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人事評価の弱点

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2016年02月12日

産業心理学の分野で人事評価は古くから研究対象の1つとなっているが、どうすれば公正・公平な評価が実現できるか未だに有効な理論は示されておらず、研究テーマとして不毛の地になっているそうである。

筆者自身も、評価制度づくりに際して、できるだけ誤りや偏りが生じないような工夫を心がけてはいるものの、あくまで「可能な限り」である。もしも、真に公正・公平な評価制度を実現できたのなら、ノーベル賞に値すると本気で思っている。

1つ考えられるのは、評価期間中、社員に職務上の言動を記録できるタグをつけてもらい、それを解析することで、自動的に評価結果が出てくるようなシステムだが、どちらかといえば星新一のSFの世界に近い。

このように公正・公平な人事評価というのは難しいもので、なぜ難しいかと言えば、次のような構造的な問題点を抱えているからだ。

(1)評価者によって見方が異なる

例 : ある人の行動について、Aさんは優れていると評価し、Bさんは普通と評価する。

同じ行動・事実であっても、評価者により評価結果が違ってくるというのは、評価の最大の問題だろう。ヒトは機械ではないので、ある現象を見て、どのように受け取るかはその人次第ということである。

評価結果の違いには大きく2つの内容があり、1つは例のように評価レベルが相違することで、もう1つは、ある評価者が積極性の問題と見た行動を他の評価者は責任性と見るなど、評価項目が相違することである。

さらに、同じ評価者であっても、時間の経過などで見方が違ってくることもある。たとえば、気分のよいときには良い評価をし、不機嫌なときには悪い評価をするといった具合である。

(2)被評価者の行動の一部しか把握できない

例 : 月曜の朝のミーティングでしか顔を合わさない部下の行動をどうやって評価するの?

次に問題となるのは、評価者は被評価者の一部始終を観察しているわけではないのに、適正な評価ができるかという点である。

典型的なのは外勤の営業職などだが、営業でなくても、部下の様子を目にする機会が少ない評価者はたくさんいる。特に最近は仕事のモバイル化が進んでいるため、この問題はますます顕著になると予想される。

例のように、主な接点が会議のときなどに限られると、部下の側面のごく一部しかつかめない。また、1つの印象的な行動がその期間の評価に大きな影響を与えたりするので、結果として、偏った評価となる懸念もある。

(3)仕事のパフォーマンスは、個人の能力よりも外的要因に左右されることが多い

例 : 受注できなかったのは、担当者の能力の問題ではなく、単に他社のオファーが優れていたから(=誰が担当しても結果は同じ)。

人事評価とは、部下の行動や、その結果として出現した事実を評価するものだが、なぜそのような行動をとったのか、あるいは、なぜそのような結果が生じたのかは、外的要因による部分が多大にある。

ところが、ヒトというのは、それを個人の能力や性格のせいにする傾向がある。社会心理学で「帰属のバイアス」とか「帰属のエラー」と呼ばれるもので、特に他者の行動に対して帰属のバイアスは起きやすい。

多くは評価を下げる場合に働くが、逆の場合もある。たとえば、素直で能力が高い部下に恵まれれば、それほどリーダーシップがなくても、管理者は担当部署の業績を上げられるだろう。そうすると、この管理者の統率力は優れていると評価を受けたりするのである。

そのような外的要因は、個人の評価から排除すべきであるが、どこまでが環境要因かの見極めは困難なので、排除したくてもできないのだ。結局のところ、評価は運・不運に大きく左右されるということになる。

以上のような弱点があるので、「人事評価はすべきでない、ましてや評価を報酬に結びつけるのはもってのほか」という意見も出てくる。これに対しては、「確かにマイナス面もあるが、プラス面もたくさんある。総合的に見れば人事評価のメリットは大きい」というのが筆者の言い分である。

もちろん、弱点を放置しておけばよいというわけではなく、やはり何らかの手は打たなければならない。今回、弱みを整理したのは、あらためて課題を明確化するためでもある。

教科書的にいえば、これらの弱点をカバーするために、評価基準の明確化や評価者トレーニングの実施があるが、冒頭に述べたように、完全に解決するための魔法はなく、企業の実態に即してコツコツと改善していくしかないのが現状だろう。しかしながら、筆者には人事評価のメリットは非常に大きいとの思いがあるので、そのような地道な努力は決して無駄ではないと自負している。

 

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