第27回:上司が部下の提案に「納得できない気持ち」を抱いたときのコミュニケーション方法

部下を率いて組織運営に携わっていると、部下の提案に「納得できない」との思いを抱くことが少なくないものである。職場で相手の考えが自身とは異なり「その考えにはどうにも納得ができない」という状況に陥った場合、相手に「納得できない気持ち」を伝えながら“好ましい行動”を促すにはどうすればよいだろうか。今回はこの点を考えてみよう。

あからさまな叱責は反発心を醸成する

具体例で考えよう。例えば、営業部門の課長職である自分のところに、部下が新しい営業プランを提案してきたとする。ところが、どう見てもそのプランはコストが掛かり過ぎで、費用対効果が低いと言わざるを得ない。

コロナ禍で企業業績が悪化した後、売上が回復しきれていない自社の財務状況を鑑みれば、もっとコストを抑えた営業プランが必要だ。もちろん、そのことは事前に部下に説明済みである。それにもかかわらず、提出されたプランは相応の費用を要するものであった。

このようなとき、自身の意にそぐわないプランの提案を受けた課長は、「納得できない気持ち」をどのように部下に伝えればよいだろうか。「コストを抑えたプランを立案するように言ったのに、何でこんなに費用を掛けるんだ! もういいから、この間、私が説明したプランで進めなさい!」などと、部下を叱責したいところであろう。

しかしながら、自身の「納得できない気持ち」を伝えるために部下をあからさまに叱責するのは、有効な方法とは言い難い。得てして、叱責を受けた部下の心には、課長に対する反発心が芽生えがちである。その結果、上司に一喝された後の部下の行動は、“好ましい行動”になりにくいからである。

反発心は部下を“後ろ向きの行動”にと駆り立てる

叱責された部下の中には、自身の営業プランの正当性を示すために反論をする者がいるだろう。課長の指摘で自身のプランは現状の自社にそぐわないと気付いたとしても、「落ち込んだわが社の業績を回復させるには、このくらいの大胆な取り組みが必要です」などと反論し、なかなか納得しないかもしれない。

このようなケースでは、部下は自身のプランが不適切だと「頭」では理解できているものである。しかしながら、反発心を持った部下の「心」が、自身のプランが不適切である事実をどうしても認めようとしないのだ。

ヒトは「理屈」ではなく「感情」で動くものだからである。そのため、客観的に見て課長の指摘が妥当であるにもかかわらずしつこく反論を繰り返すなど、“非建設的な行動”を取ることになるのである。このような心理状態に陥った部下に対しては、どんなに理詰めで説明をしてもなかなか理解を得られるものではない。

また、反論はせずに「分かりました」と言い、しぶしぶ課長のプランで営業活動を始める部下もいるかもしれない。

しかしながら、課長に対する反発心が芽生えていることには変わりがないので、決して課長が考えた営業プランに真摯に取り組むことはない。「頭」では課長のプランのほうが適切だと理解できても「心」ではその事実を認めることができないので、「適当にやればいいや」などの気持ちになりがちである。

その結果、期待された営業成績が達成できないなどの現象が起こるものだ。「心」に反発心を抱いた部下は冷静な判断ができず、「営業活動を適当に行う」という“後ろ向きの行動”に走ってしまうのである。

部下の心理的安全性を高める『共感のメッセージ』

それでは、課長は自身の「納得できない気持ち」をどのように表現すればよいのだろうか。ひとつの方法は、部下の提案に『共感のメッセージ』を送ってから質問をすることである。

前述のケースであれば、「なるほど、よく考えられたプランだな。ところで、わが社はコロナ禍の業績低迷から回復しておらず、営業活動に割ける費用にも限りがある。もう少し費用を掛けずに行うにはどうしたらいいだろうか?」などと尋ねてみるとよい。

心の中では「コストを抑えたプランを立案するように言ったのに、何でこんなに費用を掛けるんだ!」と思ったとしても、ぐっと堪えて冷静になる。そして、「なるほど、よく考えられたプランだな」と部下の仕事に対して『共感のメッセージ』を送り、続けて「もう少し費用を掛けずに行うにはどうしたらいいだろうか?」と質問をするのである。

上席者がこのような対応を取った場合、多くの部下は自身の考えたプランがまずは一定の評価を受けたと理解するだろう。そのため、部下は心理的安全性を感じ取ることができ、“前向きな気持ち”を持つことが可能になる。その結果、課長からの「もう少し費用を掛けずに行うにはどうしたらいいだろうか?」との質問に対し、「どうすればいいだろう?」と真剣に考えるための心の準備が整うのである。

部下が考え抜いた結果、「課長のプランに取り組むべきである」との結論に達するかもしれない。そのような場合には課長の営業プランを採用したとしても、部下は何とか成果を上げようと一生懸命、営業活動に取り組むものである。部下が自分の意思で「課長のプランに取り組むべきである」と決定したからだ。

たとえ職場であったとしても、ヒトは「理屈」ではなく「感情」で動くものである。そのため、部下に“好ましい行動”をとらせるには、単に「理屈」で説得するだけではなく部下に“前向き”な「感情」を持たせることも必要だ。それを可能にするのがコミュニケーションである。企業の持続的発展のためには、一般的に考えられている以上にコミュニケーションの果たす役割は大きいといえよう。