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「働くこと」基礎概念講座4-2 ~「連続的な成長」と「非連続的な成長」

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2014年08月20日

「成長」を考える②:「連続的な成長」と「非連続的な成長」

「連続的/非連続的」という概念は、イノベーション(技術開発などによる革新)のプロセスを研究する現場で注目された。つまり革新には、地続き的に徐々に進化していく場合と、飛び地的に一気に飛躍する場合と2種類あるという分析である。著名なイノベーション研究者であるヨーゼフ・シュンペーターは、非連続的なイノベーションを次のように喩えた―――「いくら郵便馬車を列ねても、それによって決して鉄道を得ることはできなかった」と。

私たちの成長にも、「連続的/非連続的」(もしくは「地続き的/飛び地的」)といった2つの場合がありそうだ。

◇【連続的(地続き的)成長】
一つの業務分野、職種、会社で、日々、知識・技能を習得し、経験を重ね、人脈を広げていくと、次第に職業人としての進化・深化がなされていく。そしてキャリアの幅が広がっていく。そうした一歩一歩連続する成長をいう。

◇【非連続的(飛び地的)成長】
私は米国に留学したことがあるので経験済みであるが、例えば英語学習の場合、やはり現地で生活してみるとヒアリング(聞き取り)に難を覚える。試験英語で鍛えたヒアリングではまったく不十分なのだ。当初2ヵ月くらいまではよく聞き取れない。ところが、あるタイミングを過ぎると、突然、ウソのようにすーっと耳に入ってきて聞き取れるようになる。これが非連続成長である。

日ごろの業務においても、ひとつのスキルの鍛錬を重ねていくと、技術的に非連続な成長を得るときがある。しかし、職業人としての非連続的成長が重要な意味を持つのは、こうした技術面でのことより、意識面のことのほうがはるかに重要である。

働く意識の非連続的成長について、次のピーター・ドラッカーの言葉は傾聴に値する。

  「指揮者に勧められて、客席から演奏を聴いたクラリネット奏者がいる。
  そのとき彼は、初めて音楽を聴いた。
  その後は上手に吹くことを超えて、音楽を創造するようになった。これが成長である。
  仕事のやり方を変えたのではない。意味を加えたのだった」。

                        ―――『プロフェッショナルの条件』より

人は仕事に大きな意味を見出したとき、それに向き合う意識ががらっと変わる。それこそがまさに、心が非連続的な跳躍をしたときだ。心の次元が変わることで、仕事のアウトプットの次元も変わる。

◆「消費される仕事」から「消費されない仕事」への跳躍
私自身が経験した非連続的成長の話を補足としてさせていただくと、私は20代から30代にかけて、7年間、ビジネスジャーナリズムの世界に身を置いた。ビジネス雑誌の編集は、ある意味、刺激に溢れ面白い仕事だった。しかし経済のバブルが増長中であれば、経済をあおる記事を書き、バブルがはじければ、誰が悪いんだと犯人探しの評論記事を書く。そんな、メディア業界の性質にネガティブな思いがどんどん大きくなっていった。また結局、雑誌のトレンド記事は、書いても書いても“消費される”だけで、自分の中に積み上がっていく何かがない。

このまま「“消費される仕事”を続けていくのか? でも、“消費されない仕事”って何だ?」という問いが自分に大きくのしかかってきはじめた。齢33を過ぎたそんな折、次のような中国のことわざを目にしたのである。

 「一年の繁栄を願わば、穀物を育てよ。
  十年の繁栄を願わば、樹を育てよ。
  百年の繁栄を願わば、人を育てよ」。

そのとき「まさに消費されない仕事とは、人を育てる仕事ではないか!」と直感的に確信した。そして、私は教育系の出版社に転職した。物理的にはビジネスジャーナリズムから教育の分野に身を移し、精神的には「消費される情報の仕事」から「消費されない人を育てる仕事」へと非連続的な跳躍をしたのである。

たぶん、何かを求めようとしていた意識が鋭敏になっていたからこそ、あの中国のことわざが目に入ったのだと思う。意識が鈍になっていたら、見過ごしていたに違いないのだ。まさにパスツールの名言───「準備された心にチャンスは微笑む」であった。
 
◆成長を起こすために何が必要か
次々回の記事であらためて書くが、成長は仕事の直接的な目的ではない。何かに打ち込むことを地道に継続したとき、“結果的に”成長という変化が起こってしまう。

若い人たちは、セミナーやメディア記事で、活躍するビジネスパーソンたちの成長話や運命的とも言える非連続的飛躍のエピソードを聞き、それに感化されるわけであるが、安易にこの劇的な成長変化だけを求めたがる傾向がなくもない。そんなときに、次の内容を念押しで伝えておく必要がある。

連続的成長と非連続的成長のうち、基本として大事なのは言うまでもなく連続的成長のほうだ。日々の地道な進化・深化の気持ちと積み重ねがあってこそ、やがて非連続的成長の引き金が引かれるからである。漫然と「なんか、いいことないかなー」と過ごしている人には、自分を跳躍させてくれるチャンスが巡ってこない。より正確に言うなら、チャンスをチャンスとして気づくことができない。意識が鋭敏になっていないし、チャンスを生かす実力の蓄積がないからだ。あくまで、地道の積み重ねの先に、非連続的な成長は起こる。

 

〈合わせて読みたいグループ記事〉
○4-1:「成長」を考える①:「水平的成長」と「垂直的成長」
○4-2:「成長」を考える②:「連続的な成長」と「非連続的な成長」
○4-3:「成長」を考える③:「成長」をみずからの言葉で定義せよ
○4-4:「成長」を考える④:「成長」は目的ではない

 

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