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自ら管理職を降りる制度

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2023年07月07日

ある企業で管理職と専門職のコース別人事制度を設けたところ、専門職コースを選択する社員が予想以上に多かった。裏を返せば、管理職コースが不人気ということでもある。実際、各種の調査を見ていると、管理職になりたくないと考える人が多いことがわかる。

日本能率協会マネジメントセンターが2023年4月に実施した「管理職の実態に関するアンケート調査」では、部下(一般社員)の77.3%が「管理職になりたくない」と回答している。

また、パーソル総合研究所が世界18ヵ国・地域を対象とした「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」では、管理職になりたいと思う一般社員・従業員の割合は、日本は19.8%で最下位だった。ちなみに1位はインド(90.5%)、2位はベトナム(87.8%)、3位はフィリピン(80.6%)で、17位のオーストラリアが38.0%なので、日本は大差の最下位である。

なぜ管理職になりたくないかと言えば、昨年11月7日の日経ビジネス電子版に掲載された若手社員へのアンケートによると、「人の管理が面倒(56.6%)」「報酬と仕事量が見合わない(39.2%)」が上位に挙げられている。

少し強い言葉で指導をすればパワハラを疑われる、部下に長時間労働はさせられないのでその分自分が頑張る、といった上司の姿を見て、その魅力のなさを痛感していることがうかがえる。

当の管理職の思いは不明だが、大半の管理職者が程度の差はあれ、「やってられない」との気持ちを抱いているのは推察できる。中には完全にやる気を失い、管理職から降りたいと望む人もいるだろう。そのような管理者の存在は、本人だけでなく、部下、会社にとっても不幸である。

そのような事態への対応として、自らの意思で管理職を降りる制度をつくってはどうだろうか。実は、この制度は公務員の世界では広く存在する。

「希望降職(降任)制度」というもので、本人の病気や家族の介護等で管理職の職責を果たせない場合のほか、業務の増大等によって身体的・精神的な負担が過大になった場合にも利用できる。つまり、管理職に嫌気がさした場合でも利用可能ということだ。実際の利用者は多くないようだが、大規模な自治体では年に数人はいるようである。

制度概要は以下のとおりだ。

  • 対象:「係長」など一定職位にあるもの以上
  • 降職後の職位:本人が選択、あるいは1つ下の職位など
  • 降職後の給与:降職後の職級に応じて設定。たとえば、下位級の同号俸にするなど
  • 降職の可否:本人の希望を尊重しながら任命権者(首長など)が決定
  • 再昇格:降職した理由がなくなれば再昇進できる場合もあり

民間で制度化している企業はあまりないと思うが、民間でも同様に様々な要因で管理職がつらいと思っている人はいるはずだ。そのような人を「無責任だ」とか「情けない」と責めるのではなく、本人の意向に沿って別の役割で能力を発揮してもらうのも、今の時代には必要な考え方だろう。管理職が多数いる大企業など、導入を検討してみてはいかがだろうか。

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