リーダー人材の採用と育成|リーダー人材の育成は新卒採用から始まる採用の見極めポイントと事例紹介

リーダー人材候補には、広義でのキャリアアップ機会の早期提供を

リーダー候補人材をスピーディーに育成する
「ファストトラック」の仕組み

「新卒一括採用」という言葉が示す通り、日本では横並びの採用が当たり前だった。一部のIT系企業で新卒の初任給で差をつけた事例もあるが、配属先こそ異なるものの、入社時点では基本的に処遇の違いはない。その時点での専門性やスキルを評価しての結果である。

反面、リーダー候補人材はどちらかと言えばポテンシャルを評価されている。そういった社員に対して給与面で差をつけるのは抵抗があるだろうし、周囲の理解もなかなか得られないだろう。そこで、有効な手段と考えられるのが、仕事内容で差をつけることだ。リーダー候補人材向けのキャリアパスを設け、若いうちから重要な仕事を任される体制を構築することは急務だといえる。

最近では、若手に経験を積ませ実績をつけさせるファストトラック(早期の選抜・抜擢による特別ルート)プログラムを導入する企業も出てきている。例えば、国内のある大手食料品企業では、内定者を含めた20〜30代の社員を対象に、立候補制でプログラムに参加できる仕組みを創設。選考をクリアした候補者は、その後の数年間、全社マターとして優先的に成長支援を受けられる。成長支援とは、チャレンジングな異動や課題、社内外の教育機会を一人ひとりの状況に合わせて課すといったものだ。

こうした仕組みは、特定の社員をあからさまに「出る杭」にする場合があるので、日本の企業文化とは合わないようにも思われる。しかし、まだまだ稀なケースとはいえ、先に見たような入社時点で処遇に差をつける企業も出てきており、変化を受け入れる体制は今後、徐々に醸成されていくように思う。

ファストトラックを設けるというと、既存事業で活躍中のエース人材を経営リーダー候補として異動させなくてはならないのか、と思うかもしれないが、必ずしもそうではない。前述の大手企業のケースでは、有力な人材を他事業に移して経験を積ませるだけではなく、既存事業におけるリーダーとして育成するプログラムも導入している。既存事業の健全な運営とのバランスを取りながら、スモールスタートで経営リーダーを育てる仕組みを作っていくことが求められるだろう。

なお、HR総研とファーストキャリア社の調査で、「リーダー候補人材に対して、新卒直後から通常とは異なる育成・待遇をしているか」との問いに、「している」と回答した企業は、まだわずか7%であった。処遇の多様化は今後広まっていくと予想されるため、早期にこのような体制を整えることが、いち早くリーダー人材を獲得することにつながるだろう。

自分の価値を高めたい若手にとっては、
成長の機会そのものが報酬となりえる

リーダー候補人材へのキャリアパスを創設した場合、対象者に対する社内での評価や待遇をどうするかという問題が出てくる。早期の昇進昇給がかなうなら、抜擢配置を行うのもひとつの方法だろう。ただし、成果やパフォーマンスのみを評価してしまうと、結局、主力事業でしかリーダー人材が育たないことになってしまう。

そこで、「キャリアアップ」自体について、これまでとは異なる考え方をしてみてはどうだろうか。従来はキャリアアップというと、社内という閉じられた世界の中で起こる話だった。社内でのみ通用する仕事のスキルや社内の人脈を高く評価する向きもあった。いわゆる社内政治である。しかし、今の若手は社内よりも社外での評価、人材マーケットでの市場価値を重視する傾向にある。所属する企業を離れた場面でも、価値ある人材として個人が評価されることを目指すのである。

キャリアを社外も含めたものと広く定義すれば、必ずしも社内のポジションや報酬のみで還元する必要はなくなる。「仕事の報酬は仕事」ではないが、自己成長につながる仕事に継続的に携われることも、市場価値を意識する若手にとっては報酬となり得るのだ。成長意欲の高い人材に自社で長く活躍してもらうためには、リーダー候補人材に対するファストトラックのように、有望な若手が挑戦と成長の機会を得られる仕組みを設けることが重要である。

さらに、理想としては、本人が身につけたスキルを駆使してなんらかのアウトプットをし、その結果から学んだことを次に活かせるような業務やプロジェクトへ、継続的な配属を行うことだ。時に「修羅場」に放り込み、自分を限界まで試せるような経験をさせるのも有効だろう。そのためには、チャレンジした人が失敗したとしても周囲がそれを認めるような風土を作ることも必要だ。同時に、社内外に人脈を広げられるようサポートすることが欠かせない。

上述のように、ファストトラックのような新しいキャリアアップの仕組みを早期に作り上げることは必要だ。しかし、リーダー候補人材は、「夢中になれるもの」と出会ったり、「本当にしたいこと」に取り組めたりする“環境”にこそ魅力を感じるのである。社内のキャリア支援体制を整備することのみを考えるのではなく、視野を広げて、社員が自分の思いや理想を実現できるような組織体制の構築を図ることが重要である。

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