学習院大学

高い目標を掲げ、
実行できる人材を求める

淡野
企業の採用選考において、学生のどのようなところに注目されているのでしょうか。
杉原
大きく分けて3つあります。1つは先ほどお話しした、変化を受け入れる素地があるかどうかという点。2つ目は、私自身も楽天で三木谷社長と仕事をしてきた中で強化された部分なのですが、常に高い目標を掲げて、それをやり切る力です。人間は弱い生き物なので、100を求められたら自己目標は200くらいに設定しておかないと、なかなか達成できません。ここで大事なのは、200を達成するためにどうしたらいいのかを考え抜くこと。200を目指して試行錯誤しているうちに、実は当初の目標である100を超えてしまうものなのです。面接では、高い目標を掲げ、実行する癖がついているかどうかを見ています。そして3つ目が、人材のバランスです。我々は仕事を作り上げるタイプを、「0を1にするのが得意な人」、「1を10にするのが得意な人」、「10を100にするのが得意な人」と分けており、それぞれをバランスよく採用するようにしています。イノベーションが求められる今日において、「0を1にするのが得意な人」を採用することも重要ですが、同時に、アイデアレベルのものを事業化して収益に繋げられる、つまり「1を10にするのが得意な人」を増やしていくことも必要です。
ちなみにこれは私独自の面接のやり方ですが、できるだけ質問は順序立ててしないようにしています。例えば、Aを聞いたら次はBを聞いてくるだろうと思うところを、あえてGやHを聞く。そうすることで、頭の切り替えの速さや対応力、さらに話が一貫しているかどうかなどを確認しています。

学習院大学になかった新設学部で道を作ってきた学生たち。
そして大学と企業をつなぐキャリアセンターが
考えるキャリア教育とは

淡野
ここで学習院大学の取り組みについて、いくつか紹介させてください。まずは国際社会科学部の環境や社会に出て行く学生の特徴を、末廣教授から紹介いたします。
末廣
国際社会科学部は、学習院大学に52年ぶりにできた、全く新しい学部です。設立の目的である「グローバルビジネスを担うための語学力と課題解決力を養成する」という点を明確にし、それに添ったカリキュラムを組んでいます。まず前提として在籍する学生たちは、「0から1」となった学部のコンセプトに共感して集まってきました。そして、歴史と伝統のある「学習院大学」の中にできた学部という前提があるとはいえ、全く実績のない新設学部に志願してきた以上、未知のものに飛び込む勇気や好奇心、そして進取の気質がある若者たちです。
在籍する学生のうち四分の一が、高校までに留学や海外滞在の経験を持っています。一方、四分の三は、留学経験のない、興味関心はあっても英語もそこまで得意ではない学生たちです。彼らはカリキュラムに従い、全員が自分の考えにもとづいて世界各地で海外研修(留学)をしてその経験を持ち帰り、国際社会科学部の中で再び混ざり合います。
そしてなんといっても、女子学生が元気で積極的です。国際社会科学部は女性が三分の二を占めており、私が接している限り、新しい変化により柔軟に対応できるのも、海外に行ってポテンシャルを引き出して帰ってくるのも、女性たちが多いと感じています。国際社会科学部はビジネスコミュニティで活躍したいと考える女子学生が多い点もひとつの特徴ではないでしょうか。
また、大変ありがたいことですが、学生たちが「国際社会科学部」に愛着を持っているという事実があります。オープンキャンパスなどでも積極的に企画を立てて広報に協力してくれますし、授業でもより良いプログラムにするために意見を出してくれます。自分たちが帰属する場所や経験を共有している学生が多いことも魅力として言えることです。
このような資質・特徴を持ち、学びを得た学生が集まっているということが、国際社会科学部の、その他の学部と一線を画す特徴となり、グローバル人材につながる多様な環境を生み出していると考えます。
教員側としても国際社会科学部は新設学部ですので、そのぶん変化に寛容で新しい技術を取り入れることに柔軟です。たとえば、授業中にWi-Fi を使用したり、「Moodle」と呼ばれる学習ソフトを使って試験やミニテストを実施したりする教員は少なくありません。一方、学生は入学すると同時に、語学の授業や入門演習で、パワーポイントを使ったプレゼンテーションを要求されます。また、18名の専任教員のうち6名が外国人であり、アジアや途上国に強い教員が多いことも国際社会科学部の特徴です。欧米諸国だけでなく、世界の変化の先端を行くアジアなどで学び、肌で触れる機会を提供できることは本学の強みです。
杉原
企業側から見ても、国際社会科学部の取組みは素晴らしいと思います。社会のあらゆる課題に対して、既存の学問で解決しようとしても、まだ手の届かないところが沢山あります。だからこそ新しい学部には期待したい。既存の学問と掛け合わせてみたり、あるいは既存の学問にはない新たなものに取り組んだりと、学生さんにはどんどんチャレンジしてほしいですね。そこで得たものこそ、社会に出たときに一番の武器になるでしょうし、またそれこそが新学部から企業が人を採りたくなる理由でもあると思います。
淡野
キャリアセンターでは、単なる就活のテクニックを教えるのではなく、学生生活や卒業後のより良い人生のためにキャリアを考えるキャリア教育を重視しています。そのために、日本社会の質的変換や、それに伴う就業・就職環境の分析、これからの社会に必要になる資質・能力などを踏まえて、常に新しい取り組みを行っています。一例として、昨年から全学部を対象にベトナムでのインターンシッププログラムを始めました。これは、現地で働く日本のビジネスパーソンや現地で活躍している本学の卒業生の団体(ベトナム桜友会)、ベトナム人の学生たちと交流を図りながら、海外で働くことのやりがいや苦労、現地の生活などを体感し、グローバルな感覚を磨いていくというものです。キャリアセンターという組織が主催で海外インターンシップを行っているような大学はほとんどないと思います。
また、これからの社会には、自分の考えをしっかりとプレゼンできる能力が必要であると考え、キャリアセンターで提供するほとんどのプログラムはアクティブラーニングの手法を取り入れています。ちなみに、ここで特に適応力を見せるのは、やはり国際社会科学部の学生たちで、新しいことを受容できる感度や変化に対応する柔軟性を、カリキュラムの中で鍛えられていることを実感します。
淡野
最後に、グローバリゼーションがますます進む、変化の激しい時代に向かう学生に対して、学びのヒントやメッセージをいただけますか。
杉原
社会は変化の連続で構成されているので、変化に抗うと自分が損をしてしまいます。ぜひ変化の波に乗って、それを楽しめるような人になってください。きっとチャンスはたくさん訪れますし、我々もそういう人と一緒に事業を成長させていきたいと思っています。
末廣
私はアジア諸国、とくにタイを45年ほど研究していますが、その間に3回くらい国が激変するのを経験しました。しかし、タイがどんどん変わっていく姿を目の当たりにし、私自身はとても楽しかった。変化についていく、あるいは対応するというのは、しんどい面もありますが、楽しいことも多い。学生にはぜひ、変化に向かってチャレンジしてほしいです。教授陣はその挑戦を全力でサポートします。
淡野
お二人の言葉は、国際社会科学部の学生たちにしっかりと届いたと思います。そして、限られた4年間で思う存分学び、挑戦し、変化を楽しめるグローバル人材として成長を遂げ、社会に巣立ってくれるように、キャリアセンターも支援していきたいと思います。本日は、お忙しいところ誠にありがとうございました。
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学習院大学国際社会科学部とは

