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年次有給休暇の買取り

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2015年02月06日

大企業などでは、余った年次有給休暇を買い取ってくれるところがある。

そういったことを耳にしてか、有給休暇というのは買い取りが可能なものと思っている人が結構多い。
しかし、それが認められるのは、法定の有給休暇を上回る分であり、たとえ社員の依頼であっても、法定分を買い取ることは原則としてできない。

厚生労働省の通達で、「年次有給休暇の買上げを予約し、これに基づいて労基法39条の規定により請求しうる年次有給休暇の日数を減じ、ないし請求された日数を与えないことは同条違反である(昭和30年11.30基収4718号)」と示されている。

例外は、退職や時効により有給休暇の権利がなくなる際、社員の合意を得て残余の分を買い取る場合である。

退職時の例でいうと、有給休暇が20日間残っている社員が、退職日まで有給を全部消化したいと申請してきたとしよう。会社としては、残務整理や業務引き継ぎのために5日間は出勤してもらいたい。
時季変更をしようにも、この場合、退職後を指定するわけにはいかないので、時季変更権は行使できない。
そこで、やむを得ない措置として、「5日分は買い取るので出勤してほしい」と交渉し、社員が受諾をすれば買取りが成立するわけである。

あくまで、社員との合意の上で認められるもので、会社が一方的に買い取るような仕組みは違法となる可能性が高い。

ちなみに買い取り金額は、法の関知するところではないため、いくらでもよい。
有給休暇の賃金額(つまりは平均賃金)が妥当と思われるが、5千円とか1万円とかの定額でもよい。最低賃金に満たなくてもかまわない。

ところで、就労条件総合調査によれば、2013年の有給休暇の取得率は48.8%である。厚生労働省では、この数値を2020年に70%とする目標を掲げているが、この10年、46%台から49%台の間で推移していることを考えると、達成は容易ではない。

そのために、先日の日経新聞でも報じられた「有給休暇5日消化義務」など、さまざまな手段を講じているわけだが、もっと手っ取り早いのは、この買い取りを強制的な制度にすることだ。
先に示した通達は廃止し、2年の時効が切れた有給休暇は企業が平均賃金で買い取らなければならないとするのである。

調査を見ると、労働者1人あたり平均18.5日の有給休暇が付与されていて、うち9.5日が未消化に終わっているので、これを買い取るとどうなるか。

平均賃金を1万円とすると1年で9万5千円、社員が100人いれば約1千万円のコストアップとなる。

多くの企業が、今とはうって変わって、「有給休暇を取ってください、いや、取りなさい」と言い始めるに違いない。

買い取り禁止をうたう通達は、社員の権利を考えてのことだが、いらぬおせっかいである。使わない(あるいは使えない)権利をお金に換えてもらえるのなら、大半の社員は歓迎するだろう。

まあ、使用者側の反対もあるだろうから強制は無理にしても、少なくとも労使協定により認めるくらいのことはしてもよいと思うのだが。

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