人事を変える集合知コミュニティ HRアゴラ

「具体的に指示されなければ行動できない社員」の育成処方箋

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2016年03月26日

人財育成担当の方々とのミーティングで、つねに相談項目にあがるのが「ともかく具体的に指示されなければ行動できない社員の行動を変えるためにはどうすればよいか」です。

それは私も若年層のマインドセット研修をやっていてつねに感じることです。講義の内容が具体事例になると反応して話をよく聞いてもらえるのですが、少し話を抽象化して本質論議になると、気が散ってしまい目線が落ちる人が少なからずいます。おそらくそういう人が、仕事の現場で具体的な指示には動けるのだけれど、チームの目的や担当事業の提供価値から逆算して自分のやるべきことを推し量って動くまでにはいかない人なのだと思います。

かといってそういった人たちの意欲が低いというわけでもありません。むしろ情報や知識は吸収しようとしています。ただ、学校受験のときから身に染みつけてきた具体的な成功事例、具体的なハウツー情報を摂取し、そこから傾向と対策を練ってなんとか乗り切るというクセが抜けていないからかもしれません。要は、ものごとをいったん抽象化して本質・原理をつかみ、そこから自分なりに具体的に方策を考え出すという訓練をあまり受けてこなかったように思われます。

本稿のタイトル―――「具体的に指示されなければ行動できない社員への育成上の処方箋」に対する私なりの答えは次の2つです。

・1つめは精神面の処方箋で:仕事を「自分ごと」にすること
・2つめは技術面の処方箋で:具体と抽象の往復をさせること

1つめはそれ自体で大きなテーマですので、別の機会に触れさせていただくことにして、本稿では2つめの処方箋につき「コンセプチュアル思考」の観点から述べていくことにします。


◆「on=~の上に」ではない!?

私たちは日々、事業の現場で雑多な情報や状況に対処しながら仕事を進めています。そのときに、物事を抽象化してとらえる能力はきわめて重要です。それは目の前の課題を処理する直接的な知識や技術よりも重要かもしれません。なぜなら、物事を個別具体的にとらえるレベルに留まっていると、永遠に個別具体的に処置することに追われるからです。そのことを次の例で押さえてみましょう。

下に並べたのは英単語の問題です。それぞれのカッコ内には前置詞が入ります。1つ1つ答えてください。

・a fly[       ]the ceiling (天井に止まったハエ)
・a crack[       ]the wall  (壁に入ったひび割れ)
・a village[       ]the border  (国境沿いの町)
・a ring[       ]one’s little finger  (小指にはめた指輪)
・a dog[       ]a leash  (紐につながれた犬)


……さて、どうでしょう。


正解は、すべて「on」です。
ところで、私たちは前置詞「on」を「~の上に」と習ってきました。習ってきたというか、暗記してきました。そうした暗記的なやり方で英語と接してきた人は、「天井にさかさまに止まった」とか「壁に入った」とか、「国境沿いの」などの言い表しと「on」が直接的に結びつかないので、それぞれの問題にすぐさま「on」が思い浮かばなかったでしょう。そして正解を見た後に、「そうかonだったか」と言って、また1つ1つ丸暗記していくことになります。

これに対し、いま私の手元にある一冊の英和辞典『Eゲイト英和辞典』(ベネッセコーポレーション)の帯には、こんなコピーが記載されています───

「on=『上に』ではない」と。

さっそく、この辞書で「on」を引いてみます。すると、そこに載っていたのは、下のような図でした。

1.4 a core on

「on」は本来、縦横・上下を問わず「何かに接触している」ことを示す前置詞だというのです。確かにこの図をイメージとして持っておくと、さまざまに「on」使いの展開がききます。

この辞典は、その単語の持つ中核的な意味や機能を「コア」と呼び、それをイラストに書き起こして紙面に多数掲載しています。10個の末梢の使い方を暗記するより、1つの中核イメージを頭に定着させたほうがよいというのが、この辞書づくりの狙いです。まさにこの「コア」に基づく単語学習が、物事を抽象化して把握することにほかなりません。

私たちは、物事の抽象度を上げておおもとの「一(いち)」を本質としてつかめば、以降、一貫性をもってそれを10通りにも、100種類にも応用展開することができます。逆にいえば、抽象化によって「一」をとらえなければ、いつまでたっても末梢の10通りや100種類に振り回されることになります。1,000パターンにも覚えることが広がったら、もうお手上げでしょう。

「一」をつかんだ者は、1,000のパターンにも対応がきくし、その「一」から発想した1,000のパターンは、抹消にとどまっていたときの1,000パターンとはまったく異なったものになるでしょう。独自性のある強い発想というのは、必ずといっていいほど、その本人が見出した本質の「一」を基にして、それを現実に合うように具体化するというプロセスを経ているものです。

すなわち「多」→「一」→「多」。

 

1.4 b 一対多

多から一をつかみ、一を多にひらくこと。この思考プロセスが、コンセプチュアル思考の骨格となる流れです。


◆「成功本」ばかり読んでも成功しない人

書店に行くといわゆる成功本がたくさん並んでいます。そこには仕事・人生で成功するための具体的方法が、著者それぞれの観点から説き明かされています。また本ならずとも、成功事例は、新聞にも雑誌にもテレビにも溢れています。

昨今は、ともかく具体的に、具体事例を、という情報要求が強まっています。確かに具体的なハウツーの話はわかりやすく、すぐに真似ができます。しかし、あまりに具体の次元で埋没してしまうと、抽象の能力を衰えさせることにもつながります。成功本依存の人は、ある種、マニュアルを欲し、マニュアルどおりにやることに安心を得る状態になってしまいます。上司から具体的な指示を期待し、その通りに真面目にやることで自分の仕事をまっとうしていると勘違いする社員もこの種類に属します。

成功本・成功事例を具体的に知るということは、「型を覚える」という入り口にしかすぎません。それをそのまま漫然と真似し続けるだけでは、根本的な成長や成功はありません。多くの具体事例をいったん抽象して、自分なりに本質や原理をつかんでみる。この本質や原理というのは仕事現場で言えば、自分が果たす役割、担当する製品・サービスの提供価値、チームのビジョンと置き換えてもいいでしょう。そのうえで、具体的な行動・方法にひらいていく。この思考プロセスを踏んで、仕事をみずからつくり出せるようになるのが「自律」ということだと思います。

下図に示したとおり、

表面的な模倣に終始する「多」→「多」なのか
本質をつかんだ上での「多」→「一(いち)」→「多」なのか

この差は実に大きいものです。

1.4 c 一対多

本質の「一(いち)」をつかむ能力、すなわち抽象と具体を往復する思考力は個人によってほんとうに差が出ます。このところを鍛えるのが「コンセプチュアル思考研修」でもあります。その方法論についてはこのシリーズ記事で追々紹介したいと思います。

 

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【シリーズ】コンセプチュアル思考
〈第1回〉~新・思考リテラシーへの誘い
〈第2回〉~「コンセプチュアル思考」とは何か
〈第3回〉~「成長」欠乏不安症の若手に必要なのは成長「観」の醸成 
〈第4回〉~「具体的に指示されなければ行動できない社員」の育成処方箋
〈第5回〉~リーダー・マネジャーに必要な思考技術~ロジカル思考を超えて

 
〇キャリアポートレートコンサルティングの『コンセプチュアル思考』研修 の
詳細については次の資料をご覧ください →PDF資料

 

〇『コンセプチュアル思考の教室』ウェブサイト開設 (ワークショップ開催中) http://www.conceptualthink.com/

 

 

 

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