野 沙樹

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