リーダー人材の採用と育成|リーダー人材の育成は新卒採用から始まる採用の見極めポイントと事例紹介

優秀な若手を育む、オープンな組織とキャリア自律支援のすすめ

「社会の若者を育てる」姿勢が求められる

今、会社組織のあり方はひとつの転換期を迎えている。自社ですべてを行おうとする自前主義では、変化の激しい現在のビジネス環境に対応できなくなってきている。このため、自社にない技術やアイデア、スピードを求め、ベンチャー企業などと連携する事例が増えてきた。自社のリソースを開放し、他社のものも積極的に活用する。複数の企業や団体などが共同で新たな価値を創造する「オープンイノベーション」の潮流は、文字通り組織がよりオープンになっている表れだろう。

人材が組織に求めるものも大きく変わってきた。若手を中心に、一生ひとつの会社で勤めあげる考えは廃れてきており、会社を自身のスキルを磨くための修練の場として捉えることも多い。特に本コラムで紹介した「没頭層」( 「リーダーとなる人材を見極め、採用するには」を参照)はその傾向が強く、必要な機会や転機が訪れたと判断すれば、転職や起業をいとわない。

こうした背景の中で、組織はどのようにあるべきだろうか。まずは、人材を過度に自社に抱え込もうとせず、ある程度の流動性を受け入れることが必要だと考えられる。経営には「社会の若者を育てる」という気構えも求められるのではないか。実際に、一部の企業からは、今後の新卒採用の見通しとして「複数の企業間で優秀人材をシェアするようになる」という意見も挙がっている。少子高齢化が進む中、人材を奪い合うのではなく育て合おうとする意識が芽生えているのかもしれない。

若手のリーダー候補人材には、市場価値を高められる仕事や役割を積極的に提供し、人脈作りも支援する。その上で外に出たいとなったら快く送り出す。このようにして良好な関係を築いておけば、巣立った若者と将来的に連携を組むこともできるはずだ。企業間連携のネットワークを広げる足掛かりとしても期待できるだろう。また、外で経験を積み、スキルを磨いた人材が改めて入社したいと希望すれば、受け入れる度量も大切だと言える。

こうしたことは一見、非効率でコストの無駄も大きいようにも感じられるが、開かれた組織のほうがリーダー候補人材からは好まれる傾向にあり、それは入社の促進やエンゲージメントにもつながる。とはいえ、あらゆる部門で流動化を認めてしまっては既存事業が立ち行かなくなるという懸念もあるだろう。初めはオープンにする範囲を限定し、既存事業のコア部分を損なわないようバランスを取りながら進めて構わない。しかし、企業側が望むと望まざるとにかかわらず、若手人材、とりわけリーダー候補のような優秀な人材において、流動的な志向は今後も強まっていくと考えられる。いち早くそこに適応する必要があることは言うまでもない。

若手人材のキャリア自律を促す

ひとつの会社だけでキャリアを築く時代ではなくなっていることは既に述べた。労働者側としては、先の見えない時代に自身の市場価値を意識しながら働くことは一種の防衛策ともいえる。会社側は、若手人材が会社依存から脱却しようとする状況をむしろ望ましい変化として受け入れ、個人がキャリアを自ら主導して設計する「キャリア自律」を促すことが求められる。社員が広い視野を持ち、会社に縛られることなくキャリアを形成することを奨励するのである。

キャリア自律を促すと、社員の転職や起業をすすめることになりかねないのでは、と懸念する声も出てくると思う。確かに、仕事の実績を重ねながら人脈を広げ、自らの市場価値を高めた人材は、社外でも通用すると自信を持つことになる。しかし、社員が自身のキャリアと市場価値を自律的に追求していくことが、すなわち自律的な働き方となって自社に還元されるという点は重要だ。

離職については、キャリア自律の支援を行っている企業がそうでない企業より離職率が低かったという調査もある。仕事の満足度が高まり、かえって自社への愛着がわくのではないかとの考察だ。キャリア自律への働きかけは、実は離職を抑制する役割もあることを、ぜひ知っておいてほしい。

近年は、有志の若手が企業の枠を越えて集まり、自主的に新規事業の創出などに取り組む動きも出てきている。優秀な人材であればあるほど、視線は内ではなく外に向けられる。自社への囲い込みや排他的な姿勢は、時代や若者の価値観にそぐわなくなっていることを理解しておかねばならない。先手を打って、出入り自由の風土をつくっておいたほうが、結果としてリーダー候補人材が自社に残ったり、他社から獲得できたりと、大きなメリットをもたらすと考えられる。

  • 労政時報
  • 企業と人材
  • 人事実務
  • 月刊総務
  • 人事マネジメント
  • 経済界
  • マネジー