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『頭の体操』は、やはり良著であった

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2014年10月07日

マーサー ジャパン株式会社  組織・人事戦略コンサルティング部門  中村 健一郎

「頭がいいというのはどういうことなのか。それは頭に詰め込んだ知識や教養の総量ではない。それならば、あなたの頭は、図書館や百科事典に太刀打ちできない。(中略)頭がいいとは、頭の回転が速いことだ。」(「頭の体操 第2集」序文(光文社:多湖輝著))
この言葉は、皆様ご存知の「頭の体操」シリーズに出てくる序文の言葉である。同書は、累計で1200万部以上のベストセラーとなった、パズル集であると同時に、前書きや各章の序文などで思考力を鍛えること、特に水平思考の重要性が説かれている良著である。発行部数から考えるに、ほぼ全ての日本人が目にしたことがある書籍であろう。

博士が、”図書館や百科事典”としている点は、現在ではインターネットと言い換えることができるであろう。博士が説く “頭の速さ””思考力”の大切さは、今、更にその重みが増しているように思う。博士は、頭の良さを”連想の豊かさと速さ”と定義し、心理学的に「水路付け(Canalization)」と呼ばれる連想の妨げとなる状況を、「脳動脈硬化症」という言葉を用いて批判している。更に、博士は、思考の分類を下記のような形で行い、
●再生的思考: 記憶を基にした思考
●生産的思考: 再生的思考だけでは解決できない難問に直面した時に要請される思考
心理学者ワラスの創造的思考の段階を紹介した上で、
1.準備期:様々な知識や体験の蓄積/素材の充電
2.孵化期:活性化された記憶、並びにそれを素材とする思考のネットワークの成立、駆使
3.啓示期:爆発。様々な思考の素材が自由に組み合わされて意外なひらめきやアイデアを創出する。
4.ひらめきやアイデアを論理的に分析して、他の外的な条件と付き合わせる段階。創造的思考が現実の力を持つために必要とされる。
創造的思考について以下のような定義付けを行っている。「関連のなかった知識や経験が活性化され、新しい形で組み合わされる、知識や経験の構造化を中心転換と言う。これがアイデアや飛躍を生む創造的思考の成立でもある。」
逆に、「「考えない」とは、思考がパターン化し、マンネリズムに陥り、ルーティーンワークと化すことを指している。」と。博士の指摘するポイントは、「創造性」に対する検討に一つの示唆を与えていると筆者は考える。これを組織として意図的にマネジメントする方策について考察してみたい。

博士が整理した考えは、組織に対する含意として、以下のような組織的要件へと展開することができるのではないだろうか。
1.人材の知識の質と量を増やすことに、継続して投資をする。専門外の領域も奨励する
2.生きた知識を消化した人々の柔軟で緻密なネットワークを形作る
3.様々な「思考の素材」を自由に組み合わせる場を作る
4.「やってみなければ分からない」領域へのチャレンジにできる限り寛容になる
5.ひらめきやアイデアを論理的に分析し、フィードバックする体制を作る
ことである。
 
(1)については、どの会社でも取り組んでいることである。但し、ここで言う知識とは、”生きた知識”であることがポイントになるであろう。軍事思想家マハンの言葉を借りれば、「たくさんの書物を読み、そこから得た知識を分解し、自分で編集しなおして自分自身の原理原則を打ち立てること。自分で立てた原理原則のみが応用の利くものである。」というレベルの知識であるということだ。ある人材が得た知識が、単なる知識なのか、”生きた知識”なのかを峻別することが大事になると考えられる。
 
(2)については、”生きた知識”を持つ者の間でのネットワークを作ることがポイントになるであろう。先に示した”生きた知識”は、明文化が難しいものがほとんどであることを考えると、あくまでも人と人の繋がりに着目したネットワーク作りが重要となる。また、組織において、”生きた知識”を持つ人材は多くなく、かつ、そうした人の大半がマネジメント層に昇格することを考えた時、組織間に壁がある状況や”生きた知識”を持つ人材がマネジメントオペレーションに追われ、生きた知識を活用できないような状況は、そのまま、創造性を阻害する要因となると考えられる。
 
(3)にある、様々な「思考の素材」を自由に組み合わせる場を作ることは、基本的にはオフィス環境がポイントになるであろう。仮に、創造性の発揮が求められている組織において、オフィスが別拠点に分かれているような場合には、それだけ、創造性が生み出されるチャンスが失われていると考えられる。

 
(4)については、「やってみなはれ」という組織文化的な側面が大きい。組織的には、「水路付け」(Canalization)された意思決定の頻発回避に注意を払うことが有効であると考えられる。それを具体化するには、創造性の芽に対する最初の意思決定ポイントとなる中間管理職層への、継続的な訓練と意識付けが有効となるであろう。もちろん、その階層の年齢層の若さも良い影響をもたらすとも考えられる。逆に、中間意思決定層が専制的に振舞い、部下が唯々諾々とそれに従う組織文化を持っている場合、「水路付け」の罠に陥る確率が高まるとも考えられる。そうした状況に組織が陥っていないか、モニタリングと継続的な改善指導も有効となるであろう。

 
(5)については、”創造的思考が現実の力を持つために必要とされる”論理的な検証をする組織と創造を行う組織との有機的な連携を生み出すことが有効になるであろう。そもそも、過去の知識が生かせない領域は、大小はあれど、全て未知の領域となるわけであり、検証結果そのものの精度にも限界が生じる。検証結果に対する”解釈”や、検証”手法”そのものにおける創意工夫も不断に求められる。一般に、検証を行うチームと創造を生み出すチームとの間に対立関係は生じやすいが、組織としては、その間の溝をなくし、お互いに糊代を出し合う関係となるようにマネジメントしていくことが有効であると考えられる。

と、ここまでが、「頭の体操」復刻版を、子供の教育のためと思い30年ぶりに手に取ってみて改めて考えてみたことである。改めて、その序文を読み、その哲学の深さに触れたとき、この書籍が日本にもたらした経済効果とはいかほどのものだったのだろうかと思うことがあった。

私ども人事コンサルタントにとって、「組織における創造性を実現・具備するための要件とは何か?」は、永遠の問いの一つである。 私自身、脳動脈硬化症に陥ることなく、常にこの問いへの解を求め続けて行きたいと思う次第である。

 

※本記事は2013年9月時点の記事の再掲載となります

 

マーサー ジャパン株式会社  組織・人事戦略コンサルティング部門  中村 健一郎

国内外企業の組織・人事制度改革プロジェクト、リーダーシップ研修、組織変革プロジェクト、グローバル人材マネジメント構築 プロジェクト、グローバル意識調査プロジェクト、等様々なプロジェクトをリード。
研究組織活性化フォーラムメンバー。執筆文として、「研究開発者の活性化につながる処遇を考える」(労政時報、共著)、「輝く組織の条件」(ダイヤモンド社、共著)、「なぜ今、幕末のような大物が生まれないのか」(プレジデント)がある。
一橋大学 経済学部卒。NTTデータ、アビーム・コンサルティングを経て、2000年から現職。経営行動科学学会会員
趣味: 将棋アマチュア3段(実力2段)、歴史

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