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取締役会と集団浅慮

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2015年12月04日

不適切会計、排ガス不正、データ改ざん、偽装と、今年も企業の不祥事が相ついで発覚した。
経営トップが直接的に関与している場合はもちろんのこと、そうでなくても、役員がその事実をまったく認識していなかったというケースはほとんどないだろう。

いずれも、取締役会あるいは監査役がきちんと機能していれば、違反を防げたか、少なくとももっと早くに対応できたはずである。
当然ながらどの企業も会社法の定めるガバナンス体制をとっており、形式的にはチェック機能は有しているのだ。にもかかわらず、誰が見てもおかしな行為がごく普通に行われてしまった。いくら制度を整えたとしても、その担い手が期待される責務を果たさなければ意味はない。

それにしても、なぜこのような不正行為が行われ、放置されてきたのかという素朴な疑問が浮かぶ。
取締役会といえば、企業の業務執行に関する最高意思決定機関である。メンバーは、当該企業あるいは他の組織でマネジメント経験を積み、多種多様かつ高度な意思決定をしてきたはずだ。当然ながら、どのような行為がコンプライアンス違反となるかについても、一般社員に比べればよく知っているはずである。

メンバー個々人は、不正に気付いたか、あるいは少なくとも何らか胡散臭いことがあるのを感じていたに違いない。にもかかわらず、問題を放置するという常識で考えれば妥当性のない選択をしてしまったのだ。

今回の例に限らず、衆知を集めたはずの会議で「誤った結論」や「変な結論」が生まれることはよくある。会議の後で、「なんだ、この下らない案は? これなら私が考えたヤツのほうがまだマシじゃないか……」との思いは誰しも持ったことがあるだろう。

このように、集団で決定されたことの質が、個人で考えたものよりも劣ってしまう現象を、心理学で「集団浅慮」(あるいは「集団思考」)という。
アメリカの心理学者のジャニスによると、集団浅慮が起こりやすくなるのは、次の4つの条件がそろったときだそうだ。

① 集団凝集性が高いこと
集団凝集性とは、メンバーの仲間意識や団結力のことである。このような中では、意見の対立は集団の良い雰囲気を壊すことになるので、反対意見は言いづらく、自制してしまう。また、外部からの異なる意見も排除することにもなる。
② 秘密性が高いこと
話し合いの中身を外部に公表する必要がないと、外部からのチェックや情報提供が行われず、独りよがりの結論になりやすい。
③ 強力なリーダーが存在すること
強いリーダーが存在すると、そのリーダーの意のままに会議が進められ、リーダーの顔色を読み、リーダーの意に沿わないような意見は控えられるか、言っても圧力がかけられる。
④ 大きなストレスがかかること
重大な決定を短時間でしなければならない場合、メンバーは大きなストレスを受けるため、そのストレスから早く逃れようと、十分に検討することなく拙速に意思決定してしまう。

いずれも、多くの企業・組織の取締役会をはじめとする諸会議に当てはまるものではないだろうか。冒頭に掲げたような不祥事で世間を騒がせる事態は、他の企業でもありうることなのだ。決して他人事ではない。

では、集団浅慮を防ぐにはどうすればよいか? ジャニスは次の5つを指摘している。

① リーダーがメンバーに対して異議や批判を言うのを奨励すること
② リーダーは、メンバー全員が意見を言うまで自らの意見を控えること
③ 集団をさらに小さな単位に分け、そこでの意見を全体会議に持ち寄るようにすること
④ 外部の専門家を参加してもらい、批評を受けること
⑤ メンバーの1人に批判役になってもらい、反対のツッコミを入れてもらうこと

「それができれば苦労はしない」ともいえるが、これらが実際に実現できるかを含め、結局はリーダーの器量にかかってくるのは確かである。経営者だけでなく、その予備軍であるミニリーダーにも、ぜひ参考にしてほしい内容である。

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