いまだ1割の企業が「全く価格転嫁をできていない」現状。価格転嫁率は4割程度にとどまる

株式会社帝国データバンクは2023年8月28日、「価格転嫁に関する実態調査(2023年7月)」の結果を発表した。調査期間は2023年7月18日~31日で、1万1,265社より回答を得ている。本調査により、企業の価格転嫁の状況や価格転嫁率のほか、価格転嫁率が高い業種・低い業種が明らかとなった。

「全く価格転嫁できない」企業は依然として1割を超える

新型コロナの5類移行により、業績が回復に向かう企業が増えつつある。その反面、電気代やガソリンなどのエネルギー価格の高騰を原因として、収益が圧迫される企業も多いだろう。取引先による価格転嫁の拒絶やわずかな値上げしか認めてもらえないといったことにより、結果的に経営破綻を余儀なくされた企業もあるという。そのような中、企業では価格転嫁に関して、どのような見解を持つのだろうか。

はじめに帝国データバンクは、「自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているか」を尋ね、2022年12月に発表した前回調査と比較した。すると、コストの上昇分に対して、「多少なりとも価格転嫁できている」とした企業は74.5%だった。

対して、「全く価格転嫁できない」企業は12.9%で、前回調査の15.9%よりも3ポイント低下した。前回調査よりも低下してはいるものの、現時点でも価格転嫁が全くできていない企業は1割を超えていることが判明した。
いまだ1割の企業が「全く価格転嫁をできていない」現状。価格転嫁率は4割程度にとどまる

「10割すべて転嫁」した企業はごくわずか。コスト上昇分を負担する企業は6割弱に

また、前設問で「コスト上昇分に対して、多少なりとも価格転嫁できている」とした企業の内訳を見ると、「5割以上8割未満」が19.8%で最も多かった。以下、「2割未満」が19%、「2割以上5割未満」が16.8%、「8割以上」が14.4%と続き、「10割すべて転嫁できている」とした企業は4.5%にとどまった。

また、コスト上昇分に対する価格販売への転嫁度合いを示す「価格転嫁率」は43.6%だった。これはコストが100円上昇した場合に43.6円しか販売価格に反映されていないことを示している。前回調査(39.9円)よりも3.7円転嫁が進んだ一方で、依然として6割弱のコストを企業が負担する現状が続いていることが明らかとなった
いまだ1割の企業が「全く価格転嫁をできていない」現状。価格転嫁率は4割程度にとどまる

価格転嫁率が高い業種は「卸売」。商品の独自性が功を奏す

最後に、同社が「価格転嫁率」を業者別に比較したところ、「紙類・文具・書籍卸売」(65.7%)が最も高かった。以下、「鉄鋼・非鉄・工業製品販売」(64.3%)、「化学品卸売」(63.1%)と続き、価格転嫁が6割を超えたのはいずれも卸売業だった。

一方、一般病院や老人福祉事業といった「医療・福祉・保健衛生」(15.2%)が最も価格転嫁率が低かった。その他、映画・ビデオ制作業やパチンコホールなどを含む「娯楽サービス」(21.6%)や「リース・賃貸」(24.8%)、「農・林・水産」(25.6%)なども低い結果となった。

自由回答には、「自社の取扱商品が特殊で使用用途も限定的なため、価格転嫁がしやすい」(鉄鋼卸売/価格転嫁率10割)や、「部品や用品といった仕入れ価格が上がった分の転嫁はできているが、整備工賃の単価の値上げについては、徐々に実施しているものの価格競争もあり難しい」(自動車小売/8割以上)などの声が挙がった。

また、「宿泊部門については、価格を変動させて販売しており市場価格が上振れ傾向であるため、一定程度転嫁できている。一方、飲食事業などその他の事業は市場競争も激しく、価格転嫁はほとんどできていない」(旅館/2割未満)や、「介護事業では、サービス料が政府による介護報酬で定められているため、介護報酬が上がらない限り転嫁はできないなど、制度上の制約がある」(医療・福祉・保健衛生/0割)などの声も寄せられた。

商品やサービスに独自性がある場合は競合他社が少なく、価格転嫁しやすい企業がある一方で、他社との価格競争や制度上の定めにより価格が上げづらい企業もあることがわかった。
いまだ1割の企業が「全く価格転嫁をできていない」現状。価格転嫁率は4割程度にとどまる