経営×人事×タレントマネジメント

タレントマネジメントに取り組まれている企業を訪問し、その導入事例をシリーズでご紹介するとともに、
タレントマネジメントを切り口として、人事と経営の関係性や今後求められる人事のあり方を考察していきます。

Vol.3 ドイツ大手企業からの事業買収を機に学び、世界3拠点合同のグローバルHRチームが始動

三井化学株式会社 執行役員 人事部長 市村 彰浩氏
聞き手:中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授 楠田 祐氏

4つのグローバルタスクフォースチームを立ち上げ
貴社では、タレントマネジメントについてはどういう考え方で取り組んでいらっしゃいますか。
タレントマネジメントとは広い意味では全社員の人材開発のことだと思いますが、当社にとっては、それは全社員の成長と組織の成長を図っていく人材マネジメントそのものです。しかし、世の中で、特に欧米企業が行っているタレントマネジメントというと、もっと意味が狭く、将来のリーダー候補を早期選抜して意図的に育成していくといったことですね。そちらについてはキータレントマネジメントと定義し、これまでの取り組みを踏まえてもう一度仕立て直そうと、定義のところから議論して進めているところです。
貴社はグローバル展開を拡大していらっしゃるので、世界中の現地法人で非日本人の方々がビジネスを推進していくようになると、そのリーダーたちをキータレントという形で、サクセッションプランも含めてマネジメントしていく必要があるということでしょうか。
おっしゃる通りです。当社ではグローバル化に対応する人材マネジメントの仕組みを5、6年前からつくってきていますが、タレントマネジメントを含むグローバルHRを仕切り直して加速しようと、2014年の夏にタスクフォースチームを4つほど立ち上げました。そのきっかけになったのは、2013年に当社がドイツのヘレウスという大手金属材料メーカーから歯科材料事業を買収したことでした。このヘレウスという企業はかなり大きくて、買収したのは一事業だけですが、歯科材料事業を切り離した後でも連結売上高170億ユーロ(約2兆3000億円)、従業員12500名の企業です。
そんなに大きいんですか。
かつグローバルです。多様な事業を持っていて、10年前にはドイツ以外の海外関係会社が100社を超え、グローバル対応については当社より10年以上先行しています。いろいろ教わってこようとドイツに行ってきましたが、人事の仕組みは非常に優れたものですし、人事のスタッフも優秀な方が大勢いらっしゃる。学んだことも、考えさせられたことも多かったですね。
そして、グローバルHRのタスクフォースチームを立ち上げられたと。中身はどういうものですか?
1つ目はHRマーケティングのタスクフォースチームで、目的はグローバル採用の強化です。ウェブサイトを立ち上げて、世界中のどこの労働マーケットに対しても、三井化学がどういう会社で、どういうふうに人がいきいきと働いているかをアピールする。つまり、グローバルなHRブランディングですね。2つ目はコンペンセーションのタスクフォースチームです。これについてはグループ各社がかなりきちんとやってくれていますが、中にはまだグレーディングのシステムを含めてHRの仕組みができていなかったり、運用が不十分で優秀な人材を失ってしまうというケースがありますから、報酬ポリシーをつくって、それを徹底するということです。守っていただかないと困るものばかりですから、そこは絶対に守っていただこうということで、グループ各社の社長とグループグローバルの本社の人事部にリポートしてもらう仕組みもつくりました。
そこができてくると、グループ内で国を超えて人を動かせますね。それで初めて、広い意味でのタレントマネジメントが実践できてくると。
そこが大事ですね。ですから、世界中のどこの国に異動していただいても、新しい仕事の職務価値に応じてグレードが読み替えられ、本国と同様の購買力が担保され、ハードシップのある国なら手当が支給されて、フェアに取り扱われますよという配置ポリシーもつくりました。3つ目はモビリティのタスクフォースチームですが、この配置ポリシーに基づく、配置とキータレントマネジメントの仕組み構築に取り組んでいます。4つ目はHRディベロップメント、つまりグローバルな人材開発のタスクフォースチームで、Off-JTのプラットフォームも含めていろいろな施策を進めています。
世界3拠点のHRスタッフがチームを組んで施策を推進
いま、三井化学グループ全体の従業員数はどれくらいですか?
1万5000人ほどで、そのうち約5000人が海外です。
すると、タレントマネジメントということでは、冒頭でおっしゃったキータレント以外の人たちも全世界で1万人以上いるということですね。その人たちも本社のHRで管理されているんでしょうか。
全員を管理しているのではなく、広い意味のタレントマネジメントのデータベースとしては、マネジメント以上のポジションについてだけ、海外で約300?400名の方々のデータを持っています。その中から早期選抜、育成していく仕組みを、いま、HRディベロップメントのタスクフォースチームでつくろうとしているところです。
パイプラインをつくっていくということですね。ところで、グローバルタスクフォースチームはどういうメンバーで構成されていますか。日本人だけですか?
ドイツのヘレウスのメンバーもだいたいみんな入ってもらっていますし、あと、当社ではシンガポールにいるアジアパシフィックのHRスタッフに優秀な方が多いので、アジアパシフィックとドイツと日本、主にこの3拠点のメンバーで構成しています。他に米国、中国の地域統括会社のHRスタッフにも加わってもらう予定です。日頃のテレビ会議、フェイストゥフェイスでの会議と、相当会議を重ねて議論しながらやっています。
では、もう、三井化学の本社の人事は英語ができないと仕事にならない状況になってきていると。
グローバルタスクフォースチームのメンバーはあまり英語に不自由しない人たちですが、おっしゃるように、近い将来、全てのファンクションがグローバルになって、全体の一部がジャパンであるというマネジメントに変わっていかざるを得ないですね。そういう意味では、人事部内でも、事業再構築や国内採用といった国内タスクフォースチームのメンバーは、英語は勉強しているものの、まだあまり使う機会がありません。そこで、四半期ごとにドイツ、シンガポールからも主要なメンバーに来てもらって行っている全体ミーティングでは、その国内タスクフォースチームのメンバーも参加して、英語でプレゼンしてもらっています。
いいですね。人事も、内なるグローバル化を進めていらっしゃいますね。
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