学習院大学国際社会科学部は2016年4月に新設された、同大学で最も新しい学部である。国際的なビジネスコミュニティで活躍できる素養を身につけた即戦力のある人材の育成を目指し、社会科学の5分野「法学・経済学・経営学・地域研究・社会学」を幅広く学ぶカリキュラムを通じて、国際経済・社会が直面する課題を理解し、さらにそれを解決する力を養う。2020年春に第1期生が卒業を迎える。

学習院大学国際社会科学部
Profile
杉原 章郎 氏

杉原 章郎

株式会社ぐるなび
代表取締役社長

楽天の創業メンバーの一人。1997年より「楽天市場」の出店営業部門を担当した後、楽天市場以外の複数の事業立ち上げに従事。取締役新規事業開発部部長、楽天オークション部長(当時)、楽天ブックス㈱社長(当時)、開発部門担当役員などを経て、グローバル人事担当役員ならびに障がい者雇用の特例子会社である楽天ソシオビジネス株式会社の社長を務めた。2019年6月に株式会社ぐるなび代表取締役社長に就任。

末廣 昭 氏

末廣 昭

学習院大学
国際社会科学部 教授

1976年東京大学大学院経済学研究科修了後、アジア経済研究所、大阪市立大学を経て、1995年より東京大学社会科学研究所教授。2009年〜2012年、同研究所所長。タイ国チュラーロンコン大学客員研究員、ベルリン自由大学、メキシコのコレヒオデメヒコ大学院大学の客員教授、フランス Collegium de Lyon の招聘研究員。アジア政経学会理事長、日本タイ学会会長などを歴任し、2016年より学習院大学国際社会科学部教授。2010年紫綬褒章受章。

淡野 健 氏

淡野 健

学習院大学
キャリアセンター担当事務長

1985年学習院大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。新規事業・総務人事採用、営業事業部門長を歴任。モチベーションマネージメントや就活テーマで企業や大学講演を経験。2009年、スポーツ選手のセカンドビジネス企業を起業。2010年4月より現職として、キャリア支援、講座ファシリテーター、セミナー運営、企業関係構築を図る。CCE,Inc.認定GCDF-JAPANキャリアカウンセラー。

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