経営×人事×タレントマネジメント
Vol.3 ドイツ大手企業からの事業買収を機に学び、世界3拠点合同のグローバルHRチームが始動
海外マネージャーを現地化し、日本人の若手を海外に育成配置
いま進めていらっしゃるタレントマネジメントについて、社長はどういうお考えをお持ちなんですか。
実は、いまの社長は私の前任の人事部長で、グローバル人事を立ち上げた方です。2014年4月に社長に就任されましたが、グローバル化が思うように進んでいない、スピードを上げないといけないという強い危機意識をお持ちで、我々が進めている施策についてもサポートしていただいています。たとえば、海外現地法人のマネージャーを日本人駐在員から現地化することは2008年ごろから計画的に進めてきていますが、なかなかダイナミックに伸びていません。そこで、社長交代を機に、日本人駐在員は原則3年以内、遅くとも5年以内に現地の人に交代するという方針を打ち出していただきましました。それと合わせて、コモンランゲージを英語にしてくださいと。1人でも日本語を解さない人がいるなら、話をする場でも、メールでのコミュニケーションでも、CCも含めて、全部言語は英語。そういうルールを明確にして、これも社長方針として出していただきました。
海外現地法人での人材の現地化はどれくらい進んでいる状況ですか。
ジェネラルマネージャー、つまり部長層は3割強が現地の人に代わっていますが、もっと加速したいということです。その先にはエグゼクティブ層、社長も、もっと現地の人に代わっていくようにしたいと考えています。
そういう状況が進んでいくと、日本人駐在者が減って、グローバルマインドを持った日本人社員の育成が難しくなっていくことも考えられますが、そこは危惧されていますか。
もちろん、ラインでは人材を現地化した方が良いところは確実にしていきますが、一方で、一番大事なのはグローバルなマネジメントの経験と視点を持った人がグループグローバル本社で全体を統括できることです。日本人にもそういう経験と視点を持っていただかないといけません。ですから、まずひとつやっているのは若いうちに海外を経験してもらうことで、入社10年目から20年目くらいの間に現地のラインに入り、現地を飛び回るという育成配置を行っています。また、キータレントマネジメントの方では、次のリーダーポジションの手前あたりで海外関係会社のトップを意図的に経験していただくということもやっています。10ポジションほどはいつも40代で埋めています。
人事がビジネスパートナーとして事業に深く関わっていく
タレントマネジメントシステムはもう導入されていますか?
システムは導入して、研修履歴などいろいろな人材データを入れています。これを使って、いまは海外関係会社も含めた部長のサクセッションプランと、海外のジェネラルマネージャーのサクセッションプランを、毎年見直しながら回しています。また、次世代ということでは、海外の人材も含め、もう少し若い40代前半あたりの層から選抜して、グローバルリーダーシップ研修というものを実施しています。日本とシンガポールで計4セッション行い、経営リテラシーのレクチャーとアクションラーニング、社長を前にした経営提言のプレゼンなどをやってもらっていますが、そこで選ばれた人を人事もウォッチして、チャレンジングな経験を積める配置を意図的に行っているのが現状です。今後は、もっと全体を網羅して優秀な人材を発掘、選抜する仕組みをつくっていこうと、選抜基準の明確化や、選抜された人の育成についてどういうメンバー構成のパネルで議論して次のステップにつなげていくかなど、タスクフォースチームで議論しているところです。海外の先進企業やドイツのヘレウスの事例を勉強しながら進めています。
ドイツで大きい会社の事業を買われましたが、良い関係を築かれて、そこから学んでいることが多いようですね。
そうですね。人事同士でもお互いに行き来して人事制度をオープンにし合って、このあたりは一緒にやっていきましょうとか、少し教えてくださいといったことを新会社設立直後から始めています。タレントマネジメントの仕組みについても親会社のものをベースにきちんとしたものを持っていましたが、ビジネスパートナーとしての人事の事業への関わり方についても、非常に学びがありました。聞くと、人事が完全に事業と戦略を共有して、ダイナミックにいろいろな提案をして、ビジネスの特性に合った人事の仕掛けなり運用なりをやっているようなんですね。動き方や情報共有のやり方を勉強して、我々もトライアンドエラーでやっていこうとしています。
グローバルタスクフォースチームで進めていることがまとまって、うまく運用が始まったら、結構すごいことになりそうですね。
化学を中心にグローバル企業の事例を勉強させてもらうと、どこも似たようなことを10年あるいは15年前から取り組んで、現在に至っているんですね。我々は10年から15年遅れていると思っていますので、10年くらいかけて追いつくつもりで腹を据えてやっていかないといけません。報酬や配置といったポリシーをつくって徹底させることと、タレントマネジメントと、ビジネスパートナーとしての人事のあり方、ここをダイナミックに変えていかないと勝ち残れないと考えています。
本日はありがとうございました。
市村 彰浩
三井化学株式会社 執行役員 人事部長
1980年4月 三井石油化学工業株式会社(現三井化学株式会社)入社。精密化学品事業部、人事部人事課、岩国大竹工場人事課長などを歴任後、2002年7月 Mitsui Chemicals America Inc.(ニューヨーク)管理部長を務める。2006年3月 人事・労制部人材開発グループリーダー、2010年4月 人事部長を経て、2011年6月 現職。
楠田祐
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授
戦略的人材マネジメント研究所 代表
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問も担う。主な著書:「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)「内定力2015〜就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)
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