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個を知り、個を活かす~徳島県上勝町「葉っぱビジネス」に学ぶ組織変革のアプローチ~

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2014年10月07日

マーサー ジャパン株式会社 組織・人事戦略コンサルティング 藤野 淳史

梅雨も終わりに近づいた6月の終わりに、「おばあちゃんの葉っぱビジネス」で知られる徳島県上勝町を訪問した。徳島県の山間にある人口約1,900人の小さな町で、つまもの(日本料理に添える季節の葉や花、山菜)の生産を高齢農家が中心になって進め、現在では年商2億8千万円の規模に到達するとともに、年収1千万円を得る個人も現れる等、大きな成功を収めている話を耳にしたことがある人は多いだろう。

葉っぱビジネスの成功の要因に関しては幅広い分析が行われており、主なものとしては、「市場で評価される高付加価値商品の開発」「市場情報の共有による自律的な供給調整の仕組み」「生産農家間の競争意識の醸成」「積極的な情報発信によるブランディング」等が挙げられている。ただ、1987年の事業開始以来の牽引役である横石知二氏は、これらを支えるのは、現場に深く入り込み一人ひとりの高齢農家の「ツボ」(個人の価値観・志向)を熟知し、そのツボに対して粘り強く訴求することだと強調する。より具体的には、高齢農家の一人ひとりについて、手間暇をかけて能力・経験を把握し、その特性を十分に発揮できる適切な役割を見出すことと、各個人のモチベーションドライバーを理解して働きかけることを指している。このことの重要性は、わずか4人の農家から始めた事業の立ち上げ期から、約200人が参加し安定的に事業が運営されている現在に至るまで変わらないと横石氏は語る。こうした葉っぱビジネスのアプローチは、一般に組織変革の要諦として語られることの多い、危機感の醸成、共有ビジョンの形成・浸透といった全体に対する取り組みと異なり、構成員個人に焦点を当てている。葉っぱビジネスのようなコミュニティビジネスと一般のビジネスでは、成果管理の時間軸やステークホルダーとの関係等において少なくない違いがあるものの、組織や個人の行動の変革の難しさは共通しており、これからの日本企業に対して有益な示唆を与えてくれる。
 
私がコンサルティングの現場で見る日本企業の多くは、目まぐるしく変化する経営環境の中で、大なり小なりの変革を不断に求められている。例えば、グローバル化は大多数の企業にとって避けられない命題であるが、その推進は事業戦略の範囲に留まらず、個々の構成員の行動の変化を求める性質を有している。そうした場面においては、「個を知り、個を活かす」アプローチによる、一人ひとりのツボへの訴求が有効であると考える。特に、多くの日系多国籍企業では人材ポートフォリオとそれに伴う個人の価値観・志向が急速に多様化しており、組織全体に対するアプローチのみでは上手く変革が浸透しない可能性が高い。では、こうした個人のツボに着目した組織変革を日本企業で実現するためには、どのような条件が存在するだろうか。ひとつには、現場リーダーへの権限委譲を大胆に図ることによって、自律的に個々の構成員の価値観や志向を見極め、役割を設定することを可能にすることである。もうひとつは、いささか逆説的であるが、権限委譲を受けた現場リーダーが全体のビジョンや戦略が求めることを咀嚼して構成員への具体的な期待値に落とし込み、価値観や志向性と関連付けて分かりやすく語ることである。また、これらの前提として、現場リーダーは個々の構成員の特性やモチベーションの見極めの機会を確保する必要があり、そのための支援が不可欠である。例えば、人事部門で簡易的なアセスメントツールを設計し、現場に提供するのも一案であろう。上勝町の葉っぱビジネスの成功は、多くのコミュニティビジネスの目指すところとなったが、今後もその歩みを止める様子はない。多くの日本企業にとっても、求められる変革の大きさも速度も高まる環境の中、葉っぱビジネスが照らす「個を知り、個を活かす」アプローチの重要性が増している。そうした想いを胸にしつつ、雨上がりの上勝町を後にした。謝辞:今回の訪問にてお話をお伺いしました、株式会社いろどりの横石知二社長、社員の皆様、生産農家の皆様にお礼申し上げます。

 

※本記事は2013年10月時点の記事の再掲載となります

 

マーサー ジャパン株式会社  組織・人事戦略コンサルティング  藤野 淳史

日系・外資系企業の人事戦略策定・制度設計、リーダーシップ開発、パフォーマンスマネジメント、グローバル人材マネジメント、M&Aに伴う人事制度統合等のプロジェクトに携わる。最近では、グローバル人材マネジメントの支援に注力しており、長期戦略策定からタレントマネジメント、経営者報酬、ガバナンス、人事プラットフォーム構築までの幅広い領域でのコンサルティングに従事している。前職のシンクタンクでは、政府開発援助(ODA)事業に係るコンサルティング・調査研究に従事し、東南アジア・南アジア・中近東・アフリカの新興国・開発途上国における政府機関の組織能力向上・人材育成等のプロジェクトに参画した。

国際基督教大学(ICU)教養学部卒業。ロンドン大学ユニバーシティカレッジ開発計画学修士、ケンブリッジ大学ジャッジビジネススクール経営学修士(MBA)。

執筆コラム
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