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「働くこと」基礎概念講座2-3 ~自律と他律そして「合律」の働き方

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2014年07月06日

◆「自律的」に見事な仕事

  「しつけの目的は、自分で自分を支配する人間をつくること」。
                    ―――野村克也『野村の流儀』

 

 

これを私たちの言葉に平たく直せば、「企業における人材教育の目的は自律的な仕事人をつくること」となるだろうか。さて、「自律的な仕事人」とはどんな姿だろうか。人事の世界では誰もが、「社員の自律性を高めることが大事だ」と言うが、その自律にどんな働き方のイメージを持っているのだろう。

私は、自律性が見事に表れた仕事ぶりとして、次の一例をあげたい。

東京ディズニーランドは2011年3月に起こった東日本大震災のときに、ひとつの伝説をつくった。2011年5月16日付『日経ビジネスオンライン』は、「3. 11もブレなかった東京ディズニーランドの優先順位」と題した記事で次のように伝えている。

  ―――「アルバイト歴5年のキャストHさんは、当日のことを思い出す。
『(店舗で販売用に置いていたぬいぐるみの)ダッフィーを持ち出して、
お客様に“これで頭を守ってください”と言ってお渡ししました』。
彼女は会社から、お客様の安全確保のためには、
園内の使えるものは何でも使ってよいと聞いていた。
そこで、ぬいぐるみを防災ずきん代わりにしようと考えたという」。

これは、あの長く激しく揺れている恐怖の最中に、一人の従業員がとっさに判断した行為だ。もちろん、店長などに「あのー、これをお客様にタダで配ってもよろしいでしょうか」などとうかがいを立てている場合ではない。危機が目の前で起こっているのだ。そんなときに、ぬいぐるみを頭にかぶってもらうというアイデア自体がすばらしいし、それをその場の自己判断で実行したことは、なおすばらしい。ベテランの正社員でもなかなかできる仕業ではない。

「自律的である」というときの、“律”とは「ある価値観や信条にもとづく規範やルールのこと。さまざまな事柄を判断し、行動する基準となるもの」である。その律をみずから醸成し、その律に従って判断、行動できるというのが、自律的な姿である。彼女の律は、「“夢と魔法の王国”にふさわしい顧客満足を提供するために、キャスト(演者)として演じうることを自分で考え、精一杯演じる」なのだろう。その律に従って、あるいはその理念を満たすように、彼女は危機の中で見事に自律的な仕事をした。

◆自律は善で/他律は悪か
こうした劇的な自律の仕事例はまれであるにせよ、個々の社員が自律性を高めていくことは、組織を強くするための重要課題といえる。ただそのときに、単純に自律的な働き方は善で、他律的な働き方は悪だととらえることに私は賛同しない。一歩深く思索を入れたうえで、自律と対になる他律をとらえるべきなのだ。そこで私は研修で、次のような表を出し、一般社員や管理職に考えてもらう。

1つの軸に「自律的な働き方/他律的な働き方」を取り、もう1つの軸に、「望ましい点/望ましくない点」を置く。その4つの空欄にどんなことが当てはまるかを考え、ディスカッションする。念のために、自律と他律の定義は次のように考える。

○「自律的」
=自分自身で“律”を設け、それによって判断・行動する
(そこには、意志的、能動的な態度がみられる)

○「他律的」
=他者が設けた“律”によって、判断・行動する
(そこには、追従的・受動的な態度がみられる)

2-3a 自律と他律

誰しも「自律的×望ましい点」と「他律的×望ましくない点」はすぐに思い浮かべることができる。だが、じっくり考えると、「自律的×望ましくない点」や「他律的×望ましい点」についてもいくつか出てくる。

たとえば、自律が過剰にはたらくと、自己中心的な暴走や逸脱を生む。自律的働き方が、いつしか“俺様流”に陥るのだ。自律意識過剰の人間ほど、狭い視野の判断でトラブルを起こしてしまったり、「こんな会社やってられるか」と切れてしまい、簡単に転職に走ってしまうケースはよくある。

また、他律的な働き方は、ときに効率的でミスの少ないものである。もしその組織が、過去から営々と築き上げてきたノウハウを持っている場合は、ヘタに個人が独断で動くより、組織の持つ暗黙知・形式知に従って(=他律的に)淡々と仕事をやるほうがいい場合もある。先輩方が築き上げてきた伝統の知を従順に利用することは、賢明な手でもあるのだ。ただ、それに安住し依存してしまうと、他律的の望ましくない面がじわり出てくる。

