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採用担当者の「目線」はなぜすり合わないのか―採用活動の教科書・応用編―

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2015年12月15日

 

※本コラムは株式会社リクルートキャリアが外部有識者に依頼・執筆いただき、掲載しております。

 

曽和 利光

≪コラムニスト プロフィール≫
曽和  利光 (そわ・としみつ)
1995年(株)リクルートに新卒入社、人事部配属。
以降、一貫して人事関連業務に従事。採用・教育・組織開発などの人事実務や、
クライアント企業への組織人事コンサルティングを担当。
リクルート退社後、インターネット生保、不動産デベロッパーの2社の人事部門責任者を経て、
2011年10月、(株)人材研究所を設立。
現在は、人事や採用に関するコンサルティングとアウトソーシングの事業を展開中。

◆イントロダクション

こんにちは。組織人事コンサルタントの曽和利光です。
今回は、採用担当者の選考における 「目線合わせ」 について述べたいと思います。
多くの会社で、この 「目線合わせ」 は課題とされています。
確かに、採用担当者毎に異なった基準で選考をしていては、
本来合格すべき人を落としてしまったり、採ってはいけない人に内定を出したりと、
ちぐはぐな採用結果になってしまいます。
では、どうすれば採用担当者の 「目線」 はすり合うのでしょうか。
採用担当者の 「目線」 が合わないのは、主に以下の4つの段階のどこかに原因がある場合が
考えられます。

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この4段階は、採用担当者が自社に合う人材を探し出し、判定するためにたどる流れです。
このうちのどこかで躓いてしまうことで、「目線がすり合わない」 という状態になります。
Step1、2は、採用担当者個人というよりは、会社として、
もしくは採用チームとして、すべきことができていない状態といえます。
Step3、4は、会社や採用チームとしてすべきことはできていても、
実際に担当する採用担当者個人のスキルレベルにおいて問題がある状態といえます。
別のいい方をすれば、まず1、2が出来ていない状態で、
3、4を解決しようとするのは、原理的に不可能です。
しかし、意外に多くの会社が1、2をきちんと対応しないままに、
採用担当者個人の問題に 「すり合わない」 原因を求め、なんとか解消しようとする無益な努力をしています。
まずは1、2、その後3、4という順番で、 「すり合わせ」 の問題は解決せねばなりません。
では、はじめに会社側、採用チーム側がすべきことから見ていきましょう。

 

◆会社側がすべきことは「求める人物像」の明確化

 

<Step1: 「求める人物像」 の定義が曖昧>
そもそも合わせるべき基準である 「求める人物像」 が曖昧では、当然ながら「目線」がすり合うはずはありません。
「いや、うちは求める人物像は明確だよ」という皆様においても、
もう一度自社の 「求める人物像」 を確認してみてください。以下のようなことは起こっていませんでしょうか。
■ 「地頭」 「コミュニケーション力」 「ストレス耐性」 などの、
Big Word (大雑把に括り過ぎで、それだけでは意味が一義的に決まらないような言葉)
で構成されている
いわゆる、「言語明瞭、意味不明」な定義であり、
結局は何にも定義していないのと同じ。


■ 「主体性」 「自責」 など、社会的望ましさの高い言葉
(現代の風潮において、あまり深く検討されることなく、
一種の思考停止で 「望ましい」 とされている言葉) を多く用いている
主体性が高いということは 「いうことを聞かず、生意気」 であったりもするが、
実は 「素直」 な人を求めていたりする。
あるいは、 「自責」 を求めていながら、自分だけで問題を処理するのでなく、
他人を巻き込んで変えていくことで成果を生み出すような
「他責」 (問題の原因を環境に求め、それを変えようとする、という意味で)
の人を欲していたりする。


■ 「敏感性」 (細やかな気配りで小さな変化にも気づく力) と
「曖昧耐性」 (曖昧な状況に耐える力) のように、
なかなか両立しにくいような要素 (全く両立しないというわけではないが)
を明るく並立させて、ともに必要だとしている。
そんな人は世の中にいないために、結局、
どちらを重要視すればよいかが分からずに混乱してしまう。


