第6回:組織風土を強力に変える「社会的学習理論」とは

組織リーダーが抱える悩みのひとつに、職場のメンバーが「当たり前と思われる行動」をとれないというものがある。このような人材が集う職場は得てして協力的な雰囲気に欠け、組織の活性度が低くなる傾向にある。どうすれば「当たり前と思われる行動」をとれないと感じるメンバーの行動を変え、気持ちよく働ける組織風土を構築できるのだろうか。今回はこの問題を考察してみよう。

“当たり前の行動”がとれない職場

打ち合わせをしようと思ったら、会議スペースが片付けられてなく乱雑なままで困った。このような経験を持つリーダーはいないだろうか。「使い終わったら、何で片付けておかないんだ!」などと強い不快感を覚えたこともあるかもしれない。取るに足りない出来事と思われるかもしれないが、職場で見られがちなストレス事象のひとつといえよう。

他にも、訪問客に挨拶をせず無言のままでいる、はがれかけている掲示物が直されずに放置されているなど、組織活動を遂行する中では「実行するのが当然」と思われる行動がとれていないと感じる場面は少なくない。

残念なことだが、このような職場は多くのケースで雰囲気が好ましくない。重苦しい空気が漂い、一体感が感じられない。皆で協調して組織目標を達成するなどは、およそ期待困難な環境といえよう。

それでは、“当たり前の行動” がとれないと感じるメンバーに行動変容を促し、活性化された職場に変革するにはどうしたらよいだろうか。

「行動変容」は自由意思に基づくことが鍵

組織リーダーがメンバーの行動を変えようと考えたときには、もちろんその都度、指示を出すという選択肢もある。前述の会議スペースの事例であれば、「何で会議スペースが乱雑なままなんだ。使用後は必ず片付けなさい」などと命じるわけだ。

しかし、残念ながらこのような方法では、メンバーの行動の本質が変わることはない。一時的に会議スペースを片付けるようになったとしても、その行動が長く継続されることは期待しづらいものだ。メンバー自身が自分の意思でとっている行動ではないからである。

ヒトが他者に命じられて行動を変えるケースでは、新しい行動は継続されづらい傾向にある。この特性は職場でも変わらない。部下が上席者の指示を受けて行動を変える「受動的行動変容」は、時間の経過とともに元の行動に戻ってしまうことが多いものである。

メンバーが “当たり前の行動” を励行できるようにするために重要なことは、それらの行動がメンバー自身の自由意思に基づく「能動的行動変容」である必要がある。「命じられたから行う」のではなく「自分の意思で行う」ことが重要なのだ。

従って、メンバーの行動を変えたいのであれば、直接命じるよりも「自分の意思で行う」ように仕向けることがポイントになるといえる。

リーダーの行動がメンバーの行動を変える

それでは、職場でメンバーの自由意思に基づく「能動的行動変容」を促すには、具体的にはどうすればよいだろうか。

実は、この課題の解決には、極めて有効な方法が存在する。部下にとらせたい行動を、リーダー自身が部下の前でとることである。前述の会議スペースの事例であれば、リーダー自身が皆の前で会議スペースの片付けを行うのである。

リーダーがこのような行動をとっていると、次第にメンバーが使用後の会議スペースの整理整頓を自ら実施するようになる。メンバー自身の意思による “当たり前の行動” が少しずつできるようになってくるわけだ。

このような現象は、社会的学習理論に基づく行動変容の典型例といえる。

社会的学習理論による能動的な行動変容で組織活性化を

社会的学習理論とは「ヒトは他者の行動を観察することで、自らも新たな行動を習得したり、既存の行動を変容したりするものである」という概念である。褒められている子の姿を観察した子供が同じ行動を身に付けたり、店員に「ありがとう」と言っている年配者の姿を観察した若者が自分でも店員に感謝の意を示したりするなどは、日常生活の中で見られることがある社会的学習理論の例である。

“褒められる行動” “感謝の意の表現” のいずれも、他者に命じられて習得した受動的行動ではない。自ら見て学び、身に付けた能動的行動である。だから継続性が高い。

同様の現象は職場でも発生する。組織内に定着している規範的行動(実行することが当然であると認識されている行動)は、観察によって形成されやすい傾向にある。とりわけ、職場のメンバーは自身のリーダーをよく観察している。そのため、リーダーの行動がメンバーの行動に与える影響は、思いのほか大きいものだ。

ヒトのこのような特性を踏まえれば、メンバーにとってほしい “当たり前の行動” はリーダーが率先して自ら繰り返すことで、はじめて職場の “当たり前の行動” として定着する。ビジネスパーソンとしての好ましい規範的行動が組織に定着すれば、職場を包む空気は確実に改善していく。メンバー同士の連帯も強化されるため、活性化された気持ちよく働ける職場に近づくはずである。

他人の行動を変えるのは容易ではないが、自分の行動を変えるのは自分の意思次第である。ぜひ、日々の自身の行動を振り返り、自己変容に挑戦していただきたい。