経営×人事×タレントマネジメント
Vol.9 2020年に時価総額1兆円企業に。経営目標の実現に向け、グローバル経営人材のパイプライン構築に取り組む
グローバル経営人材の候補者を100人から200人に増やす
経営層の候補者を5年ほどで100 人増やそうとされているわけですね。簡単ではないでしょう。
当社では世界で活躍できるグローバル経営人材を「グローバルSAMURAI」と呼んでいますが、その人材パイプラインを構築するにあたって、どういう人材が候補者になるかという指標を明確にするため、ディフィニション(定義付け)を行いました。ディフィニションにはいろいろな要素があり、英語力も必要ですが、英語だけが出来ても、国内で戦えない人間がグローバルで戦えるかといえば違います。日本での過去の業績の評価も見ますし、どれだけ自己啓発をしているかというのも要素の一つです。上司や先輩の背中を見て学ぶだけでは、未知の領域に会社を引っ張っていくリーダーになれないからです。
候補者の選抜は、若手の場合は我々で決めていますが、もっと上の人材になると社長に最終的な判断をしてもらっています。もともと、当社では以前から次長以上の管理職の年俸を決める面接を、社長が毎年全員と行っています。社内の人材について、我々より知っていることもあるほどです。
社長が人材のことにそこまで深く関与して、時間を取っていらっしゃるとは素晴らしいですね。育成プログラムについても教えていただけますか。
2015年に次世代グローバル経営人材を育成する企業内大学、「グローバルSAMURAIアカデミー」を創設しました。コースは若手からシニアまで、年代別に5段階に分かれていて、最初は若手・中堅選抜人材(6年目~主任)が対象の「若武者編」、次がミドル基幹人材(係長・課長)を対象とする「侍編」、さらに、次期幹部人材(次長・部長)が対象の「骨太経営者編」、役員対象の「エグゼクティブ編」へと続きます。また、女性管理職を積極的に増やしていこうと、今年度から次期管理職候補人材(女性主任・係長)を対象とした「カタリスト編」をスタートさせました。
カタリストとはどういう意味ですか?
化学用語の「触媒」です。職場で周りの人に刺激を与え、活性化させる能力を持つ人という意味で、このように名付けました。今年、研修を行うと、来年は受講生一人ひとりに対し、本人と上司、人事も入って、キャリア面談を3カ月おき程度の頻度で行っていきます。
確かに、女性管理職の育成は現場の上司のサポートにかかっています。そういうフォローは大事ですね。ところで、各コースの受講者は選抜制ですか。
ミドル対象の「侍編」以降は選抜制ですが、若手・中堅対象の「若武者編」は手挙げ制です。自分の意思で「やりたい」とハンズアップした人の中から、レポート提出やインタビューを経て受講者を決めています。
やる気のある社員に、若いうちから海外体験をさせる
ほかにも、グローバル経営人材の育成に関して、意識されていることや特徴はありますか。
早くグローバル経営人材を作っていかないといけませんから、ある程度年次が上がってからでは遅い、若い時からどんどんやっていこうというところは、一つの特徴だと思います。例えば、将来、経営幹部になるには幅広い経験が必要ですから、若い時に多様なフィールドを経験してもらうため、入社して10年間に3部署を経験するOJTを実施しています。
これは人事から異動を通知される場合もあれば、公募の形で自ら手を挙げて異動する場合もあります。
また、海外体験はできるだけ若いうちにした方がいいので、入社3年目以降の社員を対象にした海外トレーニー制度も実施していますが、こちらは完全に手挙げ制です。現地法人で1年間働く機会が与えられる制度で、以前から実施していたものを大きく改変しました。
毎年2人ずつ海外に送っていたのを2016年度から10人に増やし、応募できる年次も1年早めて、入社満3年から赴任できるようにしました。また、送り出すにあたっては、本人と現地赴任先の社長と人事の三者で、どういうことをしてくるのかというプログラムを作成し、赴任中は毎月レポートを提出させ、人事の担当者が定期的にトレーニーとスカイプで面談してフォローするといったことも始めました。
毎年10人とは一気に人数を増やされましたね。
ここ数年、当社は「グローバルSAMURAI結集セヨ」というキャッチコピーを掲げて新卒採用を行っていて、海外で活躍したいという若者がかなり入ってきています。ですから、早く海外に出してあげないといけないというところもありまして。
入社の段階から、グローバル経営人材になるポテンシャルがあって、期待できる人材を採用されているということですね。
今後は海外ローカルスタッフの育成強化や幹部登用も
次世代グローバル経営人材のパイプラインを構築する上では、タレントマネジメントのシステムを使って管理をやっていらっしゃいますか。
可視化するためのツールとして、タレントマネジメントシステムを導入しています。いろいろな人材データを紐付けできますし、先ほどお話ししたグローバル経営人材のディフィニションも取り込んでいます。やはり、可視化することによって議論が簡単になることが大きなメリットです。
今後、グローバル化を加速されていく中では、海外現地法人のナショナルスタッフの育成も考えていかないといけませんね。そこはいかがですか。
これからはローカル採用の人材をリーダーとして育成し、ミドルマネージャーをシニアに上げていくといったことも必要になってきます。将来的には「グローバルSAMURAIアカデミー」のローカルスタッフ版があってもいいだろうと考えています。
日清食品さんは、今は海外売上高比率が2割ほどということでしたから、これが4割を超えてくると、おそらくそういう動きが本格的に出てくるのだろうと思います。今日、お話をお聞きして、経営や事業が目指している目標はここだから、こういう人材がいつ何人必要で、このように育てていくというロジックを組み、着実に進めていらっしゃる印象を受けました。まさに戦略人事のあり方だと思います。今日はありがとうございました。
上村 成彦
日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CHO グループ人事責任者
1981年、ソニー株式会社に入社。海外事業本部を経て16年間、海外(クウェート、スイス、シンガポール)で営業・マーケティングを担当。2009年から、アジア・オセアニア・中近東・アフリカの地域統括会社社長を務め、Sony University Singapore Campusを設立するなどして、シンガポールHR InstituteよりBest CEO Awardを受賞。2013年2月より、ソニー株式会社人事部門副部門長として、人材開発・採用・ダイバーシティ開発・グローバル人事を担当。2014年11月より現職。日清食品グループの人事全般を統括。
橋本 晃
日清食品ホールディングス株式会社 人事部 人材開発室 課長
1991年、日系金融機関に入社。その後、外資系企業2社にて人事マネージャーとして勤務し、2015年6月より現職。現職において、グローバル人事、及び教育・人材開発業務チームのマネージャーとして勤務。
楠田 祐
中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 客員教授
戦略的人材マネジメント研究所 代表
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問も担う。主な著書:「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。最新の著書は「内定力2015〜就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)
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