コロナ禍で失われたものとは? 心理的ウェルビーイングを取り戻して生産性を上げるポイント

コロナ禍が落ち着きを見せている。しかし、仕事人たる個人に目を向ければ、燃え尽きたり、喪失感や悲しみを経験したり、社会的孤立を感じたりしている人が多いようである。そこから立ち直らないと、かつてのように仕事に「喜び」を見出すのは困難となる。「喜び」という感情は私たちのウェルビーイングや認知機能、そして仕事のパフォーマンスに欠かせない。今回は、コロナ禍を経て私たちがより良い状態で仕事に臨むためにはどうすればよいのか、ということについて考察してみる。

「喜び」を取り戻すためにはどうすればよいのか?

「喜び」は、私たちのウェルビーイングや認知機能、そして仕事のパフォーマンスに欠かせない感情反応と態度であることが学術的にも検証されている。この「喜び」をコロナ禍で喪失した人が多いのはなぜなのか?

私たちは、パンデミックがもたらす絶え間ない不確実性に直面し、身を潜め、サバイバルのような感覚で色々なことに対応してきた。テレワークも思ったほど効率的ではなく、オフィスへ通う日常が全面的に再開すれば、この「喜び」を取り戻さないと生産性が上がるどころか、メンタル疾患にも罹患してしまう。コロナ禍の経験は人それぞれだが、誰もが喪失感や悲しみに遭遇してきたのではなかろうか。この間、心身は疲弊しているのに、そうではない雰囲気を醸し出さなければならなかった。「内なる本当の自分」と「他者への振る舞い」が乖離し続ければ、心理的ウェルビーイングが損なわれてしまうのは自明だ。

また、自分の強みを活かしたいのに、とにかくやるべきことを、できるだけ効率よく、現実的にこなしていかなければならないというプレッシャーに圧倒され続けてきた。こうした状況下では、本来感じるはずの仕事の「喜び」を感じ取ることはできない。

人間は社会的孤立を感じると、認知の柔軟性や新しい事への対応力など、認知能力と実行能力が低下する。その結果、ネガティブ感情が高まると、自分のパフォーマンスや能力が低下していることに自己嫌悪を抱くなど負のスパイラルに陥って、同じ仕事をしていてそれが上手くいっても「喜び」が湧き上がってくることはない。

では、どうすれば喜びを取り戻すことができるのだろう。コロナ禍前の充実した「喜び」を完全に復活させることは難しいかもしれない。しかし、「喜び」というのは、自分の強みを活かし、勇気と自分らしさ、感謝の気持ちを持ち、人と心を通わせることによって得られるものである、と考えればやりようがあるのではなかろうか。
そこでお勧めしたいのが、以下の3つのポイントだ。

1)仕事に自分の強みを活かす


自らの強みが仕事に活かされれば、それは「喜び」の促進剤になる。最初のステップは、それが何かを突き止めることである。自分の強みが明らかになったら、それを日々の仕事にどう取り込めるかを考える。たとえ僅かな時間でも自分の強みを発揮できた感覚が得られれば、その後の日々が変わっていく。些細なことでも、それを積み重ねていくことが大切である。

2)自分の成長に注力する


部下を持って指導する立場のマネージャーに不可欠なのが、自分の成長に時間を費やすことである。学習の喜びは、困難を乗り越えて粘り強く努力し目標を達成できた時に得られる。そうすれば、仕事への情熱が蘇る。さまざまな学習プログラムを用いて、自己成長に繋げる努力を惜しまないようにしたい。

3)仕事を通じて人間関係を再構築する


「喜び」は単なる個人的現象ではなく、相手に親切にしたり、積極的に人間関係を働きかけたりといった行動を通じて、他者との絆を深めることではないだろうか。また、「自分にとって大切な人との“距離が縮まると感じられる状況”にいる時の反応」などとも定義されることもある。孤立感に打ち勝つには、さまざまな方法で意味のあるコラボレーションに関わるとよい。そこで得た「繋がり」は自分自身のエネルギーを高めるだけでなく、チームの成果を向上させることにもなる。

他者と有意義に繋がるために、コーチングも有効だ。的確なコーチングが行われると、双方にポジティブな変化をもたらす。このような変化には、マネージャーが経験する、慢性的で強いストレスによる心理的・生理的な影響を軽減する力もある。コロナ禍で壊れた人間関係を積極的に再構築したい。

日々の仕事の活動領域と時間の有効利用

最後に、筆者の日々のコンサルティング業務の中で、「時間の有効活用が曖昧になっている組織」が多いと感じることについても触れておきたい。下図は「日々の仕事の活動領域」をリスト化したものである。
コロナ禍で失われたものとは? 心理的ウェルビーイングを取り戻して生産性を上げるポイント
自己効力感が高まるのは「IIの領域」である。なぜなら、私たちに「変化」と「成長」を促すからである。しかし、現実には「Iの領域」と「IIIの領域」に時間が費消されている組織が多い。一見すると「Iの領域」に見える活動も、実際には「IIIの領域」であることも多い。その分、「IIの領域」が疎かになっているのである。

従って、「Iの領域」を効率化、「IIIの領域」を回避することにより、「IIの領域」を組織として目標化することが大切となってくる。これも組織の中で早急に検証したい視点である。