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コーポレート・ガバナンスと役員報酬

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2014年09月02日

マーサー ジャパン株式会社

組織・人事戦略コンサルティング部門 シニアコンサルタント   野村 有司

昨年来大企業の不祥事が重なり、また、昨年12月に公表された「会社法制の見直しに関する中間試案」における上場企業に社外取締役の設置義務化の議論に注目が集まるなど、コーポレート・ガバナンスに対する関心が高まっています。そこで、今日のコラムでは、いわゆる「役員報酬」の面から、日本企業(監査役(会)設置会社)のコーポレート・ガバナンスの特徴について述べてみたいと思います。

日本の監査役(会)設置会社では、株主から委任された「取締役会」のメンバーである取締役と、実際に企業の経営の執行をする「経営者=代表取締役、業務執行取締役、使用人兼務取締役」について、事実上同じ人が担っているというかなり特殊な状況になっています。つまり、「執行の監督(≒見張り)をする役割」と「執行をする役割」を同じ人が担っているわけです。海外の機関投資家からコーポレート・ガバナンスについて指摘されることの本質はこの構造にあるといえると思います。非常に単純化していえば、「社外取締役を設置したほうがよい」という議論は、「見張り専門の人を増やしなさい」ということですね(もちろん、「見張り専門」という意味では、「監査役」という仕組みがあるわけですが、ここではとりあえず措きます)。「役員報酬」に関して議論を展開すると、海外の”Executive Remuneration”といえば「経営者に対する報酬」のことで「『執行をする役割』を担う人の報酬」を指すのが一般的であり、”Directors’ Compensation”(取締役報酬:『監督をする役割』を担う人の報酬)とは異なる概念であると捉えるのが妥当でしょう。例えば、米国の上場企業において、「報酬委員会(Compensation Committee)」で議論・決定されるのは”Executive Remuneration”(経営者報酬)であり、”Directors’ Compensation”(取締役報酬)は「コーポレート・ガバナンス/指名委員会(Corporate Governance & Nominating Committee)」で定める「コーポレート・ガバナンス指針(Corporate Governance Guidelines)」に規定され、開示されています。

よくニュース等で「高額な報酬が……等で問題になっているのは、”Executive Remuneration”のほうであり、米国で昨年話題に上ったいわゆる”Say on Pay”(株主が経営者の報酬について賛否を投票すること)の対象もこちらですね。一方の”Directors’ Compensation”のほうは、大企業の一般的な報酬水準自体も10万ドル~30万ドル程度であり、大きな問題になっているという話は聞きません。

このように、日本では一般に「役員報酬」とひとくくりにされていますが、実際には「取締役報酬」と「経営者報酬」の大きく異なる性質を持った2つの報酬が内在していることをきちんと意識する必要があると思います。

また、日本の「役員報酬」(特に取締役の報酬)が「お手盛り」であると批判を受けやすいのは、「見張り役」であるはずの取締役が自らの「経営者」としての報酬を決定するという点にあると思われます。したがって、「見張り専門」の社外取締役の導入は、役員報酬の「お手盛り」の度合いを緩和する、という意味でも重要な論点になりうると思われます。

 

※本記事は2012年6月時点の記事の再掲載となります。

 

 マーサー ジャパン株式会社

組織・人事戦略コンサルティング部門 シニアコンサルタント 野村 有司

ベンチャーキャピタルを経てマーサー ジャパン入社。グローバルM&Aコンサルティング部門を経てヒューマンキャピタル部門所属。役員報酬制度、長期インセンティブ制度、M&Aにおける人事制度統合など、組織・人事と経営、会計、法務などをつなぐ「ハイブリッド」なコンサルティングに従事。
共著に『人事デューデリジェンスの実務』 (中央経済社、2006年)。
京都大学経済学部経済学科卒。

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