人材戦略のヒントになる「中期経営計画」の企業事例やメリットとは? 作り方や策定の参考になる目的も解説

企業にとって経営理念が必要なのは言うまでもない。だが、それだけでは経営は成り立たない。経営目標を掲げ、いかに実現していくかといった経営計画を策定する必要がある。それは、従業員に向けて発信するだけではない。投資家や金融機関などにも示すことで、社外からの信用も得やすくなるだろう。経営計画において、最も重要となってくるのが「中期経営計画」だ。これは、3~5年後に向けて、どんな目標数値を掲げ、いかなる施策を実行していくのかを取りまとめたものだ。今回は「中期経営計画」の目的やメリット、作り方、企業事例などを詳細に解説していきたい。

策定の前におさえておくべき「中期経営計画」の目的や内容とは

「中期経営計画(Medium-term Management Plan)」とは、企業が今から3~5年後のあるべき姿、目指すべき像を具体的な数値目標やその実現に向けた施策を示したものだ。売上目標や利益目標、ROEなどの定量的な数値で示されることが多く、現状とのギャップを把握することにも役立つ。

企業経営を進める上で、単年度では難しくても数年以内には達成したいことがあるだろう。新規事業の黒字化や利益率の飛躍的な向上などが、その例だ。これらを「中期経営計画」に織り込めば、一定のスパンで進捗を管理していくことができる。

●「中期経営計画」の目的

「中期経営計画」の目的としては、主に以下の3点が挙げられる。

・自社の現状を把握できる
3~5年後の目標を策定する際、まずは自社の内部環境や外部環境の現状を把握・整理する必要がある。具体的には、自社の強みや弱み、市場の動向、競合他社の動きなどを理解しておかないといけない。それらを通じて、自社にどんな課題があるかを踏まえて「中期経営計画」を立てていく流れとなる。

・企業の方向性を明確化できる
「中期経営計画」において、自社が3~5年後のゴールを設定することによって、企業としての方向性も明確化できる。それが示されることで、今後どれだけの社員を採用すべきか、どの部署に重点的に要員を確保すべきか、システムや設備の更新をどう進めていけば良いかなども検討しやすくなる。

・従業員との相互理解を促進できる
「中期経営計画」には、自社のビジョンや経営目標・経営計画を社員と共有する目的もある。それによって、社員全員が同じベクトルに向かって業務に取り組んでいけるからだ。一体感や共有文化の醸成などによって、業務のさらなる効率化や社員のモチベーションアップにつなげられ、優秀な人材のリテンション対策にも役立つ。

●「短期経営計画」や「長期経営計画」との違い

経営計画には他にも、「短期経営計画」や「長期経営計画」などがある。それらが、「中期経営計画」とどう違うのかを説明しよう。

・短期経営計画
短期経営計画は、1年単位での短期的な経営目標や経営戦略、経営方針を設定したものだ。その目的は、1年間で何を達成すべきであるかという目標を共有することである。内容としては、具体的な行動目標や数値目標が中心となる。短期間での予実管理が可能なため、長期的な目標達成に向けた課題を把握しやすいのがメリットだ。

・長期経営計画
長期経営計画とは、5年~10年前後の経営目標を策定したものである。目的は、長期的なスパンでの企業理念や経営方針、経営ビジョンなどを共有することだ。長期的な経営戦略の展開計画を落とし込むこともあるが、メガトレンドを踏まえて正確に数値を予測するのはどうしても難しいだけに、ビジョンや将来像を提示する程度に留めることが多い。

●「中期経営計画」の内容

実際のところ、「中期経営計画」にはどんな内容が盛り込まれるのか。整理しておこう。

・理念
まずは、会社としてのパーパスや経営目的などを示した「経営理念」が欠かせない。具体的には、会社が果たすべき使命や存在意義となるミッション、会社が目指す姿を具体的な数値で表したビジョン、会社で共有する必要がある価値観・行動指針を掲げたバリューの3要素を指す。それらを社内外に提示し、共感・賛同を得ていくのも「中期経営計画」の目的と言って良い。

・環境
自社の強みや弱みを把握するためにも、内部環境と外部環境の情報も収集しなければいけない。それをSWOT分析やクロス分析などのフレームワークに基づいて、客観的に分析していく流れとなる。

内部環境とは、財務状況や組織体制、技術力、商品力などの経営資源を指す。これに対して、外部環境は自社が属する業界や市場の動向と競合他社の動きなどを意味する。

・戦略
内部環境や外部環境を多角的に分析することによって得られた結果を踏まえ、経営戦略を策定することになる。分析によって、併せて経営課題もリストアップされるだろう。それらをどう解決していくかについて示したシナリオが、「戦略」であるという言い方をしても良い。