■ 「自立」 と 「自律」 、 「創造」 と 「想像」 というような、
本当は意味が異なる 「同音異義語」 を区別無く用いている
例でいえば、自立はindependent、自律はself-control、創造はcreation、
想像はimaginationと英語などに変換してみると、その違いがわかる。
また、意味が違うだけではなく、上記例でいえば、
創造はスティーブ・ジョブズの才能のような 「人の内側から外に」 出てくる力であるのに対し、
想像は高級ホテルのサービスのように相手の気持ちに配慮して気配りのできる、
「人の外側から内に」 入ってくる力ともいえ、まるで反対のことをいっている場合もある。

<Step2: 「求める人物像」 のイメージが曖昧>
言葉としての 「定義」 が明確でも、
結局、採用担当者の方々の頭の中にあるキャラクターイメージが異なっていれば、
もちろん目線はすり合いません。
明確に定義した言葉のイメージをすり合わせるには、誰かを例にするなどして、
みずみずしい人物像を語り合っていくしかありません。
最も適切なのは、実際の社内の人を例に
「○○さんの、○○する時のような、○○力」 などと、
具体的にイメージしていくことです。
もし、社内に適切な人がいなければ、
誰でも知っている世の中の著名人を例にしてもよいですし、
歴史上の人物やアニメのキャラクターなどでもよいかもしれません。
マーケティングの世界では、
「ペルソナ・マーケティング」 としてよくあるやり方です。
自社の商品やサービスの対象となる「代表的な顧客像」を、
単なる属性のデータ(平均年齢等)ではなく、
「どこに住んで、どんなペットを飼っていて、趣味は何で、
好きな芸能人は誰で、よく見るテレビ番組は何で……」
と具体的なイメージ (ペルソナ) で想像することで、
「その人なら、この商品に対してこう思うだろうから、こう改善しよう」と議論していく手法です。
採用においても同じようなことをすべき、ということです。
例えば、明確な言葉で定義した、
「その学生」 は、アルバイトはチェーン店のカフェなのか、塾講師なのか、
サークルなのか体育会なのか、恋人はいるのか、車は乗っているのか……
等々、想像するのです。
この想像を採用担当者の皆さん全員でするというプロセスを通じて、
言葉の 「イメージ」 がすり合っていきます。

◆担当者がすべきことはインタビュー、
 アセスメントのスキルアップ

前頁は採用チーム全体で行うべきことでしたが、
ここからは採用担当者個人で問題解決をすべきところ、個人のスキルの問題になります。
Step3はいわゆる 「インタビュー」 (≒情報収集) のスキル、
Step4はいわゆる 「アセスメント」 (≒人の見立て) のスキルです。
両者に共通するのは、これらのスキルは何かの知識をインプットしたからといって、
たちまち解決できるものではないということです。
私は、面接はスポーツのような「技能」であると思っており、
実際に無数の面接経験を通じてしか改善されていかないものと考えています。
一流になるには基礎的な訓練を1万時間は経なければならない
「1万時間の法則」 という経験則が有名ですが、面接という技能にも当てはまると思います。
しかし、千里の道も一歩から。まずは、問題を認識しなければ改善もありません。
次の2つのStepにおいて、陥りやすい状況を例示してみます。

<Step3: 「求める人物像」 を確認するために必要な情報が獲得できていない>
いくら網羅的にインタビューをしたつもりでも、
多くの人は聞く領域に偏りがあるのが常です。特に代表的なものは以下のような偏りです。

■ 学業などの正課ではなく、アルバイトやサークルなどの課外活動ばかり聞いてしまう
学生時代に一番頑張ったことは、勉強や学問であるという人もたくさんいます。
また、学生時代に社会人の真似事をしてアウトプットをしている人だけが
素晴らしいわけではなく、一生懸命インプットに精を出したという人も大器晩成、
その後伸びることが多いと思います 。
(むしろ、学生時代のような若い時期人と会ったり、旅に出たり、
書物を読んだりといったインプットに励んでいない人は、
最初はよくてもその後失速する例が多いように思います)。

