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組織マネジメントの“2ストライクアプローチ”

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2014年07月24日

マーサー ジャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング部門 米澤 元彦

ここ最近はすっかりインドア派な私だが、かつてはスポーツ少年だった頃もあり、大学時代にはよく友人達と草野球に励んでいた。そんな草野球界で、最近にわかに流行っている打撃戦術がある。それは“2ストライクアプローチ”と呼ばれる昨年の日本ハムファイターズが“つなぐ野球”を実現するために行っていた戦術であり、これを行うと強打者が揃っていないチームでも凄腕投手から得点を重ねることが出来るらしい。

この戦術、ただ単にバントや盗塁を多用するというものではない。「得点までの一連のプロセスをシステム化したもの」とも言え、“組織内の連携強化”という点で大変興味深かったため、是非ここで紹介したい。“2ストライクアプローチ”というのは簡単にまとめると以下のようなものらしい。1. まず打席に入ったバッターは2ストライクまでは自分の得意なコースに絞って初球から全力でフルスイングする。2. 2ストライクに追い込まれたら、バッターはボールを右足の前まで呼び込んで打つ“粘りのバッティングスタイル”に変え、甘い球以外はファールで逃げることを優先する。3. こうしてピッチャーの疲労・集中力を低下させることで、たとえその打席は打ち取られても、フルスイングの体制で待ち構えている次のバッターに甘い球が投げられる可能性が上がり・・・とヒットが出やすくなる。日本ハムファイターズの練習では、常にこの“粘りのバッティングスタイル”をトレーニングしているとのことだ。
この戦術の凄いところは次の2点ではないかと考える。
1点目は得点を上げるためのプロセスを一つひとつの行動レベルまで落とし込み明確にすることで、特別なことをしなくても自然と“次へつながる”ようにシステム化されていること。
2点目は2ストライクまではリスクテイクを許可することで、各人の強みを活かしつつも、システムを実現するために最低限必要となるスキル(ここでいえば“粘りのバッティングスタイル”)を徹底的に鍛えて身につけさせている点である。近年の不況下では、新規ビジネス領域の拡充や人材の新規採用に対しては慎重な体制が求められる一方で、既存ビジネスの業務プロセスの効率化や人材育成の強化がますます優先度の高い課題となっている。今のような状況下で、ただ目前の業務のスピードアップを図ったり、部下の弱点を補うだけの育成をしたりという場当たり的な解決策だけでは効果は出づらい。
むしろ少々面倒でも、「自分の所属する会社がどのようなプロセスでお客様に価値を提供しているのか」「その中で自分のチームはバリューチェーン上どのポイントに存在し、どのような価値を加えれば次のプロセスへ効果的に繋がるのか」までを突き詰めて考え、メンバー一人ひとりの役割をアクションレベルまで明確にすることが有効なのではないだろうか。
そうすることによって、個々人の業務がばらばらに完結してしまうことなく、周囲の人々の業務にも影響を与え、自然と業務の連鎖が発生する仕組みが出来るであろうし、また部下それぞれの強みを最大限に活かしつつも、押さえるべき育成のポイントが浮き彫りになってくるのではないかと思う。役割の明確化と言ってしまえば、ともすると当たり前とも思えることなのだが、こういったベースの部分をまずは丁寧に行うことが、最終的には大きな競合とでも対等に戦っていけるような引き締まったチームにつながっていくのではないかと、昨年の日本ハムファイターズの活躍を振り返り、私は強く感じた。

 

※本記事は2011年11月時点の記事の再掲載となります。

 

マーサー ジャパン株式会社 組織・人事変革コンサルティング部門 米澤 元彦

東京工業大学大学院修士過程修了(社会理工学研究科)

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