経営×人事×タレントマネジメント

タレントマネジメントに取り組まれている企業を訪問し、その導入事例をシリーズでご紹介するとともに、
タレントマネジメントを切り口として、人事と経営の関係性や今後求められる人事のあり方を考察していきます。

Vol.12 社会価値と経済価値を連鎖創出していく経営を支え、「味の素らしさ」を打ち出した人事施策を展開

味の素株式会社 グローバル人事部 次長 髙倉 千春氏
聞き手:HRエグゼクティブコンソーシアム 代表 楠田 祐氏

うまみ調味料「味の素®」に始まり、加工食品、飲料など多様な製品を扱うグローバル食品メーカーとして、また、栄養、医療などの分野で使われるアミノ酸のリーディングカンパニーとして、世界130の国・地域で製品を販売する味の素グループ。
社会価値を生む「非財務目標」を掲げた新中期経営計画
味の素さんは、グローバル展開をかなり早く始められた日本企業のひとつだと思います。最近の状況と、今、向かっている方向について教えていただけますか。
早くから出ている東南アジア、南北アメリカ、ヨーロッパを中心に、近年では中国、アフリカにもフィールドを拡大しています。拠点は日本を含め27の国・地域にあり、海外売上高比率はほぼ5割という状況ですが、ここ数年、進めているのは、真のグローバル企業を目指す取り組みです。具体的な姿としては、グローバル食品企業トップ10クラスに入るということを掲げ、4月から展開している「2017-2019(for2020)中期経営計画」では、2020年に営業・事業利益額、営業・事業利益率などをグローバル食品企業トップ10クラスの水準に押し上げることを財務目標としています。
新中期経営計画について、もう少し聞かせてください。
今、お話しした財務目標と並んで、非財務目標を掲げていることが非常に大きな特徴です。味の素グループは「Eat Well,Live Well.」をコーポレートメッセージとし、食と健康、そして明日のよりよい生活に貢献することを目指している企業ですが、味の素グループの事業活動が社会価値の創造につながり、それが経済価値の創造につながっていくという、ASV(Ajinomoto Group Shared Value)を通じた価値創造ストーリーの考え方を新中期経営計画の中心に据えています。
経営学者のマイケル・ポーターが、経済価値と社会価値を同時に実現させていく「Creating Shared Value(クリエイティングシェアードバリュー)」という考え方を提唱していますが、本気で経営に取り入れている企業はまだ少ないですね。
社会価値を生み出す非財務目標を6つ掲げています。「当社グループ調味料による肉・野菜の摂取量」、「当社グループ製品による共食の場への貢献回数」、「当社グループ製品を通じて創出される時間(日本)」、「アミノ酸製品(アミノサイエンス)を通じた快適な生活への貢献人数」のほか、「調達・生産・消費を通した環境問題の解決」、さらに「働きがいを実感している従業員の割合」についても数値目標を定めています。例えば、味の素グループがうま味を軸とし、たんぱく質・野菜が摂取できて、おいしくからだに良いメニューをプロデュースしたり、簡単に調理できるおいしい食品を提供したりすることで、社会の人々がたんぱく質・野菜をおいしく摂取し、栄養バランスを改善したり、家族一緒に食事をしていただける機会が増えるといったイメージです。
社員のShared Value活動を評価する新制度
自分たちの事業活動が社会的利益を生み、それが経済的利益を生み出す、利益を追求するだけの企業ではないというのは、味の素グループで働く世界中の方々にとって非常にわかりやすいし、共感してもらいやすい考え方ではないでしょうか。
私たちグローバル人事では、今、この考え方を全ての従業員に理解していただくため、各国を回ってセッションを実施しています。先日はナイジェリアの都市ラゴスにメンバー2人が行き、営業職の現地採用スタッフを中心に、ASV(Ajinomoto Group Shared Value)とはどういうことか、アフリカでそれを実現するとしたら何をやりますかといったワークショップを行いましたが、反応が非常によかったですね。こういう会社に勤めてよかった、誇りに思うといった声が出ていました。
素晴らしいですね。
さらに、当社の新たな方針として、この考え方に沿った行動がきちんと評価される制度を導入します。ASV(Ajinomoto Group Shared Value)を通じた価値創造を各個人の目標に加え、1年間どういうことをしたのかを自由記述式で書いていただいて、人事が数値換算し加点評価する仕組みです。社会的な貢献を通じて自分がこの会社で何をしたいのか、従業員一人ひとりに考え、行動していただこうというのが狙いです。
そこまで踏み込んだ取り組みができている企業はまだ少ないでしょう。画期的ですね。
個人と会社の成長を同期化し、イノベーションを実現
経営に貢献する人事としての全体的な取り組みについて、聞かせていただけますか。
新中期経営計画に合わせて、人事の新中期計画が4月から展開しています。いくつかの柱があり、1つ目は一人ひとりの「自律的成長」の実現です。自分は何をしたいか、何が強みか、何によって貢献したいのかといったことを、グローバル3万3000人にあらためて考えてもらう計画です。2つ目は「働きがいの実感」ですが、働きがいを実現できるかどうかは、自分はどうしたいのかが確立していないとわかりませんね。つまり自律とつながっています。3つ目は「多様な人財の共創」です。ここでいう「多様」とは性別や国籍に限ったことではなく、一人ひとりのよさを活かすことが主眼です。これもまさに自律なくして実現できません。最終的には、この3つのエレメントを好循環させることにより、個人と会社の成長を同期化してイノベーションを実現させていくことが目的ですが、その中心にあるものとして、味の素のDNA、「人を求めてやまず、人を活かす」という、多様性につながる精神を再認識したいと考えています。そして、3つのエレメントを好循環させるときに大事なのは「心身の健康」ですから、ここは私たちの真骨頂の「Eat Well,Live Well.」を社内で展開し、健康経営を通じた社員の健康増進をグローバルに推進します。
なるほど。見事に全部つながっていますね。
具体的な施策もこれからスタートさせていきます。例えば、従来から国内の管理職を対象に実施しているキャリア開発支援プログラム、これは本人が作成したキャリアプランを基に上司と面談する制度ですが、まず、この1〜2年でグローバルの部長職以上全員に導入します。また、働きがいの実感という部分では、働き方改革を日本のみならずグローバルで推進します。さらに、多様な人財の共創という部分では、以前から取り組んできたタレントマネジメントの仕組みから、成果が生まれ始めており、今後さらに発展させたいと考えています。
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