少し前になるが国内の格安航空会社が、他社へ転職する複数のパイロットに対して社内での「教育訓練費」約400万円を返すよう求めているという事件があった。
一部で裁判にも発展し、パイロット側は「労働基準法違反だ」と反発する。パイロット不足が続く状態もあり、「引き抜き防止策の一環ではないか」とみる関係者もいるようだ。
「教育訓練費を返還させたい」 2つの解決策で考える

もし私がこの会社の人事部にいたら

近年、格安航空会社(LCC)の急増によりどの航空会社もパイロットが足りない状況下であり、そんな折に起きたトラブルである。この航空会社が多くのパイロットを他社に引き抜かれたことに対応したのかもしれない。

私がもし、この航空会社の人事部にいたらどうだろうか、検証してみる。

この事例のポイントは以下の通りだろう。

・入社当日、返還を承諾する覚書にパイロット(労働者)が署名していた
・会社は「教育訓練費の貸し借りや立て替え契約が結ばれたのが実態で、3年間の勤務で返還が免除されるにすぎない」と主張している
・航空会社のパイロットは操縦士の国家資格に加え、機種ごとに国のライセンスがいる。さらに各社ごとに社内訓練があり、副操縦士になるには社内の審査、機長になるには国の審査に合格する必要がある。それぞれ一定の飛行時間も求められる。
・就業規則には「副操縦士の人事発令から3年以内に自己都合で退職した場合は教育訓練費を請求する」という趣旨の規定が定められている。

教育費返還か、帰属意識か。2つの解決策を考える

以上のポイントを踏まえ、2通りの解決策があるのだろう。

1.教育費返還をさせるべく社内規程や誓約書などを整備する

いわゆる対処療法である。
会社側のスタンスとしては「会社の世話になったからこそスキルアップできたのだから、早々に退職するとは何事だ。信義則違反で許せない。」といった感情もないわけではない。

この場合は、「就業規則」や「社内教育費貸付金規程」「金銭消費貸借契約書」「誓約書」などを厳格に作成し、こういったことが今後起こらないように整備する。
場合によっては社外の専門家に対応してもらうことも有効だろう。

2.教育費を返還させることは難しい。よって、会社への帰属意識や愛社精神を育てる施策について検討する。

こちらは新たな視点・気付きである。
「教育費を返還させるには時間・労力等も使うし、決して生産性のある作業ではない。
今後、こういった事態にならないようにしよう。」と。
このような考えのもとでは、「チームビルディング」や「理念づくり」「経営計画の作成」などをするのもいいかもしれない。

実際、教育費の返還請求が世にでたことによるイメージダウンによって、この航空会社を敬遠するパイロット等が増える可能性がある。
そうなると今後の採用活動にも影響がでるかもしれない。
なによりも人材は人財であるとの認識のもとに教育をしているはずなのに、得られる成果が全くの逆では本末転倒である。

去る者を攻撃するよりも、去る者が出なくなるように「チームビルディング」や「理念」等を見直すべきである。もちろん、ケースバイケースに対応すべきであるし、どちらか一方をやれば解決するものでもないだろう。

時事問題一つとっても、そのスタンス、専門家として求められること、そして立場によってさまざまである。結果としてアプローチの方向性によって得られる成果も変わってくるのではないだろうか。

世の中の時事問題をただ流すだけでなく、自分ならどう対応するか・何ができるのかを自分なりに考える。
そうすることで自分を高めることが、業務の質の向上につながるのではないか。

社会保険労務士たきもと事務所 代表・社会保険労務士 瀧本 旭

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