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役職任期制のメリット・デメリット

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2017年06月02日

役職任期制とは、文字通り任期を定めて役職者を登用する制度である。

具体的には、管理職の役職を一定期間で改選することを前提に、この期間の業績や能力発揮度合いを管理したうえで、任期末に管理職としての適・不適を審査し、再任、昇進、降職、他のポストへの異動などを行う制度をいう。

役職「定年制」を導入している企業はよくあるが、役職「任期制」は、ほとんど見かけないのではないだろうか。やや古いが、産労総合研究所による「中高年層の処遇と継続雇用制度の実態に関する調査」(2006年)では、導入企業は2.7%となっている。

このようにあまり一般的とはいえない制度ということもあって、人事制度の構築や見直しの際に検討課題となることも少ないのだが、優れた点も多く、簡単にスルーしてしまうには惜しい制度である。

今回は、役職任期制のメリットとデメリットについて説明したい。まず、制度のメリットは次の4つである。

(1)組織の新陳代謝が進めやすくなる
最大のメリットは、役職者の交代を促し、組織の新陳代謝を進められることである。役職任期制の導入目的といってもよい。日本企業では、いったん役職に就くと、その地位を保障されるのが一般的で、定年(役職定年も含む)にでもならない限り、外すのはなかなか難しい。役職ポストや人件費は限られているので、能力ある若手を登用したくてもできなくなってしまう。役職任期制であれば、交替が定期的かつ頻繁に起こり得るので、登用のチャンスを大きく拡大できる。

(2)不要のポストを設置しなくて済む
新陳代謝を進めるために、元部長を推進役としたり、元課長を専門課長としたりするなど、処遇のためのポストを用意するケースが多いが、その必要性はなくなる。結果として、組織のスリム化が行われ、意思決定も迅速化できる。

(3)社員の競争意識を高め、パフォーマンスの向上が期待できる
大きなミスをしないかぎり役職の地位は安泰というわけにはいかず、むしろ何らかのプラスがなければ地位の継続は困難となる。競争意識が高くなり、役職者として業績向上が期待できるようになる。

(4)人件費の適正化が期待できる
役職者の成果・業績と報酬のミスマッチが少なくなる。また、給与制度の設計の仕方や元役職者の処遇の仕方にもよるが、不要のポストを減らすことができれば、それに伴って、給与や手当の高騰も抑制できる。

一方、デメリットは次の3点だ。

(1)実力があっても短期で結果を出せない社員が埋もれてしまう
成果や業績は、必ずしも本人の実力によるものではない。外部環境の影響も受けるし、部下の資質にもよる。また、1~2年では真の実力が発揮できない不器用な社員もいるだろう。そのような事情で、有為な人材に「役職者失格」の烙印を押してしまう可能性がある。

(2)頻繁な交代があると業務の混乱を引き起こす
役職者があまりに頻繁に交代すると、その度に方針やマネジメントの仕方が変わって業務に支障をきたしてしまう。対外的にも、「あの会社は責任者がすぐに代わる」との評判は好ましくはないだろう。

(3)役職者へのストレスが過大となる
役職者にこれまで以上のストレスがかかる可能性がある。適度のストレスであればよいが、経営者や上司の負荷の程度、本人のストレス耐性などによってはストレス過剰となり、メンタル不調などを引き起こすおそれもある。

上記のデメリットを解消するために、次のような取り組みが求められる。

(1)任免の基準の明確化や審査プロセスなど、きちんと制度化しておくこと
なぜ「お役御免」なのか、明確かつ合理性のある理由を示さなければ、社員が会社に不信感を持つことになる。そのため、任免の基準を明確化しておき、その審査プロセスや社員への伝え方など、制度をきちんと設計しておく必要がある。
社員の納得性を確保するには、それなりの手間をかけて制度設計しなければならない。特に、ささいな失敗を理由に交代させたり、経営者や上司の感情的な理由で罷免したりするのは避けなければならない。
また、短所よりも長所を高く評価するなど、ストレスを軽減させて、伸び伸びと能力発揮できるような仕組みも大切となるだろう。

(2)降職者のケアをする
降職の理由がきちんと説明されたにしても、降職者のモチベーションダウンは避けられない。本人は納得したとしても、周囲の目もある。
役職交代が当たり前に行われる組織になれば、それほど気にしなくてもよいだろうが、導入後しばらくは上司や人事部門によるケアが求められる。たとえば、降職の理由となった問題が、その後、どれくらい修正されているかを計画立ててフォローしていくなどである。

このように役職任期制は、成果主義を色濃く反映させた制度で、効果も期待できるが副作用も大きい。導入を考えるときには、業種・業態による特性や社風、企業の歴史等により、「適性」を見極める必要がある。組織が固定化していない創業まもない企業や発展途上にある企業では、機能する可能性は高い。

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