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労働規制緩和の方向性を見据えて、今やるべき事は?

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2014年10月08日

随分と間が空いてしまったが、その間、当社「裁量労働制&インセンティブ導入支援サービス」の資料ダウンロードが急増していた。
 5月くらいから安倍政権の産業競争力会議で議論されている”働き方改革”が、マスコミで報道されるようになったからであろう。産業競争力会議は、総理が議長を務め、麻生副総理が議長代理、甘利経済再生担当大臣が副議長、民間企業からは楽天の三木谷会長、ローソンの新浪会長らが名簿に名を連ねる。

具体的に議論されているのは、アベノミクスの”第三の矢”である「新たな成長戦略」の具体策である「日本再興戦略」の中の「⑦働き方改革」という位置付けである。その中では、”時間ではなく、成果で評価される制度への改革”とあるが、”残業代ゼロ法案”などの見出しが新聞の一面を飾るようになると、さすがに世間の注目を浴びるのだろう。
 しっかりと内容を調べてみると、議論されているのは2007年に当時の政権が導入を断念した「ホワイトカラー・エクゼンプション」の再検討である。現時点では、年収1,000万円以上を対象に2016年4月を目指して検討しているようであるが、これで何が変わるのか、いささか疑問である。
 平成24年度の総務省統計局の調べによると、そもそも年収1,000万円以上は労働者全体の2.7%に過ぎない。そのうち部長および課長は78.4%を占める。これら管理職の方々は時間外手当が支給されていないと仮定すると、対象となるのは全体の0.58%.となる。言い換えると約170人に一人の割合である。これらは一体どんな人たちなのだろうか?
 そもそも企業の中で、残業手当をもらって年収1,000万円を手にしている人がいるとは考えにくい。しっかりとした裏付けを得るには至っていないが、これらの方々は恐らくは弁護士、会計士などのクライアントから時間給で報酬をもらっている職業が多いのではなかろうか?
 この仮説が正しいとすると、「日本再興戦略」のそもそもの目的である”中長期的に2%以上の労働生産性向上”を達成するのは困難なものとなろう。

 1990年代に入ってから、日本の労働生産性は低迷を続けている。2012年度に至っては、米国の3分の2の水準である。これはアメリカ人が2時間で終わる仕事を日本人は3時間かけてやっているということになる。
 これは当たり前のことだが、日本の労働社会が働いた時間によって評価される風習で成り立っているからに他ならない。30年前の国勢調査による産業人口は第一次産業と第二次産業が42.4%を占めていたが、直近の平成22年度の調べでは29.4%に減少している。
 反して第三次産業の労働人口は57.3%から70.6%に拡大している。これは、かつての人手による単純作業は機械化やIT化によって省力化され、仕事の内容は時間で測れるものから成果で測るべきものへと変わってきているということを示している。

 しかしながら、政権の産業競争力会議では、”時間ではなく、成果で評価される制度への改革”とは言っているものの、現時点で給与体系の話には至っていない。給与の話を横において労働時間の話だけをされても、結果的に働く側にとってみれば収入は減るだけという印象だろう。この法案は恐らく可決されるが、結果的には何も変わらないだろう。
 であれば、対象者が極めて限定的なこの法案を待って動き出すよりも、今の制度の中で労働生産性を上げる方法を探すのが、遥かに現実的だと私は考える。

 「働き方の新しいスタイル」というテーマで、HRproさんと共催で7月にセミナーを実施した。もともと狭い部屋を予定していたのだが、おかげさまで集客開始後2日で満席になったらしい。
 内容は裁量労働制とインセンティブという、このコラムの一連のテーマである。ご出席者の方々の目的はというと、裁量労働制の導入を検討しているという方々が過半数を占めていることがアンケートの結果で判明した。前述の産業競争力会議でも、裁量労働制の導入手続きを簡略化する方向で検討するという。これからは検討する企業も増えてくることだろう。
 一方のインセンティブは、殆どの方が検討していないという回答。インセンティブという考え方は、まだまだ日本社には馴染みがないということも改めて解かった。日本企業にインセンティブという制度を導入するのはハードルが高い。
 しかしながら、裁量労働制の導入だけだと、下手をすれば社員の同意も監督署の承認も得ることは難しいだろう。仮に移行ができたとしても、時間外手当は減るかもしれないが、成果は変わらないだろう。生産性向上に加え、社員のモチベーション向上と成果をも期待するのであれば、成果給=インセンティブの導入は、避けては通れない。”成果主義”をイメージすると失敗例も多く思い浮かぶだろうが、前回までに記述してきたポイントをしっかりと押さえれば効果も十分期待できる。
 IT業界は裁量労働制の導入比率が最も高い業種であり、リファレンスとなる外資系企業も多くある。彼らは”第三のプラットフォーム”が本格的に台頭してくるこの数年に、どうやって現場の行動変革を促すかを真剣に考えていることだろう。日本企業も今ここで動かなければ、外資系に水を空けられるばかりだ。現場の行動変革は、お作法だけでなく、動機付けも必要なのだ。

 9月9日(火)に前述のセミナーを再度開催する。ご興味のある方は是非ご参加いただき、日本の労働生産性向上に向けて、積極的な議論を交わしたいと思う。

 私は、働き方と給与体系を変えることで、IT業界を先頭に、外資に負けない強い日本社の復活に向けて、少しでもお役に立ちたいと強く願っている。

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