経営×人事×タレントマネジメント
Vol.10 次なる飛躍のステージに向けて組織能力を問い直し、MBO-S強化を狙う3年計画の管理職研修をスタート
事業部門のトップが幹部や従業員の育成配置にコミット
エグゼクティブマネジメントの強化が大事だということでしたが、そこはどのように取り組まれていますか。
部長職、課長職を対象としたビジネスリーダー制度を実施しています。事業会社の社長や事業本部長といったトップが自分たちの部下を見て、それぞれの人事担当と話し合い、この人を育成したいというリストを上げてきますので、その人たちに特化した研修を8カ月ほどかけて行っています。この研修を主軸として前工程と後工程を置き、各部門で研修の前にそれぞれの人の育成計画を作ってもらい、研修が終わると、次はどういうところにローテーションするのか考えてもらっています。
研修とローテーションがセットになっているのは素晴らしいですね。各事業の幹部のサクセッションプランについては、仕組み化、制度化されているのですか。
事業部長や事業本部の本部長などには、人事計画を年1回作成してもらっています。自分の後任は誰だと考えているか、また、各ポストに就いている人たちは現職を継続させるか、変えるのかといったことを、事業会社や持株会社の社長とも話し合い、計画を立てるというものです。また、幹部のみならず、従業員一人ひとりについても、事業会社ごとに営業、研究開発、製造、スタッフといったカテゴリーに分けて、人財育成配置会議というものを行っています。それぞれのトップの人たちが3カ月に1回など定期的に集まって、各フィールドの中でどうやって幹部を作っていくか、あの人は最近ちょっと停滞気味だから動かした方がいいんじゃないかといった議論をする場で、いわば育成をイメージしながらのローテーション会議です。
お聞きしていると、人について話し合う会議や仕組みが非常にきめ細かく、それぞれが連携しているという印象です。
採用と育成をシームレス化。人事システムは刷新へ
岡本さんと小澤さんがいらっしゃる部署名は採用・人財開発室ですが、採用と人財開発を一つの組織にされていますね。
人ということを、入口の採用から育成まで、双方の担当者が連携して、切れ目なく考えられるようにしようと、2年ほど前に組織変更しました。例えば、新卒で入社した人が5年目程度になった時、きちんと育っているか、また、適切な採用活動ができたかの振り返りをどのように評価すればいいかといったことを、今、議論しています。育成のためには入社した人たちを多様な角度から見ていくことが大事で、その分析をより良い採用につなげていこうと。そこで、人に関するデータを活用していくためのシステムについても、小澤が中心になって検討しています。
当社の人事系システムは給与計算システムから始まり、その周りにアドオンのシステムを数多く作ってきた中で、人を多角的に見ることができるデータを相当蓄積していますが、あまり活用できていないのが実状でした。今、ちょうど人事系システムを刷新するプロジェクトが進んでいますので、採用、人財開発という観点からはどういうシステムにしていけばいいのかを関係者と議論し、その姿が見えてきたところです。
蓄積したデータを使って、人に関して考えるという部分をいかに向上できるかが大事だと思っています。AIを搭載したシステムも出てきていますから、そうした新しい技術を使っていろいろなことができそうですね。
例えば、採用の時の評価から、入社後は上司が誰で、業績に対する評価がこうで、こういう研修を受けて、といったデータが積み重なっていくと、こういう人はここに配置するといいですよといった提案がAIを搭載したシステムから出てくる。それを材料にして、実際にどうするかは人間がアナログで考え、決めていくようなイメージを持っています。
エグゼクティブに限定せず、全社員を対象にしたタレントマネジメントシステムを考えていらっしゃるわけですね。
しかも、人事だけのためのシステムではなく、事業会社などの幹部やマネージャーも常に活用しながら人を見ていけるようなものにしますし、将来的には海外のグループ全従業員を対象とし、グローバル共通で使えるものにしたいと考えています。
海外売上高比率が35%ということでしたが、今後、グローバル展開を加速される中では、グループ全従業員をタレントとして“見える化”して、優秀な人をプールし、幹部候補を育成していくような仕組みも必要になるでしょうね。
まさにそうだと思います。組織体制としても、これまではグローバル人事の担当者を本社に置いていましたが、今は全世界の4つのリージョンごとにリージョナル人事を置き、現地で日本人の駐在スタッフとナショナルスタッフが一緒に仕事をしています。
グローバルHRのあり方を含めて、旭化成さんの人事はこれから大きく変わりそうですね。今日はありがとうございました。
岡本 真治
旭化成株式会社 人事部 採用・人財開発室 室長
1990年入社、宮崎県延岡市の勤労担当に配属、以降労務企画、医薬・医療担当人事、ケミカルズ人事等を経て2014年より現職。入社以来一貫して人事・勤労関係業務に携わる。
小澤 昌子
旭化成株式会社 人事部 採用・人財開発室 担当課長
1993年入社、旭化成マイクロシステム㈱営業企画、旭化成人事部採用担当を経て1999年より17年に亘り旭化成労働組合の専従役員を務めた。2016年10月、人事部に帰任。
高比良 和俊
旭化成株式会社 人事部 人事制度室 課長
2000年入社、宮崎県延岡市の勤労担当に配属、以降国際人事、スタッフ担当人事、医療担当人事を経て2014年より現職。入社以来一貫して人事・勤労関係業務に携わる。
楠田 祐
中央大学 大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 客員教授
戦略的人材マネジメント研究所 代表
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問も担う。主な著書:「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。最新の著書は「内定力2015〜就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)
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