経営戦略は成長戦略と競合戦略に大別できる。前者では、会社としてどの事業領域に注力するか、経営資源をどう配分するかなどの戦略を立てていく。一方、後者では競合他社に対してどうすれば優位に立てるかといった戦略を策定する。

・行動
経営戦略を策定したら、それを踏まえて各部門が達成すべき数値目標や取り得るアクションプランを決めなければいけない。それらが明確であればあるほど、社員のモチベーションも高まり、計画が実現しやすくなる。行動に落とし込んでいくためにも、5W1H(いつまでに・だれが・どこで・なにを・なぜ・どのように)はぜひ抑えておきたいポイントだ。

そもそも「中期経営計画」は企業にどのようなメリットがあるのか

次に、「中期経営計画」が企業にもたらすメリットについて考察してみたい。

●従業員のモチベーションが向上する

「中期経営計画」を策定し、企業としての目標や取るべき行動を従業員に明確化することによって、従業員のモチベーションを向上させられる。なぜなら、従業員が経営計画に関心を持つことで内発的な動機付けができるからである。

●社外の信頼が向上する

「中期経営計画」は社内にだけインパクトをもたらすわけではない。企業としての目標やその実現に向けたアクションプランが明確であれば、社外からの信頼も得やすくなる。実際に、金融機関では「中期経営計画」を融資の際の判断材料にしている。また、求職者も、「中期経営計画」があれば入社後の活躍イメージや企業の成長性なども判断しやすいだろう。

●短期経営計画が作りやすくなる

「中期経営計画」が設定できていると、そこから逆算して年度ごとにどのようなステップを踏んでいけば良いか考えやすくなる。自ずと、短期経営計画も立てやすい。

●長期経営計画とのズレを確認できる

「中期経営計画」で売上やROEなどの数値目標を設定することは、既に述べた通りである。加えて、長期経営計画と現状とのギャップやその要因を分析すれば、社内にどんな課題があるのかを浮き彫りにすることができる。ただ、さすがに5年~10年先となると、予想がつかないことが多いのも事実だ。計画通りに行くことは少ないといった方が良いかもしれない。そのズレを確認しやすくするためにも、「中期経営計画」を策定する意義がある。

●取り組まないといけない課題が明確になる

漠然と「業績を良くする」という目標を掲げられても、社員からすると腹落ちはしないだろう。それよりも、「3年後に売り上げを現在の2倍となる100億とする」と打ち出した方が、現場としても方針を決めやすい。その目標と現状を踏まえて、どれだけのギャップがあるのかなど、取り組むべき課題を明確にすることができる。

作り方や人材戦略の参考になる「中期経営計画」の企業事例

最後に、「中期経営計画」の企業事例も紹介したい。

●コクヨ

同社は、「長期ビジョンCCC2030」の達成に向けて、自らの社会における役割を「WORK & LIFE STYLE Company」と再定義し、文具や家具といったカテゴリにとらわれない、豊かな生き方を創造する企業となることを目指している。

長期ビジョン「CCC2030」においては、長期的な視点でサステナブルな経営に舵を切るべく、森林経営モデルへと移行し、さまざまな事業集合体へと進化していくことを策定した。2030年には売上5000億円もの企業となることを掲げている。設定した事業領域は2つ。ファニチャー事業やビジネスサプライ流通事業をカバーするワークスタイル領域とステーショナリー事業、インテリアリテール事業を指すライフスタイル領域だ。まさに、「WORK & LIFE STYLE Company」となることが、同社が目指すありたい姿と言える。

そのビジョンと売上目標の達成に向けて2021年11月に策定したのが、第三次中期経営計画となる「Field Expansion2024」だ。ここでは、既存事業のブラッシュアップや領域拡張、新規ニーズの事業化を進め、持続的な成長を図っていくことがメッセージ性高く示されている。それによって、2024年度に売上3,600億円、営業利益率7.6%を実現するというのが、第三次中期経営計画のゴールだ。
「中期経営計画」には取るべき行動が提示される。それぞれをどこまで取り組めているかを定期的に確認することで、目標達成への進捗度を把握しやすい。また、融資や助成金を受けるときにも役立つ。さらには、「中期経営計画」は効率的、効果的な採用活動を進めるためにも欠かせない。求職者に自社が目指す姿を理解してもらうことで、ミスマッチの抑止に繋げられるからである。

これらの多大なメリットを享受するためにも、ぜひ取り組んでもらいたいが、なかには「中期経営計画」を策定したものの社内に浸透しておらず、あまり実行されていないというケースもあるかもしれない。この機会に、「短期経営計画」や「長期経営計画」も含め、目的と手段の照らし合わせはもちろんのこと、社員へのヒアリングもしてみてはいかがだろうか。