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3倍のスピードで成長するためには

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2014年08月05日

マーサー ジャパン株式会社 組織・人事戦略コンサルティング部門 中村 健一郎

3倍のスピードで成長する。一見すると途方もない数字に思える。1日は24時間、勤務時間は最低8時間。睡眠時間はその前後を併せても8時間は時間を取らなくてはならないし、残りの8時間でも、適宜ワークライフバランスを確保しなければ息切れしてしまう。一部のショートスリーパー体質の人を除けば、3倍のスピードでの成長など不可能なように感じられる。

しかし、最近、インドや中国の人とも仕事で接点を持つようになり、優れた人たちに触れる中で、この人たちに勝てなければ将来食べていけなくなるかもしれない、常に3倍のスピードで成長するぐらいでなければやっていけなくなる。と、切迫感を持って感じるようになってきた。望もうと望むまいと国際競争が進展していく中では、直視しなければならない現実である

そこで、考えてみた。3倍のスピードで成長するには、何が必要なのか。3という数字を分解してみると、3≒(1.2×1.2×1.2)×(1.2×1.2×1.2)という式になる。加えて、「この人は優れた人だな」と感じる人の特徴を一つ一つ思い返してみる。
■とにかくよく勉強する
■いつも改善を怠らず、質を落とさずに効率よく物事に取り組もうとする。段取りがいい
■話を聞き終わって出てくる「要するに・・・ということ」が、いちいち的を射ている
■やったことがないことや分野でも、常に好奇心を持って取り組み、挑戦している
■他人の優れたところを貪欲に吸収しようとする
■障害に突き当たると、何とか答えを見つけようと別の視点から考えてみようとするこの二つを考えてみたとき、3倍のスピードで成長するためのポイントは次のようにまとめられるのではないだろうか。
■一つの分野において、人より1.2倍の量、1.2倍の効率と集中力で勉強し
■その要点と本質を掴み、応用を考えて、1.2倍に密度を高め
■更に、別の分野の要点と本質と組み合わせて新たな思考の深みと拡がりを手に入れる(1.73×1.73)
■基本的には、自分の頭でとことん考えて、複数の手がかりを組み合わせてこれまでにない独自の解決策を作り出し続けるということだろう。

思い返してみれば、ヨーゼフ・シュンペーターは、著書『経済発展の理論』の中でイノベーションを”新結合”としていた。彼は、イノベーションの実行者をアントレプレナーと呼び、それを一定のルーチンをこなす管理者ではなく、生産要素(財貨の生産、生産方法の導入、販売先の開拓、仕入先の獲得、新しい組織の実現)を全く新たな組み合わせで結合し新たなビジネスを創造する者と定義していた。ここで考えてみたポイントと通じるものがあるように思える。

一方で、こうした成長を実現するためには、個人レベルの取り組みが必要なのはもちろんだが、組織としての環境作りももっと重要だということにも気付く。
■個人にとって新たなことを学ぶ機会を、集中できる環境と共に付与する
■要点と本質、組み合わせた深みと拡がりに本人が気付けるように、適切なコーチングを行う
■新たな知識を得やすいように、組織の中でのナレッジを得やすいインフラを作る
ことである。もし、新たなことを学ぶ機会を適切に与えられず、様々な雑務で集中できない状況に陥り、気付きを与えるコーチングを受けられず、学ぶために自分の時間とお金を使わなくてはならない状況では、個人がどんなに努力しようとも限界がある。

個人の成長を梃子に組織が大きく成長するためには、個人の中で「掛け算を起こす」取組みを行うことと共に、組織が「適切に成長を促進する環境を用意する」という組み合わせが大切なのである。私自身、改めて、自分の日頃の行動を振り返ると共に、周りの人の成長も支援していけるようにしていきたいと思う。

 

※本記事は2011年11月時点の記事の再掲載となります。

マーサー ジャパン株式会社 組織・人事戦略コンサルティング部門 中村 健一郎

国内外企業の組織・人事制度改革プロジェクト、リーダーシップ研修、組織変革プロジェクト、グローバル人材マネジメント構築 プロジェクト、グローバル意識調査プロジェクト、等様々なプロジェクトをリード。
研究組織活性化フォーラムメンバー。執筆文として、「研究開発者の活性化につながる処遇を考える」(労政時報、共著)、「輝く組織の条件」(ダイヤモンド社、共著)、「なぜ今、幕末のような大物が生まれないのか」(プレジデント)がある。
一橋大学 経済学部卒。NTTデータ、アビーム・コンサルティングを経て、2000年から現職。経営行動科学学会会員

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