上場企業の「早期退職募集」が前年比2倍に急増――パナソニックHDなど黒字・大手にも構造改革の波

株式会社東京商工リサーチは2025年5月18日、「早期・希望退職者の募集状況」に関する最新調査の結果を発表した。本調査は、2025年5月15日公表分までの『会社情報に関する適時開示資料』をもとに同社が独自調査したもの。調査から、早期・希望退職の対象人数や業種別社数などが明らかになった。


パナソニックHD・日産・ジャパンディスプレイの大型募集

2025年に入り、自動車メーカーや電子部品メーカーをはじめ、多くの大手企業が経営再建や事業構造改革を背景に、大型リストラ策を相次いで発表している。

パナソニックホールディングスは2025年3月期に黒字決算を維持しつつも、収益性の低い事業の見直しに向けて国内5,000人、グローバルで1万人規模の人員削減を発表。これは2012年のルネサスエレクトロニクス以来、13年ぶりの大規模募集となる。日産自動車は国内外で2万人の人員削減計画を掲げ、国内では18年ぶりとなる早期退職募集を実施。ジャパンディスプレイも国内従業員の半数にあたる約1,500人の希望退職を募るなど、経営再建や構造改革を背景にした大規模な人員削減が相次いでいる。また、コニカミノルタやオムロン、資生堂、リコーなどの大手メーカーでも、数千人規模の早期・希望退職募集が進んでいることが発表されている。

早期・希望退職の対象人数は前年比約2倍に。相次ぐ大手の大型募集が要因か

東京商工リサーチの集計によると、2025年1月~5月15日の期間で「早期・希望退職募集」が判明した上場企業は19社と、前年同時期の数値(27社)より減少。一方、早期・希望退職募集人数は8,711人で、前年同期比で約2倍(約87%増)と急増している。

企業数では、前年同時期から3割程度減少したものの、1社あたりの募集規模は拡大しており、雇用者への影響が大きくなっていることが分かる。先に述べたような大手による大型リストラが目立っている点が、こうした傾向の要因として考えられる。
上場企業:早期・希望退職 推移

早期・希望退職募集が判明している業種では「電気機器業界」が突出

続いて、「早期・希望退職募集」が判明している上場企業19社の内訳を業種別に見ると、「電気機器」が10社と過半数を占めた。また業種別内訳については、人数で見ても「電気機器」が7,223人と突出している。
上場企業:早期・希望退職が判明した社数・人数(業種別)

黒字企業にも広がる人員削減

さらに、「早期・希望退職募集」が判明している上場企業19社の内訳を損益別に見ると、「黒字企業」が12社(63.16%)、「赤字企業」が7社(36.84%)となった。

特徴的なのは、2025年上半期では、黒字企業の方が約6割と多い点だ。同社の発表によると、黒字企業の募集人数は6,380人で、全体の7割(73.2%)を超える。また、黒字12社のうち、11社が東証プライム上場だったとのことだ。反対に、赤字7社の募集人数は2,331人で、ジャパンディスプレイや太陽誘電などが含まれるという。

なお、黒字企業が多い理由として同社は「事業の選択と集中や将来の競争力強化を目的とした、構造改革が実施されているのではないか」との見解を示している。
上場企業:早期・希望退職が判明した社数(損益別)
2022年以降、急速な円安が進行し、グローバル競争やデジタル化の進展、事業環境はますます不透明となっている。今後の展望として、「早期・希望退職者の募集」がこのままのペースで続けば、リーマンショック直後の2009年(2万2,950人)を上回る規模となる可能性もある。人手不足が叫ばれる一方で、大手企業を中心とする構造改革と人員最適化が加速している現状を改めて確認しておきたい。

出典:https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201396_1527.html