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人事労務コンプライアンスリスクの防止策

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2014年08月29日

人事労務コンプライアンスを怠ることで、訴訟リスク、行政処分リスク、風評リスクなど様々なリスクの発生が危惧される。これらはいずれも、企業業績の悪化要因となり、社員のモラールにも大きな悪影響を及ぼすもので、下手をすると会社の命取りになる。企業はリスクを防止する方策を真剣に考えておく必要がある。

リスク防止のための課題には、個々のリスク要因に対する個別課題と会社全体を通じての全体課題とがある。

個別の課題とは、リスク発生の要因となる個別の事象を洗い出し、事前に対策を打っておくことだ。
労働時間、賃金、解雇などの雇用関係分野、派遣・請負労働、パートタイマー、外国人労働者などの非正規雇用分野、労災、メンタルヘルスなどの安全衛生分野、セクハラ、パワハラなどの人権分野といった切り口から自社の課題を整理していく。
特にリスクが大きいと想定される事項について、重点課題を設けることも重要となるだろう。

一方、全体課題とは、経営者を含む全社員の意識改革や、全社でコンプライアンス活動が進められるような環境づくりの必要性のことだ。

この2つの課題にきちんと取り組むことで、リスク防止策は継続的かつ効果的に機能する。全体課題だけでは実践が伴わないし、個別課題だけでは形式的でその場しのぎの取り組みに終わってしまう危険性が高い。

さて、ここでは上記課題のうち、全体課題についてさらに掘り下げてみる。全体課題の内容は以下の4つだ。

1つ目は、経営者・社員のコンプライアンス意識の向上である。

今どきの経営者・社員ならば、コンプライアンスの重要性は少なくとも表面的にはわかっている。ただ、真に理解しているかとなると心もとない。
「身に染みて」理解してもらうには、問題が発生したときの被害の重大さを再認識させることである。会社に起こりうるリスクを具体的に想定し、その影響度合いをシミュレーションしておくのである。
たとえば、サービス残業の実態を明らかにして、未払い残業代がどれくらいあるかなどを具体的金額で示すのだ。ある企業の役員会でこれを明示したところ、億単位に上るその数字に一同が呆然としたこともある。その後、社長の鶴の一声で残業削減対策が取られることになった。

2つ目は、コンプライアンス活動に対してポジティブな受け止め方をすることである。

コンプライアンスに対する意識が向上しないのは、コンプライアンスに対して後ろ向きのイメージがあるからだ。つまり、コンプライアンス活動というのは、業績向上に直接結びつくものではなく、「決まりがあるからやらなければいけないもの」、もっと言えば「お客様や他社の手前、仕方なくやるもの」という認識がある。
こういうとらえ方をしていては、活発な活動は期待できない。そこで、もっと前向きな見方をしようということだ。
特に人事労務コンプライアンスであれば、その実現によって、社員がより生き生きと働ける環境がつくれるとのイメージが持てるはずである。

3つ目は、社員がコンプライアンスの問題を共有できる環境・雰囲気をつくることである。

組織としてコンプライアンス意識を高めるには、1人1人の意識向上を求めるだけでなく、社員が1人で悩まず上司や同僚に気軽に何でも相談し合える風土づくりが大切だ。
ただこれは、組織風土に関わることなので短時間に変えるのは正直言って難しい。そのため、時間をかけてじっくり醸成していくという姿勢でかまわない。
実行に向けては、まず、職場全体で意識向上ができるような仕掛けが求められる。具体的には、職場にコンプライアンス委員を設置し相談窓口とするとか、上司が定期的にコンプライアンスについてミーティングや面談をするなどである。

4つ目は、経営者主導のもとで取り組むことである。

経営者主導がなぜ必要かといえば、

① 社員に本気度が伝わる
② (特に管理者の)責任感・当事者意識が強まる
③ 総論賛成・各論反対を防止できる
④ 必要コストに関して承認を得やすくなる

といったメリットが期待できるからだ。

経営者主導でなければ、「気持ちはわかるけど、ウチは無理」だとか「どうせウヤムヤになるから、適当にやっていればいいよ」などの声が必ず出てくる。
コンプライアンスの実践は、ある意味理屈抜きでやらなければならない部分もあり、これにはトップの強制力が不可欠となるのだ。
経営者がコミットしないコンプライアンスリスク防止活動は、絶対に形骸化するといって間違いない。

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