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留学費用の返還

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2015年05月01日

MBAの取得などで海外留学させた社員が、留学後に早期退職をしてしまうケースが後を絶たない。
留学費用は、 諸経費を含めて2年間で1千万円を超えることもあり、企業としても「仕方がない」では済まされない。

企業側の予防策として、留学後一定期間を経ずに退職した場合には費用の返還を求める誓約書を出させることもあるが、これは労働基準法第16条に定める「賠償予定の禁止」に違反する恐れがあるとされる。

労働者の退職の自由を守るために違約金等の定めを禁止する労基法16条の趣旨からして、費用の返還義務のために社員が一定期間の労働を拘束されるような仕組みは問題というのである。

この件に関しては、いくつか訴訟が起こされており、判決も企業の勝訴、労働者の勝訴とさまざま出ている。
その詳細はさておき、問題はどうすれば法16条に抵触しないかで、判例から導き出されるのは、

1.社員と個別に金銭消費貸借契約を交わすこと
2.留学と業務との関連性をできる限り低くすること

の2点である。 以下、それぞれのポイントを整理してみよう。

1.社員と個別に金銭消費貸借契約を交わすこと

①費用の弁済について、海外留学規定等で定めるだけでなく、社員と個々に契約を交わすことが重要となる。
このとき、違約金という形にしてしまうと、16条に触れる可能性が高まるので、留学費用を貸与するが、一定期間勤務することで債務免除をするという特約付き金銭消費貸借契約とするのがベストである。
誓約書にする場合は、②で述べる文言や③~⑤の内容に留意して、実質的な特約付き金銭消費貸借契約にしておくことが望ましい。

②早期退職に対して費用の「返還」を求めるのではなく、「弁済」を求める、あるいは、一定期間勤務により「債務を免除する」といった文言にする。これにより、”貸与”であることを明確化できる。

③弁済すべき留学費用の明細を明確化しておくこと。留学費用には出願料、入学金、授業料、教材費、渡航費などがある。判例でも概ねこれらは認められている。なお、留学に際して支給した手当等は、実費ではないので弁済は困難と考えた方がよい。

④弁済義務が免除される期限を明確化しておくこと。「復職後満5年経過後」といった形にし、「一定期間を経ず退職をした場合」などのあいまいな文言は避けるべきである。

⑤弁済期限が長期にわたらないようにすること。5年を限度とする企業が多く、判例も5年ならば認めているため、5年までと考えた方がよい。ちなみに「国家公務員の留学費用の償還に関する法律」で、国家公務員も5年と定められている。

2.留学と業務との関連性をできる限り低くすること

これは、業務との関連性が高いと、費用は本来的に会社が負担すべきものとなるためである。
とはいえ、留学が企業の制度である以上、業務との関連性がまったくないことはありえないので、以下の点に留意することで、直接的な関連性を弱める必要がある。

①留学制度の目的が、業務に直接的に役立つ知識や技術の修得というよりは、将来の幹部人材の養成といった長期的な人材育成の性格を持つものであること。

②留学が社員の希望に基づくものであり、留学するかどうかの判断が完全に社員の意思に委ねられていること。なお、留学決定後に形式的に留学の業務命令を出すことは構わない。

③留学を推薦されたが辞退した場合などにおいても、その後の処遇等で不利益な扱いを受けないこと。

④留学先、選択科目、研究テーマ等が社員の自由意思に任せられており、業務命令で決定するものではないこと。ただし、留学先は会社の判断で限定してもよい。

⑤留学期間中に、業務に直接関連する研究課題の作成や詳細なリポートなどを求めないこと。ただし、研修状況の簡単な報告はOKである。

⑥留学により修得できる知識・技術・資格等が、転職を容易にするなど社員個人として有益なものであること。これは、労働者が費用負担をすべきことの根拠となるものだ。

⑦留学により修得できる知識・技術・資格等が、社員の留学前後の業務と関連するものばかりでないこと。判例では、業務に直接には役立たない経済学や数学の履修があることから、業務に関連するというよりは汎用的な経営能力を開発するものと指摘したものがある。

1の社員との個別契約は形式的な留意事項、2の業務関連性は実質的な留意事項といえ、双方に気を配ることが求められる。

1の契約書を整えたとしても、留学の実質的な内容が2に反するものであれば、16条違反の可能性が高くなるし、2の内容を満たしていたとしても、1の契約をいい加減なものにすればトラブルの元になるということである。

このように両者の整備が重要となるわけだが、何よりも社員にしっかりと説明をし、合意を得ておくことが、留学費用返還トラブルの最大の防止策といえるだろう。

 

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