■ 採用担当者自身がよく知っている領域のことの場合、
相手が答えてもいないことを勝手に想像して当てはめてしまい、きちんと聞かない
同じ学問専攻や、同じクラブ・サークルなどの、
採用担当者自身が勝手知ったる領域の話を学生がしだしたら、
「ああ、あれはあのことね。知ってる、知ってる」 と、学生に聞きもせず
(なので学生は答えていない) 、勝手に自分の先入観で相手を評価してしまう
(この場合、特に 「過大評価」 してしまうことが多いようです)。
私は、採用担当者のトレーニングをする際に、 「バカになって相手の話を聞こう」
(=知っていることも、知らないつもりになって聞こう) といっています。

■ 定性的な内容については聞けているが、定量化できるような質問ができていない
あうんの呼吸が通じる仲間同士とばかり過ごしてきたような、
コミュニケーション能力がまだまだ未熟な学生の場合、
「話を明確化せずに、ぼかす」 傾向が顕著です。
例えば、 「長い間」 「大きい店」 等、曖昧な言葉を多用します。
ですから、採用担当者としてはすかさず、 「何カ月」 「何席」 と定量的な質問を
しなくてはなりません。
そうしなければ、定性的にどんなことをやったかはわかっても、
それが 「どのぐらいのレベル」 で行われたのかが分からず
、結局、採否を決める情報は得られないことになります。
あるいは、勝手な想像でレベル感を想定してしまいます。
他にも、インタビューの癖はいろいろありますが、他の採用担当者に同席して、
彼らのインタビューを聞くなどして、それに気づくことが大事です。

<Step4: 採用担当者が自分の 「人を見る目のバイアス」 に気づいていない>
最も根深いのが、これです。Step3までがきちんと解決されていて、
全く同じ情報を聞いているのにも関わらず、結果としての評価が違う場合、
採用担当者個人の人を見る際のバイアス 
(≒偏見、好き嫌い、得意不得意) に問題がある場合があります。
もちろん、人の好き嫌いなどのバイアスは、誰にでもあるもので、無くすことはできません。
しかし、それにきちん と「自覚的」 であることは採用担当者として大変重要です。
この 「人を見る目のバイアス」 に対する自己認知を高めるには、
他の面接担当者、特にスキルの高い上位選考の面接担当者からの
フィードバックを受けるしかありません。

上位選考担当者と面接等で同席した場合、
勇気を持って自分からその評価をぶつけてみてください。
そして、意見が違った場合こそが、自己認知を高めるチャンスです
(そのために、上位選考者は、すり合わせの前に自分の判断を
悟られないようにしなくてはなりません。
上位選考者が下した評価を知った上で、
正直な自分の評価を伝えられる下位選考者は多くはありません。
下位選考者の評価を聞くまでは、上位選考者はポーカー・フェイスが基本です)。
同席しているということは、情報量には差はありません。
つまり、 「アセスメント」 「人を見る目のバイアス」 に問題があるということです。
同じことを2人がどのように違って評価したのか、それはなぜなのかを考えることで、
採用担当者自身の中にある 「バイアス」 がおのずとわかってきます。
自分の中にあるバイアスを見つめることは勇気のいる作業です。
誰しも自分が偏見を持っていることを認めたくはありません。
しかし、採用担当者たる以上、ここは真正面から向き合う必要があります。
「自分がどんな人が好きで、どんな人が嫌いで、どんな人が得意で、どんな人が苦手か」
が分かれば、そうした学生に出会った時にセンサーがきちんと働いて、
より精緻にインタビューやアセスメントを行うことができるはずです。

以上、今回は、採用担当者の 「目線合わせ」 について述べました。
「目線合わせ」 は一朝一夕ではできない難しい作業です。
だからこそ、それができるようになれば採用上の競争力になりますので、
できるだけ早く、改善活動をスタートすることをお勧めいたします。

 

 

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