第26回:「部下のやる気を引き出す」を科学する。モチベーション向上のカギは【5つの特性】

「部下のやる気に火をつけたい」……経営幹部なら誰しも、普段からそう思っているものでしょう。しかし、部下にただ「やる気を出せ」、「頑張れ」などと言っても、必ずしもやる気が出るものではなく、場合によってはむしろやる気がダウンしてしまうこともあるかもしれません。では、どのようにすれば部下のやる気を引き出すことができるのでしょうか。今回は、気合いではなく、より再現性のあるアプローチの方法についてお話しします。

部下のモチベーションを引き出す「方程式」とは

「動機付け」や「モチベーション」は、心理学の世界でもかねてより関心の高い、人気のテーマでもあり、様々な研究者が研究・理論発表を行っています。中でも有効性の高いものが、心理学者のJ・リチャード・ハックマン(J.Richard Hackman)と、経営学者のグレッグ・R・オルダム(Greg R.Oldham)が研究・理論化した、「職務特性モデル」(Job-Characteristics-Model)です。

この職務特性モデルでは、職務における以下の「5つの特性」がモチベーションを左右する要因だといいます。

(1)技能多様性(Skill Variety)
(2)タスク完結性(Task identity)
(3)タスク重要性(Task significance)
(4)自律性(Autonomy)
(5)フィードバック(Feedback)


上記の「5つの特性」を満たすことによって、「有意味感」や「責任感」などの心理状態が発生し、モチベーションがアップ。それが仕事の成果につながっていくと考えられるのです。

興味深いのは、ハックマン=オルダムがこの5つの特性を以下のように数式化していることです。

MPS(Motivating Potential Score)
=(「(1)技能多様性」+「(2)タスク完結性」+「(3)タスク重要性」)/3×「(4)自律性」×「(5)フィードバック」


MPSとは「モチベーションが引き出されるスコア」のことで、「(1)技能多様性」、「(2)タスク完結性」、「(3)タスク重要性」が“基本因子”、「(4)自律性」と「(5)フィードバック」が“レバレッジ因子”となっています。

【(1)技能多様性】と【(2)タスク完結性】

我が社ごとで恐縮ですが、経営者JPでは社員の業務担当の仕方を“仕事の流れや関連性を重視したマルチタスク型”にしています。

例えば、Aさんは「セミナー事業」と「会員事業」、「広報業務」を兼務しています。このように組み合わせることで、外部向けセミナーの企画をすること、それを発信すること、そこから顧客が流入してくるプロセスの管理、そして実際のセミナー運営まで、一連の流れを見て、自分の責任と裁量で試行錯誤することができます。実際の顧客にも開催セミナーの場で触れるため、そこで得たリアルなフィードバックを次のセミナーの企画内容や広報の仕方に反映していくことも可能です。こうした過程を通じてAさんは、さまざまな職務スキルを身につけていきます。「5つの特性」のうち、「(1)技能多様性」と「(2)タスク完結性」を満たしているわけです。

上記の例で筆者が言いたいのは、「仕事はなるべく“大きく”切り取って担当しよう(させよう)」、ということです。全体を見ることができ、様々な技を繰り出せるほうが、仕事に意味とやりがいを見出せると考えています。

【(3)タスク重要性】

これも筆者自身が経験した話ですが、某ベンチャー時代に、ある幹部の行動が問題になっていたことがありました。女性社員たちから私に、「ちょっと○○さんに言ってくださいよ!」とクレームの嵐が……。

事の顛末は、ある日の夕方、幹部のBくんがサポートスタッフのCさんに「これ、明日の朝までにやっておいて。お客さんに持っていくから」と伝えたことがきっかけでした。Cさんは、「え、今から? これからやったらかなり残業することになるのに……」と思ったといいます。しかし、Bくんが翌日にお客様のところへ持参するということで、「Bくんの対顧客満足のために頑張ろう」と時間をかけて資料作成をしたそうです。しかし翌朝、CさんがBくんの机の上を見ると、その資料を置いたままお客様のところへ出かけた様子。「あれ? 資料忘れてる!」と、Cさんが慌ててBくんの携帯に連絡したところ、Bくんは、「あ、忘れていた。いいよ、たいした資料じゃないから」と言ったのです。

