第40回:人手不足の現代に求められるのは「ツアープロデューサー」型リーダーだ! 事業推進において備えるべき“3つの資質”とは

現代の企業では、経営陣から現場まで“モヤモヤ”を抱えた人が非常に多くなっています。「霧がかかった」ような状態を脱するために、いま求められている経営幹部とはどのような人なのでしょうか。

そもそも、企業の社長をはじめとして“事業・組織を率いるリーダー”とは、どのような志向・行動をする(してしまう)生き物なのでしょうか?

事業・組織を率いるリーダーというのは、「同志をどうしても連れていきたい場所」を持つ、止むに止まれぬ想いを持つ存在です。例えるならば、事業や経営という「旅」を率いるツアープロデューサー(旅の企画をする人)、あるいはツアーコンダクター(旅の案内人、世話人)のような立場だと言えるでしょう。

このことから、事業・組織のリーダーになる人が備えていなければならない“3つの資質”が見えてきます。以下で詳しく見ていきましょう。

【その1】行きたい処(夢・ビジョン)がある

ツアープロデューサーたる事業・組織リーダーは、前提として自身の「行きたい処」を持っているべきです。事業・経営においては、成し遂げたい夢や志、ミッション・ビジョンなどがそれに当たります。自分がやりたいこと(行きたいところ)があり、そこに同志である社員たちを連れていきたいという欲求を持っていることが、「事業・組織リーダーたるべき人かどうか」の第一歩だと言えるでしょう。

筆者は経営職・幹部職のキャリアや転職のご支援をしていますが、普段からご相談者の経営者・幹部各位にまず質問するのは、「○○さんは(今後)何をやりたい人なのですか?」ということです。これに明確に答えることができないならば、いま一度、ご自身が組織を率いるリーダーという役割を負うべきか否かについて自問自答をして頂きたいです。

事業を推進する上で、部長や執行役員、取締役、社長という「肩書き・役割」はあくまでも手段に過ぎません。その役割を自分が負うことで何を成し遂げたいのか、誰とどこへ行きたいのか。少なくともこの回答をお持ちでない人は、事業・組織リーダーに向いているとは言えません。行き先が定まらないトップに従い、社員が路頭に迷ってしまうのは可哀想ですよね。

【その2】旅の仲間を募る力がある

自分の夢に共感させる説得力、そしてその夢やミッション・ビジョンに人を集められる力。つまり、“旅の仲間”を募る力こそが、事業・組織リーダーの条件・その2です。魅力的な旅、自分にとって良い体験を得られそうなツアーには、人がどんどん集まってきます。

折しもいま、“大・人手不足時代”が到来しており、魅力を感じない企業へは人が全く集まらなくなっています。これは必ずしも企業規模などの問題ではなく、その企業に参加することで「自分が今後やりがいある働き方ができるのか」、「見返りがちゃんとありそうか」という観点での企業選別フィルターがかかり始めているのです。

当連載をご覧の経営者・幹部の皆さんは、「だれをバスに乗せるか」というフレーズを聞いたことがあると思います。これは、ビジネスコンサルタントのジム・コリンズ氏による名著『ビジョナリー・カンパニー2』に出てくる有名なフレーズ。実は本書の第3章のタイトル自体がこれで、その副題として「最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」と記されています(私はこの「人が先、目的は後」については一部異論があるのですが…)。目的も含めて、「どのような人と、どんな想いや価値観を大切にして、この旅を一緒に歩みたいのか」という観点で、「だれをバスに乗せるか」というフィルターはとても重要であると思います。

旅の仲間は誰でも良い、ということはありませんよね。皆さんが「この人とならともに旅をしたい」と思うのは、どのような人でしょうか?

【その3】目的地まで旅を続ける力がある

“旅”に出たら、何としても目的地に辿り着く。「皆をそこまで連れていく」という執念を持つ。

もちろん、一般的に私たちが参加するツアーなども、ちゃんと目的地まで辿り着かなければ困りますし、ツアーの行程がしっかり予定通りにこなされなかった場合にはクレームが発生しますよね。しかし、今回喩えている“経営・事業という旅”については、ツアーというよりも、ひょっとすると「冒険」といったほうが適切かもしれません。

当初計画されたスケジュールがあったとしても、おそらくスケジュール通りに進むことはあり得ない。道中に様々な困難や障害、難敵などが現れるアドベンチャーとなるでしょう。とはいえ、決して「雨天中止」という訳にはいきません。この嵐の中を、旅の仲間とともに、時に励まし、時に叱咤し、いかなる苦難が襲いかかっても、何としても目的地までたどり着く信念・執念を持つツアーコンダクターこそが、社長なのです。

時どき、経営や事業が困難に突き当たると、最初に逃げ出してしまう経営者・役員の方もいます。これがいかに間違ったことか、そういう行動をする経営陣の本質的な問題に、この話から気づいていただけることと思います。

継続力や、仲間をチームワークさせる統率力(信頼感)を持ち合わせる存在こそが、正しい事業・組織リーダーなのです。

経営・事業という「終わりなき旅」

そして最後に述べておきたいのは、この“経営・事業という旅”には終わりがないということ。むしろ、終わりを設けてはいけないのです。

当初設けた目的地・ゴールが近づいてきたとしたら、できる事業・組織リーダーは、そこからさらに先へと目的地・ゴールを伸ばします。そうして、「終わりなき旅」を仲間とともに旅し続けるツアープロデューサー/コンダクターこそが、事業・組織リーダーなのです。

もし、あなたの中にある「同志をどうしても連れて行きたい場所」への情熱が、目的地到着によりゴールを迎えてしまったら…。あるいは、その情熱が潰えてしまったら…。その時こそ、あなたが次の後継ツアープロデューサー/コンダクターへと旅のバトンタッチをする時です。

さて、あなたは事業・組織リーダーとして、メンバーにどのような旅を告知し、旅に臨んでいらっしゃいますか? ぜひお聞かせください!