いずれにしても、私たちが押さえるべきは、自分の律も他者の律も完璧ではないことである。そこで重要になってくるのは、両者の律を「合して」、つねに「よりよい律」を生み出していくことである。

◆自律と他律を高い次元で止揚する「合律」
さて、両者の律を合するとはどういうことだろう。私は、働き方として自律的と他律的の二分法を超えて、新しい意識概念を登場させるべきだと思っている。

自分の日ごろの仕事を振り返った場合、その仕事は、必ずしも自律で行なわれたか、あるいは他律かという両極の2つで分けられるものではない。実際にはそのぶつかり合いから生まれる第三の形態が存在する。

つまり、ある仕事をやろうとするとき、組織や上司はこう考え、こう行なうようにと命令してくる(=他律的な)流れと、それに対し、「いや、自分はこう思うので、こうしたい」とする(=自律的な)流れが生じる。そして、結果的には、自分と上司なり組織なりが討議をして、双方が納得する答えをつくりだしている。この自分と他者の間に生み出された第三の答えは、自律も含み、他律も含み、だが新しくもある。

その第三の答えは、双方の律を“合した”という意味で、「合律的」と呼んでいいかもしれない。自律的な「正」の考えに対し、他律的な「反」の考えがあって、その2つを高い次元で止揚する「合」が生まれたということだ。

2-3b 自律と他律

ただし、「正」と「反」がぶつかりあっても、妥協で済ませる場合は「合」ではない。「合」とは次元が上がって生み出された新しい何かである。

◆個々が合律的に振る舞う組織は変化に強い
事業組織は、つねに環境の変化にさらされていて、その環境適応・環境創造のために、新しいあり方・やり方を生み出していかねばならない。その際、誰がそれらを生み出していくのか?───もちろん、それは経営者および個々の従業員にほかならない。

だが、個が過剰に自律的(時に我律的)に考え出し、行動する選択肢は往々にしてハイリスクであるし、全体がまとまるにもエネルギーが要る(存亡の危機にある組織が、起死回生の一発を狙って行なう経営者の超我律的選択は、例外的なものである)。そんなとき、自律と他律の間で、止揚的に第三の選択肢を創造していくことは、最も現実的で、かつ成功確率の高い変化対応策を生み出すことにつながる。

2-3c 自律と他律

強い会社・変化対応に優れた組織というのは、経営者が合律的なマネジメントを実行するということは当然だが、やはり、現場の一人一人の働き手が、まず自律的な存在となり、自分の意見を組織にぶつけて、合律的に事に向かっていくことが決定的に重要である。

2-3d 自律と他律

合律的という意識は、一個人のなかにおいても大切である。自分の律に対し、つねにオープンマインドで他者の律をぶつけてみることで、自律の偏りやゆがみや不足などが見えてくる。いわゆる独りよがりの我律を排する姿勢である。そして他律から取り込むべきものは取り込んで、以前とは次元の上がった律を持つことができたなら、それは合律による成長である。

◆いかに個の自律性を育み、合律的な組織にしていくか
個々の社員の自律性を高めるために有効な方法のひとつは、ロールモデルを多く見せることである。みずからが抱く価値を、組織の目指す事業価値と共鳴させながら、仕事を創造している事例を、社内報なりイントラネットでさまざまに紹介し蓄積していく。それらの働き様が刺激となって、一人また一人と、内に抱く律を醸成し、行動を起こすように促されるのである。

たとえば、本田技研工業は創業以来の社史を『語り継ぎたいこと~チャレンジの50年』として、インターネット上に公開している。そこには本田宗一郎、藤沢武夫はもちろん、現場の管理職、エンジニアたちの群像物語がある。同社にとって、このドキュメントこそ、ホンダ的な自律精神を養う最良の教科書である。それはまさにホンダが理想とする働き様の具体例のサンプル集だからだ。ちなみに同社はそのエッセンスを「ホンダ・フィロソフィー」として抽象化し、社内研修も行っている。

個々の社員の自律を促し、かつ、個と組織が合律的に律を強化していく作業は、自律性を高揚する組織文化をつくっていくことでもある。したがって、経営や人事の側は、「自律的な社員を増やしたい」と思ったら、それは単発の研修で済ませる話ではなく、組織文化醸成という枠で取り組む意識が必要である。人の意識、ましてや自律性という難しい心の習慣をつくっていくことは、一朝一夕にできるものではなく、中長期の、環境全体からも影響を与えていく仕掛けが不可欠となる。

〈合わせて読みたいグループ記事〉
○2-1:「自立」と「自律」の違いについて考える
○2-2:3つの自~自立・自律・自導
○2-3:自律と他律そして「合律」の働き方

 

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