これでCさんの不満が爆発したことは、言うまでもないでしょう。せっかくの資料が「意味ない」と言われたら、作った当人は虚しいばかりですよね。

この事例から考えると、例えば反対に非常に単純な作業であったとしても、「それがいかに重要で必要なプロセスなのか」をしっかり理解させた上で取り組んでもらえば、部下としてもやる気が起きるものです。「この仕事は意味があるのか? 意義があるのか?」という疑問に、経営幹部・上司としてしっかり答えましょう。デキる経営幹部、上司の皆さんなら、「(3)タスク重要性」をしっかり満たし、メンバーに「自分は重要な仕事をしているのだ」と思わせてあげていることでしょう。そのとき、メンバーの「自己重要感」が満たされ、モチベーションが上がっているのです。

【(4)自律性】と【(5)フィードバック】

当社ではまた、自分が担当していることには、基本的に「自己裁量権」・「意思決定権」があります。決定を仰ぐ事項も、上から指図されたり、「ああしろ、こうしろ」と先に言われたりするのではなく、担当者が「こうしたいですが、よいですか?」というコミュニケーションを取ります。

やりがいを持って仕事をするには、自分が創意工夫できることが大事です(「(4)自律性」)。同じことをやっていても、人から指図された仕事はいまひとつ気分が乗りませんし、反対に自分が試行錯誤したものは面白いですよね。自分がする仕事に意思決定権があると、「自律性」が確保され、モチベーションに好影響を与えます。自分のやり方で仕事を進められ、上司から「ああだ、こうだ」と細かいことを指図されず、仕事を任せられている状態を作ってあげることが大事です。自分のすることは自分で決める「自己決定権」を与えることは、部下のやる気を引き出す大きな要因です。

筆者の出身会社であるリクルートは、創業した当初から現在に至るまで、とにかく称賛する・褒める機会づくりをオフィシャル・アンオフィシャルともに徹底してきた会社です。
私が入社した当時などは、オフィスのあちこちに「受注」や「目標達成」のお祝い垂れ幕が下がっており、太鼓がなったり、目標達成速報の館内放送が流れたりしていました。社内報などでは社員の良い仕事が取り上げられ、社内イベントなどでも必ず表彰プログラムが組み入れられています。

人は認められたり称賛されたりすることで、更に頑張るものです。そのため、自分が行った仕事に対して「(5)フィードバック」の仕組みや仕掛けがあるか否か、手ごたえを確認できるか否かはモチベーションを左右します。業績達成の可視化のみならず、経営幹部・上司の定性的な評価やお客様からの感謝の言葉など、自分が行った仕事に対して何らかの結論、評価、反響を知ることが大切です。

「(3)タスク重要性」の項で挙げた例も同様ですね。上司に提出した書類がどういった使われ方をして、どう役に立ったのかについて、上司から「よくできていたよ。お客様に褒められた。ありがとう!」といったフィードバックがあれば、部下にはとても大きな達成感が生まれます。あるいは、「もう少し、こんな風に作ってもらえるとよかったな」というものであったとしても、失敗と分かれば反省し、「次の行動につなげよう」という気が沸きます。いずれの結果内容であっても、フィードバックはやる気の重要な要素です。
MPS(Motivating Potential Score)の公式を参考に「5つの特性」を自分の仕事にあてはめて考えてみれば、それぞれが自身のモチベーションに関連していることは腑に落ちるかと思います。

そもそも、経営幹部や上司が細かく指示命令をするマイクロマネジメント型だと、社員はそれを煩わしく思いつつも、同時に上に依存する体質となってしまいます。これほど最悪の状態はありませんよね。モチベーションは低く、社員たちの自立心は劣化、組織力は低下する一方です。リーダーシップとは「他人をしてことを成す」ことですが、それはつまり、組織の目標を達成するための“良好な対人影響力”のことを表しています。リーダーがよい影響力を与えている状態とは、部下のモチベーションを維持できている状態を指します。

デキる経営幹部は「5つの特性」が満たされた状態を創出し、それをキープできるように自組織の仕事を設計して配分する。皆さんも、自分の仕事がそうなっているか、部下の仕事をそうしてあげられているか、ぜひチェックしてみてください。