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プレイングマネジャーの部下育成

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2019年11月01日

部下育成は管理者の重要な仕事の1つだが、最近は多忙で部下育成したくてもその時間がないとの嘆きの声を聞く。厚生労働省の平成30年度「能力開発基本調査」でも、人材育成に関する問題点として、「指導する人材が不足している(54.4%)」、「人材を育成しても辞めてしまう」(53.5%)に続き「人材育成を行う時間がない(47.8%)」が挙げられている。

多忙の原因の1つに、管理者自身がプレーヤーとしての業務をこなさなければならないことがある。

産業能率大学総合研究所の第5回「上場企業の課長に関する実態調査」によると、98.5%の課長がプレーヤーとマネジャーを兼務しており、プレーヤーとしての役割が全く無いのはわずか1.5%であった。

同調査では、プレーヤーとしての役割を持つ課長の約6 割が、プレーヤー業務がマネジメント業務に“支障をきたしている”(「とても支障がある」14.5%+「どちらかと言えば支障がある」44.5%)と感じていることも明らかにしている。

立教大学の中原淳教授は『フィードバック入門(PHP研究所)』の中で、現代のマネジャーはプレイングマネジャーというよりマネージングプレイヤーであり、OJTが、「お前ら(O)自分でやれ(J)頼るな(T)」で実施されているとのユニークな指摘をしている。

30年ほど前、筆者が会社に入った頃のマネジャーといえば、繁忙時には部下の業務の手伝いをするものの、基本的には書類の決裁などマネジャー固有の業務に専念していた。あるとき、手持無沙汰の様子のマネジャーに冗談交じりに「ヒマそうですね?」と尋ねたら、「管理職はイザというときのために余裕がなくてはならない」と返されたのを覚えている。

古き良き時代のヒトコマであるが、今さら、このような職場環境に戻ることは非現実的で、現代の部下指導はプレイングマネジャーを前提に実施しなければならないだろう。

では、どのように対応するか? 1つの方法として、プレイングマネジャーの立場を活用することを提案したい。プレイングマネジャーの強みを活かすと言い換えてもよい。これには次の3つがある。

(1)部下の仕事がよくわかる
プレイングマネジャーとして、現に部下と同じ仕事をこなしているのは最大の強みである。部下の仕事がよくわかるので、部下と同じ目線に立って、有用なアドバイスができる。過去の経験でなく、現場の実態に即したアドバイスであれば部下も受け入れやすい。

(2)業務遂行時の指導がしやすい
営業の同行など、部下と一緒に過ごす機会も多いはずだ。現場で手本を示したり、気になった点をその場で注意したりすることが可能となる。一般に時間が経過するほど指導の効果は薄れやすいので、何かあったときは、すぐに注意(あるいは称賛)するのは部下指導の定石である。また、部下の具体的な行動を観察できることで、適正な人事評価に結びつけ、能力開発にも役立てられるだろう。

(3)部下に甘え、支援を求めやすくなる
「上司たる者部下に弱みを見せられない」という人もいるだろうが、常に強い上司がリーダーシップを発揮できるかといえば、そうではない。弱みを見せることも重要だ。もちろん、甘えてばかりなのは論外だが、ときにヘタレ上司を演じるのもよい。このとき、マネジメントと同時に現場も担っている大変さを部下にも理解してもらうことで、部下の支援も得やすくなる。たとえば、自分の担当に関する資料作成であっても、一人で背負い込まず、部下に手伝ってもらう。大切なのはチーム全体の業績・成果である。チームとして機能することで、全体の業績向上が期待できる。

プレイングマネジャーの立場は多様なので、他にもいろいろとあるに違いない。時間が取れないと嘆いていても始まらない。各人の置かれた立場を踏まえ、強みを活かす工夫をしていただきたい。

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